特別商品⑦
魔界の死の大地にある死王アイシス・レムナントの居城……死の大地にアイシスの居城が存在することは有名ではあるが、実際にアイシスの居城を訪れたことがあるものは少ない。
単純に死の大地自体が極寒の地であり過酷な環境でもあり、死の魔力を恐れて魔物や動物も寄り付かないという場所というのも要因だが、以前のアイシスが無意識に周囲を威圧していたこともあって爵位級の高位魔族や六王幹部であってもアイシスの居城を訪れたことがあるものは少ない。
界王配下幹部のジュティアも、アイシスとは何度か会話をしたことはあるが居城を訪れるのは初めてだった。
「……いらっしゃい……ジュティア」
「今日はお招きいただいてありがとうございます、アイシス様。まさか、アイシス様が直接出迎えてくださるとは思わなくて、ちょっと驚きました」
「……お茶会の準備は皆がしてくれてるから……今回は招待したのも……アインとクロムエイナとジュティアだけだから……私が出迎えに来た」
「なるほど、ああ手土産に精霊樹の果実を持ってきましたので、よろしければ配下の皆と召し上がってください」
「……ありがとう……嬉しい」
出迎えてくれたアイシスと笑顔で話し、持ってきた手土産を渡したジュティアは、精霊樹の果実を渡した後で新たに時空間魔法でなにかを取り出した。
それはバスケットに入った色とりどりの花であり、インテリア用に作られたアレンジフラワーだった。
「あとあと、あとあと、これはうちのクレアとベラが、アイシス様のところに行くならぜひ持って行って欲しいって……ふたりが作ったインテリアです。以前のハーモニックシンフォニーの打ち上げでは、アイシス様に優しくしていただいたとかで」
「……あのふたりが? ……そうなんだ……綺麗な花……あの時は私も楽しかったし……またなにかお礼をしないと……」
「それでしたらまた、いつでも構いませんので声をかけてあげてください。ふたりともまたアイシス様と話がしたいと言っていたので……」
「……じゃあ今度……お茶会とかに招待しても……大丈夫かな?」
「ええ、喜ぶと思います」
「……そっか……うん……楽しみ」
クレアとベラのことはアイシスもよく覚えていた。ハーモニックシンフォニーの打ち上げのお茶会にて、アイシスに声をかけてくれた界王配下のふたりで、楽しく会話ができたのを覚えている。
実際に以前とは違って周囲を威圧しておらず、本来の心優しい性格が表に出ているアイシスとは会話は、クレアとベラにとって非常に楽しかった思い出であり、今回ジュティアがアイシスの居城を訪れるという話を聞いて羨ましそうにしつつ、アイシスへのお土産を預けてきたので、アイシスがお茶会に誘えば喜んで応じるだろう。
ジュティアの言葉に嬉しそうに微笑んだ後、アイシスはジュティアをお茶会が行われる予定のテラスに案内する。
「これはこれは、これはこれは……噂には聞いてましたけど、ブルークリスタルフラワーの花畑が見えますね。う~ん、雪の多い死の大地の風景に、ブルークリスタルフラワーはとってもとってもマッチしてますね」
「そう言ってもらえると嬉しいわ~初めまして、ウチはブルークリスタルフラワーの精霊で、スピカっていいます」
「初めまして、ボクはジュティア。精霊樹の大精霊で、界王リリウッド様の眷属、よろしくね。君のことは、君のことは、リリウッド様から聞いてるよ。こうして会えてとっても嬉しいぜぃ」
「はいな~こっちこそよろしゅう」
後に作る予定のお茶会用の場所とは違うが、このテラスからもブルークリスタルフラワーの花畑は見える。その花畑を見て感心していたジュティアの下にスピカが近付き、軽く自己紹介を行った。
「……スピカ……ジュティアの案内……頼んでいい? ……私は……クロムエイナを出迎えるから」
「はいな~お任せください」
「……ありがとう……よろしくね」
現在お茶会に招待されたメンバーの中で、アインは紅茶を淹れる役割があるため先んじて来ており、現在はイリスの茶菓子作成を手伝っている。
クロムエイナは仕事をいくつか終わらせてから来るとのことで、招待メンバーの中では最後に到着の予定だった。
そろそろクロムエイナが到着する予定の時間だったため、ジュティアの案内をスピカに引き継ぎ、アイシスは居城の入り口に向かって移動する。
その途中で大切な思い出の品を保管している部屋に立ち寄り、クレアとベラが作ってくれたインテリアに状態保存魔法をかけて見えやすい場所に飾り、嬉しそうな笑顔のままでクロムエイナの出迎えに向かった。
シリアス先輩「こっちはとってもほのぼの……胃痛で苦しんでる侯爵令嬢も居るんですよ!?」