特別商品⑩
MKロイヤルの注目度はもちろん高いのだが、来月から開始予定の家紋入り陶磁器の特注サービスも開始すればかなりの注目度になることは間違いない。
そしてそのサンプルを作っていたネピュラから、新しい製法で作ったという色鮮やかな陶磁器を見せてもらっていた。
「焼き物ってこんなに綺麗に色が出るもんなんだね」
「いろいろ工夫してますからね。ただまぁ、色が多ければいいというものではありませんので実際のサービス開始時には、発注内容などに合わせて調整が必要だと思います。今回は試作品なので十色全部使ってみましたが……」
「十色使ってても派手過ぎずに綺麗な絵になってるのは、やっぱりさすがネピュラって感じだね」
「妾は絶対者ですからね!」
小さな体で胸を張るネピュラの頭を軽く撫でつつ、目の前の花瓶を見る。これには家紋は入っておらず純粋に十色の焼き色が鮮やかな模様になっている感じだ。
「製法などは別に秘匿するものでもありませんので、リリアさんにお伝えしておきました。リリアさんは貴族間の繋がりなどもあるでしょうし、リリアさん自身はあまり興味は無いそうですが資金提供をしている商会に陶磁器を扱うものがあるようだったので……」
「なるほど……」
気のせいかな、いま一瞬リリアさんに怒られそうな未来が頭をよぎった気がする。い、いや、でもちょっと前に会ったときは別にそんな……あ~いや、よくよく考えれば何かを飲み込んだような表情をしていた気がする。
俺のせいと断言できるほどではないが、俺が関わっているので文句を言いたい気持ちはあるという、そんな感じかもしれない。
……牛串が好きって言ってたよな? こんど買って差し入れよう。
ま、まぁ、リリアさんに関することはいまはいったん置いておくとして、目の前にある焼き物に意識を戻そう。ネピュラが頑張って作ってくれたので、それはもう間違いなく素晴らしい作品だ。
素人の俺が見ても本当に見事な完成度だと思うし、詳しい人が見ればかなり驚く……あっ、そういえば……。
「そういえば、クロのところのチェントさんがかなり陶磁器が好きみたいで、前に魔力窯の事を話したときに、ネピュラの作品を見てみたいって言ってたんだよ。せっかくだし、これを見せてあげても大丈夫かな?」
「はい! もちろん構いませんよ。妾の記憶が確かなら双子のもう一方のシエンさんの方は、ガラス製品を好むのではなかったでしょうか?」
「うん。食器とかじゃなくてインテリア系のやつが好きらしいよ」
「それでしたら、丁度いいガラス作品がいくつかありますので、こちらも一緒にいかがでしょうか?」
「あ、いいね。じゃあ、せっかくだし陶磁器とガラス製品と両方持って、トーレさんのところに遊びに行こうかな」
この作品はネピュラ曰くいままでとは違う新しい製法と、特殊な釉薬を使って作った作品らしいので、陶芸品に詳しいチェントさんにも気に入ってもらえそうだ。
もしチェントさんやシエンさんが気に入ったらあげても構わないか聞いてみると、ネピュラはまったく問題ないと返事をしてくれた。
陶磁器は試作品で作ったもので、ガラス作品に関してはイルネスさんと一緒にいろいろ作ってあまり気味らしいのでまったく問題はないらしい。
とりあえず、後でトーレさんにハミングバードで確認することにして、いまは膝の上にちょこんと座る可愛らしいネピュラの頭を撫でる。
「ネピュラが凄いのは分かってるけど、ここのところいろいろ頑張ってもらってるから、疲れてないかだけちょっと心配かな? なにか俺にしてあげられることがあればいいんだけど……」
「問題ありませんよ。店舗の運営や商品展開はカナーリスさんやアニマさんが行っていますので、妾は趣味の一巻で楽しく制作しているにすぎません。ですが、主様の妾を労おうとする気持ちを無下にするわけにもいきませんので、そういうことでしたらしばし働きの褒賞ということで、撫でていただきましょう! 大変心地よいので……」
「褒賞っていうと大げさだけど、ネピュラが喜んでくれてるなら嬉しいよ」
「特別ですよ? 絶対者たる妾は本来、褒賞を与える側であって貰う側ではないので、主様だけ特別です」
「あはは、そっか、それは光栄だね」
ネピュラの要望通り出来るだけ優しく頭を撫でると、ネピュラは心地よさげに目を細める。小柄な体格も相まって非常に可愛らしく、なんというか撫でているこっちが癒される気分だった。
シリアス先輩「……既存キャラも胃痛にさせていくスタイルか……」