特別商品⑪
ネピュラの作った陶磁器とガラス作品を持ってやってきたのはクロの居城である。事前にトーレさんたちには連絡をしてある。
入り口にいたフュンフさんに簡単に挨拶をして中に入ると、そこには待ち構えていたように……というか実際待っていたのだろうが、トーレさんの姿があった。
トーレさんは俺を見ると、どこかニヒルに笑みを浮かべる。見た目だけは高身長クール系美女なので、ニヒルな笑いもかなり似合う。
「……ふっ、明らかにテンションが上がったね。美人のお姉ちゃんが出迎えに来てくれて嬉しかったと見えるね!」
「……う~ん、美人なのは間違いないんですけどね」
「あれ? おかしいな? そのセリフって、見た目はいいけど性格に問題があるとか、そういう時に使う感じの言い回しだよね?」
相変わらず楽しい言い回しというか、ちょっとした小ボケを入れてくるあたりがトーレさんらしい。
「まぁ、気を取り直して、いらっしゃい、カイト!」
「こんにちは、トーレさん……あれ? チェントさんとシエンさんは?」
「部屋で待ってるよ。どうせこの後部屋に行くんだし、わざわざ三人で来る必要もないしね。私もさすがにこの居城で迷子になることは無いしね」
「ああ、なるほど」
「というわけで、さっそく私たちの部屋に案内するよ~」
そう言って歩き出すトーレさんに続いて俺も歩き出す。クロの居城には何度も来ているので割と慣れてはいるのだが、トーレさんたちの部屋に行くのは初めてなのでどこに部屋があるかは分からない。
外から見てもかなり大きな居城なのだが、クロの居城はあちこち空間拡張をしてあるので、外から見る以上に広く複雑である。まぁ、今回はトーレさんが来てくれたが、唐突に訪れたりした場合はアインさんが出迎えに来てくれるので迷ったことは無いが……。
「そういえば、トーレさんたちもこの居城に住んでるんですか?」
「う~ん。ここに部屋はあるし、住んでるってのは間違いないと思うんだけど……他にもいくつか家はあって、仕事の時期によっては他のところで生活してるから……だいたいこっちに居るのは一年の半分ぐらいかなぁ? ほら、私結構偉いからね! えっへん!」
「なるほど、確かに仕事の内容によっては他の拠点で活動したほうがいいですよね」
「うん。いまはクロム様が進めてる人界のプロジェクトにも関わってるから人界に行くことも多いし、魔水晶の鉱脈があるアルクレシア帝国に家も買ったよ」
クロが進めているプロジェクトというのは、人界に魔法具技術者を増やすというものであり、母さんと父さんが参加した研修実習生的なものもその一環だ。
ちなみに母さんと父さんに関しては、無事に魔法具技術者の資格を獲得して、いまはシンフォニア王都にあるセーディッチ魔法具商会の支店で働いている。
思い返してみればトーレさんは、船上パーティの時も魔水晶の採掘を依頼する相手を探していたりしたし、結構ガッツリそのプロジェクトに関わっているのかもしれない。
「あっ、そうそう、カイト。アンさんのこと紹介してくれてありがとうね~」
「ああいえ……無事に話はまとまった感じですか?」
「うん。アンさんの組合と専属契約を結んだよ。聞いてた通り腕のいい人が多くて、想定していた以上に順調に採掘できてるね」
「それならよかったです」
船上パーティの時も、アンさんとトーレさんの利害は一致しており、双方とも契約に前向きな印象ではあったが無事に纏まったようでなによりである。
アンさんの組合はいままであまり能力に見合う報酬や待遇を貰えてなかったみたいだし、そこが好転したのなら俺も友人として嬉しい限りだ。
「そういえばさ、魔水晶とは関係ないけど……アイシス様……いや、正しくはアイシス様の陣営が取引先を増やすみたいだよ」
「ああ、少し前にそういう話を聞きましたが……いままではほぼ独占だったんですっけ?」
「うん。そもそもアイシス様の居る死の大地の居城に行くのが難しかったし、採掘にしても死の大地はかなり過酷な環境だし、アイシス様が恐れられてたこともあってなかなか難しいところがあったんだよね。でも、アイシス様に配下ができて、交渉の窓口が増えたのと……その配下の人たちが、死の大地の環境改善にかなり力を入れてるみたいで、拡大しやすくなったのはあるんだろうね」
「ああそっか、死の大地自体が極寒の地なので、環境的な厳しさもあったんですね」
俺にはシロさんの祝福があるので忘れがちになってしまうが、死の大地は年中雪と氷に閉ざされた地であり、それ自体も採掘のハードルを上げる要因になっていたみたいだ。
「ほら、前にカイトの紹介で交渉したラサルさんっていたでしょ? 最近さらに追加注文が多く入ってね。どうも実験的に、一部の鉱脈がある場所に永続型結界魔法を展開するみたいなんだよね。たぶん結界魔法に詳しい配下が居るのかな?」
「たしかポラリスさんって方が、結界魔法が得意らしいですよ」
「なるほど……まぁ、そんな感じで徐々に改革が進んでる感じだね。もしかしたら、しばらく経ったら死の大地に街とかできるかもしれないし、楽しみだね」
「そうですね、そうなるといいですね」
実際に死の大地に街が出来て、いま以上に多くの人が住むようになればアイシスさんも喜ぶだろう。もちろんいろいろな課題もあるし時間はかかるとは思うけど、いつかそうなったらいいなと、そう思った。
シリアス先輩「ほのぼのしているが、その裏で胃をぶん殴られてる侯爵令嬢が居ることを忘れてはいけない……」