特別商品⑮
とりあえずガラスのインテリアとコップはシエンさんにプレゼントすることになり、主な目的は果たしたのでそのあとはのんびりお茶を飲みながら雑談をする。
「けど、カイトのところのネピュラは凄いね。陶磁器とかガラス製品もそうだけど、紅茶も凄いんじゃなかったっけ? なんかアイ姉が大絶賛してたよ」
「ええ、というか最初は茶葉とか細工砂糖でしたね。そのあとで木工とか陶磁器作成をやるようになって、いまはガラス細工とか……たぶん物作りが好きなんだと思いますよ。手持無沙汰なので暇つぶしの一巻って本人は言ってましたけど、結構凝り性なところがあるので……」
ネピュラもイルネスさんも最近は物作りが趣味という感じになっており、ふたりともアレでかなり凝り性なところがあるので、かなり深い見識を持って作成をしているように思う。
というか、ふたりが失敗するパターンは基本的に凝りすぎて実用性に難があるとか、そういうパターンなので一度始めると最高のものを作ろうって考えるタイプなのかもしれない。
最近はそこにカナーリスさんという絶大すぎるサポートが加わったことで、出来る範囲が爆発的に広がっており、なんだかんだでネピュラとイルネスさんも楽しそうだった。ちょっと前には世界樹の木材を使って食材をスモークしたりしてたので、物作りというよりは単純にいろいろ試行錯誤してみるのが好きなのかもしれない。
「そういえば、最近クロム様がなんかしてるみたいなんだけど、カイトは知ってる?」
「クロがですか? それは具体的にどんな?」
「さぁ?」
「い、いや、この流れでトーレさんが首をかしげるのはおかしくないですか?」
クロがなにかしているみたいだが心当たりはないかと聞いておいて、具体的な内容を聞くと首をかしげる。まるで根拠とかなにもなく勘で言ってるような印象さえ受けるし、トーレさんならそれもありえそうな気さえする。
そんなことを考えていると、チェントさんとシエンさんが不思議そうな表情を浮かべながら口を開いた。
「それ、トーレ姉さまが最近よく言ってますが、本当にクロム様がなにかしてるんでしょうか?」
「私やチェントが見ても、不思議なところは無いですし、特に新商品とか新事業をって雰囲気でも無いですよね?」
「う~ん、そういわれると自信はないかなぁ。私もただ勘というか、なんとなくクロム様がなにかしてる気がするな~って思っただけだしね。でも、私の勘はよく当たるんだよ」
「え? そうなんですか?」
どうやらトーレさんは特に何か根拠があるわけではなく、なんとなくクロがなにかをしてる気がするという勘で発言していたみたいだ。
俺が感応魔法で「なんとなく」でなにかを感じ取ったりというのとも違い、トーレさんは100%ただの勘ではあるのだが、本人は自信ありげだった。
「うん。的中率はざっと2割ってところかな!」
「……低いじゃないですか」
「本当にただの勘だしね~2割当たるなら上等じゃないかな? まぁ、カイトが知らないなら私の気のせいかもしれないね。『クロム様が本気で隠そうとしてたりしない限り』、なにか隠してやっててもカイトなら気付きそうだしね」
「そうですね。特にこれといって最近のクロに不自然なところは無かったですね」
「じゃ、気のせいか~」
トーレさんに言った通り、定期的に夜に遊びに来るクロの様子を見ても不自然に感じた部分はない。まぁ、そもそもトーレさん自身ただの勘と言っていたし……ああでも、違和感といえば、ちょっと前にリリアさんが変に疲れたような顔をしてた気がする。
リリアさんの事だからなんか厄介事だとは思うのだが、それがクロに関係してる?
(……)
う~ん、いやリリアさんの件はクロとは関係ないな。というか、よくよく考えてみれば別にリリアさんの様子にもあまり違和感はなかった気がしてきた。
うん、この件に関しては特に気にしないことにして、トーレさんたちとの雑談を楽しもう。
神界にある神域ではシャローヴァナルの後方で、マキナがなんとも言えない表情を浮かべていた。
「……う~ん、愛しい我が子の精神に干渉したのには若干文句も言いたいけど、こればっかりは仕方ないか……」
「ええ、私も不本意ですが……いまの時点で気付かれるとサプライズ感が無くなってしまうので」
「あそこで、リリアの様子に思い至る愛しい我が子の勘の良さは流石だね~。う~ん、これはいちおう世界全体にこの件に関することには疑問は抱けないってしておいたほうがいいだろうね」
「そうですね、そうしておきましょう。あの発言からリリアの様子を思い浮かべる勘の良さなら、どこから辿り着くか分かりませんし……」
先程の快人の疑問は、シャローヴァナルやマキナにとっては若干都合が悪いものだった。クロムエイナは快人の感応魔法の対策も含めて上手く誤魔化しており、カナーリスやアリスも問題は無いだろうが……リリアに関しては、快人が対面して質問をした場合、誤魔化したとしても勘の良さで気付かれてしまう可能性があった。
それにそもそもリリアは嘘を付くのが苦手なので、シャローヴァナルたちが対処しておいた方が確実と言える。
「まぁ、もちろん愛しい我が子にもいずれ伝えるんだけど、その辺は全部の準備ができてからだね」
「そうですね。会場となる世界の創造は終わりましたし、そろそろリリアと人界の王たち以外の関係者にも伝えて本格的に準備を進めましょう。あとは……他の世界から参加を希望している者たちの対応ですね」
「愛しい我が子の人気が凄いよ……でも、この辺の世界創造の神とかを好き勝手に参加させると問題だし……でも、愛しい我が子を祝いたいって気持ちはいいと思うし……プレゼントだけ許可とかにするのがいいかもね」
そんな風に話しながら、快人の預かり知らぬ場所で着々と誕生日パーティの準備が進行していた。
シリアス先輩「胃痛者を増やすだけじゃなくて、しっかり快人への胃痛の準備も進んでいるとは恐れ入った……」