特別商品⑭
とりあえず陶磁器の披露は終わったので、次はガラスのインテリアを見せようと思うのだが、チラリとシエンさんの方を向くと期待と不安が織り交じったような、なんとも言えない表情を浮かべていた。
「……えっと、シエンさん。次はガラス細工を出そうと思うんですが……」
「いまのこの気持ちは、なんと表現すればいいのか判断に迷います。目の前でチェントが胃を痛めているのを見ると非常に恐ろしくもあるのですが、同時にどんな作品か見てみたいという気持ちも強い……こ、これは相当の覚悟を決めねばならないかもしれませんね」
「あ~えっと、ガラス細工の方は本当に最近始めたばっかり見たいで、特に新しい製法とか特殊な技術とかは使ってないみたいですよ。ネピュラが言うには、そういった新しい挑戦の類は、基礎をしっかりと固めてから行うつもりらしいです」
「なるほど……それでしたら安心ですね。確かに、最近始めたばかりであれば、まずは基礎的なガラス製品を作れるようになるところからでしょうし、ガラスはかなり繊細なので複雑な細工は難しいですからね。そういうことでしたら、純粋に新鋭の作品ということで楽しませていただきます」
実際ネピュラは陶磁器に関しては結構前から作っており、イルネスさんと日々試行錯誤しながら楽しんでいたので、今回俺の思い付きのような言葉から新製法や釉薬を開発することが出来たのだろう。
それに対してガラス細工の方はカナーリスさんが来てからになるので、まだそこまで経験値という意味では多くない。実際ネピュラもまだまだ満足はしていない様子だった。
俺の目から見ればネピュラの作品は見事の一言なんだけど、シエンさんのようにガラス細工に詳しい人が見ればまた違うのかもしれない。
そんな風に考えながら俺が取り出したのは、ネピュラが自身の宿る世界樹をモデルに作ったガラスのインテリアだった。
ガラス製のインテリアもいくつか作っており、ベルやリンをモチーフにしたインテリアは俺が貰って卓上に飾っている。
今回持ってきた世界樹のインテリアも俺の目から見ればかなりの完成度であり、葉の一枚一枚まで拘ってるように感じられる。
「………………」
「シ、シエン? 大丈夫ですか? 私の目から見ると、とてつもない作品に見えるんですが……」
机の上に置かれたインテリアを見て、表情が固まったシエンさんにチェントさんが心配そうに話しかける。シエンさんはその言葉に反応することは無く数秒硬直したのち、インテリアに顔を近づけて呟く。
「……し、信じられません。こ、こんなにも澄んでいて、かつ複雑なガラスのインテリアを浅い経験で作り上げたというのですか? し、しかもこれ、接合した痕跡が無い!? パーツごとに分けて作成したわけではなく、ひとつのガラスでここまで……」
「う~ん、私はガラス細工とかあんま詳しくないんだけど、シエンが驚くってことは凄いの?」
「凄いなんてもんじゃないですよ! 確かに、特殊な技術は使われていません。ガラス作りの基礎といっていい技術を中心にしていますし、特殊な素材を用いたガラスなどでも無いです。これと同じものを作れる職人は存在します。ですが、それはガラス作りにおいて世界トップクラスの職人……ハッキリ言って、ネピュラさんのガラス作りの技術は、私を遥かに超えています。特にこの葉の造りなどは、芸術です。ガラス製品の展覧会に飾ってあったとしても、まったく違和感が無いほどです。た、確かに陶磁器などの技術を応用できる部分もありますが……初めて間もない状態でここまでとは、ネピュラさんの才能には圧倒されますね」
どうやらガラス細工に詳しいシエンさんの目から見てもネピュラの作品は素晴らしいみたいで、驚きながらも大絶賛という感じだった。やっぱりネピュラは凄いと俺も誇らしい気分ではある。
「ネピュラ本人はまだまだ基礎を磨いてる段階で、慣れてきたらもっと大きなものも作ってみようと言ってましたね」
「大型のガラス細工はかなり難しいですが、これだけの技術を持つネピュラさんなら素晴らしい作品を作ってくださるでしょうね。その時はぜひ私も見てみたいです」
「ええ、その時はまたお見せしますね。ああそういえば、インテリアとかでは無いのでシエンさんの趣味からは少し外れるかもしれませんが、コップとかも作ってたのでそれも持ってきてます。まぁ、ネピュラ曰く失敗作らしいですが……」
「私が収集しているのはガラスを用いた芸術的な品が多いですが、単純なガラス製品も好きで……はい? え? このコップ、彫刻を……こんなに複雑で美しい模様を……え? 失敗作ですか? ど、どの辺りが?」
「ああいや、装飾に凝りすぎて実用場面では使いにくいって言ってました。立体感付けたのでデコボコして持ちにくいとも……」
「い、いや、これはむしろ飾って楽しむような品……ま、まぁ、確かに普通にコップとして使うには使いにくいかもしれませんが……なんというか、さきほどのチェントの気持ちが少しわかりました」
なんだろう、さっきのチェントさんの陶磁器のように新製法とかそういうのは入っていないのだが、双子だからというのもあるかもしれないが、シエンさんの浮かべる表情は少し前のチェントさんによく似ている気がした。
あと、トーレさんは例によってなんか分かったような、感心したような表情でガラス彫刻を見て頷いているが……若干動作がオーバーなので、たぶんそれっぽく振る舞ってるだけで、分かって無い気もする。
シリアス先輩「まだつぼみながら、胃痛戦士としての片鱗を見せ始める双子……例によってたいして分かってないトーレ……」