閑話・異世界の神々への対応
世界の狭間にある異空間にて、アリスが鶏肉をまな板の上に置いて慣れた様子で切っていた。その様子を後ろから覗き込むようにして見つつ、マキナが呟く。
「高級肉じゃなくてよかったの?」
「なんでもかんでも品質のいいものばかりが最善でもないでしょう。焼き鳥に超高級肉使ってどうするんすか……いや、それはそれで美味しいでしょうけど、安っぽく感じるような味わいも存外悪くないもんですよ」
「あ~それは分るかも、確かに高品質のお肉は美味しいけど、それはそれとして少し硬めで歯ごたえがある肉に、濃すぎるぐらいのタレや塩で食べるのも美味しいよね。あっ、アリス! 私からあげも食べたいな~」
「……自分で作ればいいのでは?」
「ちっちっち……私は、アリスの手料理が食べたいんだよ。別に料理だけなら完成品創造すればいいし、こういうのじゃなくてこう、真心っていうか愛情が籠ったような……」
「カイトさん相手とかならともかく、マキナ相手に作る料理に果たして愛情が入りますかねぇ」
「え~そこをなんとか……愛しい我が子に向けるのよりは小さいのでいいから、ね? ほら、私、場所も食材も提供してるわけだし……ね?」
注文の多いマキナに対しジト目を向け、呆れたように溜息を吐きながらアリスは切った鶏肉を串に刺して焼いて行く。
パチパチと炭火の音が聞こえ、じんわりと鶏肉に焼き色が入っていくのを眺めつつ、マキナに声をかける。
「とりあえず、適温の油入った鍋出してください。からあげ欲しいんでしょ?」
「は~い……こんなところかな!」
「なんでも創造できる相手に料理してるのは、凄く無駄な工程な気もしますね……」
「あいたっ!? なんで、いきなりデコピンしたの!?」
「なんとなくですね」
「理不尽っ!?」
なんだかんだ辛辣な態度は気安さの表れでもあり、互いに親友同士ということもあって雰囲気はどこか楽し気なものだった。
「……それで、今回はなんでまた急に一緒に食事しようなんて言い出したんですか?」
「アリスと食事したかったのもあるんだけど、愛しい我が子の誕生日パーティに関して意見が欲しくてね」
「……あぁ、会場となる世界が完成したのでそろそろ関係者に話を通して準備を本格的に進めていくってことですね。いいんじゃないですか、会場や出し物の準備を抜きにしてもカイトさんへの誕生日プレゼントの用意とかありますし、早めに知らせておくに越したことは無いでしょう。カイトさんが感づかないかが心配……いや、カイトさんなら変なところから勘付いててもおかしくないですね。それが無いってことは、マキナかシャローヴァナル様が対策したんすね」
「相変わらず話が早いというか、全部先読みしちゃうからこっちが説明することないよ……まぁ、アリスが問題ないっていうならその感じで進めようかな。う~ん、いい匂いだね~」
頭の切れるアリスは、マキナがさわり程度の内容を話しただけでほぼ正確に読み取り、快人の誕生日パーティの進行段階について賛成した。
それに満足げに頷いたあとで、マキナはどこからともなく日本酒をお猪口を取り出して、テーブルの上に置く。するとそのタイミングでアリスの料理も終わり、焼き鳥とからあげがテーブルの上に置かれた。
「日本酒ですか、懐かしいですね」
「旅館で一緒に飲んだよね。あの時は刺身だったけど、からあげとか焼き鳥にも合うよね。はい、どうぞ」
「どうも……それはそれとして、私が気がかりなのは他所の世界とかから変なのが来ないかどうかなんですが……前の船上パーティの例もありますし……」
「もぐもぐ……う~ん、やっぱりアリスの料理は美味しいね! ……おっと、アリスの懸念だけど……まぁ、ご明察というか、いっぱい来てるよ要望……愛しい我が子のモテ具合が凄いよ」
「本当に、なんで会ったこともない神々の脳を強火で炙ってるんすかあの人は……」
たれと塩でシンプルに味付けされた焼き鳥を美味しそうに食べながら話すマキナを見て、アリスはどこか呆れたような表情を浮かべつつお猪口を傾けて日本酒を飲む。
「それだけ、シャローヴァナルに勝ったってのは大事件だし、それ以上にネピュラを復活させるきっかけになったのが大きいね。あまねく神々の頂点にして究極神って肩書は伊達じゃなくて、ネピュラを慕ってる神々って滅茶苦茶に多いんだよね。流転神……カナーリスから聞いた話だと、もう世界創造主たちの間に愛しい我が子のファンクラブみたいなのもできてるみたいだよ。まぁ、愛しい我が子の魅力が広く知れ渡るのは母としても鼻が高いけど、問題が無いわけじゃないんだよね。とにかく多すぎて参加させるわけにはいかないし、プレゼントだけ許可するにしても異様な数になっちゃうんだよね……なんかいいアイディアないかな?」
「う~ん。くじ引きかなんかでカイトさんに選ばせたらどうっすか? 5人とか10人とか人数決めておいて、カイトさんにくじで引いてもらって当たった相手からはプレゼントを預かる。プレゼントに関しても、制限とかルールを決めて凄すぎるものにならないようにって感じで……カイトさんの運はチートですし、適当に引けば都合のいい相手を引くでしょ」
「なるほど、それは確かにいいかも……愛しい我が子が抽選した結果っていうなら、世界創造主たちも文句は無いだろうし、じゃあその形でシャローヴァナルに提案してみるよ」
異世界の神々に関しての対応もある程度決まり懸念事項が減ったため、マキナは表情を緩めて食事を楽しみだした。
「アリス! からあげ食べたい!」
「勝手に食べればいいでしょうが……」
「あ~ん」
「……」
「あ~~~ん」
「……まったく」
口を大きく開けて催促するマキナを見て再び呆れた様子で溜息を吐いたあとで、アリスは苦笑してからあげを箸でとってマキナの口に運んだ。
シリアス先輩「マキナって、快人相手には母ぶったり甘やかしたい的な感じだけど、アリス相手にはワガママ言ったり甘えてることが多い気がする」