特別商品④
魔界にあるクロムエイナの居城にて、クロムエイナはなんとも言えない表情で項垂れるアインを見ていた。少し前にニフティの広報冊子が到着し、それを見てMKロイヤルの存在を知ると共に、己が抽選に外れていることも悟ったアインは深い絶望の中にいた。
「……カイト様の名を冠した最高級茶葉……絶対に凄い茶葉のはずです。それが……月に一名だけ? そ、そんな、存在を知りながら……手を伸ばすことが出来ないというのですか……な、なんとか当選者を知る方法は……」
「いや、知ってどうするの? それで、当選者のところに押しかけてワガママ言ったりしたら、ボク本気で怒るからね」
「……うぅぅ……」
紅茶に対して強い拘りを持ち、同時にニフティの……ネピュラの作る茶葉のファンでもあるアインは、どうしてもMKロイヤルを飲みたくて仕方が無かった。
だが、それでも、それでも……アインには明確な価値観の線引きが存在し、紅茶は確かに大好きであり強い拘りもあるのだが……彼女の中では快人の方が優先順位は遥かに上である。
MKロイヤルに関しても極めて高い特別性を持たせている意図を理解しているし、それを無理に欲しがることは快人に迷惑がかかると理解しているため、どうしても飲みたいが快人の元に突撃することは控えて嘆いていた。
「まぁ、大人しく次の抽選に期待するしかないね」
「でも、来月も一名のみですし……果たしていつになったら飲めるのか……」
「そういう特別さもこの商品の売りのひとつなんだろうし、それは仕方な……うん?」
嘆いて肩を落とすアインに苦笑しつつ、慰めるように頭を撫でていたクロムエイナだったが、そのタイミングでハミングバードが届いたためその文章を確認した。
「……えっと、いま周囲に力の弱い子はいないし、ここでいいかな?」
「どうされたのですか?」
「アイシスが用事があって来たいってさ……この部屋の世界座標を伝えるよ」
「アイシスが? クロム様の居城を訪ねてくるのは珍しいですね」
クロムエイナの居城には強力な転移阻害の結界も張られているが、転移魔法の腕前も世界トップクラスといっていいアイシスであれば無視できるため、いま居る部屋の世界座標を連絡する。
すると直後に部屋の中に氷が現れ、それが砕けて消えると共にアイシスが姿を現した。
「……こんにちは……クロムエイナ……あっ……アインもいたんだ……丁度よかった」
「いらっしゃい、アイシス」
「よく来ましたね、アイシス。丁度よかったとは?」
「……ふたりに……用事があった……クロムエイナに会ってから……アインを呼んでもらうつもりだった」
アイシスはどうやらクロムエイナだけではなくアインにも用事があったらしく、丁度ふたりが揃っていたことに嬉しそうに微笑んだ。
「ボクたちふたりに用事?」
「……うん……用事というか……お誘い? ……えっと……あっ……それ……アインがいま持ってるやつ……カイトの紅茶ブランド……そのMKロイヤルが当たって……」
「「ッ!?」」
極々自然な口調で告げられた言葉にクロムエイナとアインは目を大きく見開いた。まさか、丁度話題にしていた初回の当選者がアイシスだったとは思わなかったからだ。
「え? じゃあ、アイシスが初回当選者なんだ!?」
「……うん……えっと魔法具で注文すると……店舗に行かなくても買えるから……カイトのお店だし買ってみたくて……買った……それで……当たったMKロイヤルが10杯分で……私と配下の皆で7人だから……3杯分余裕がある……それで……アインが紅茶が好きだったから……クロムエイナとアインを誘おうと思って……来た」
「アイシスっ!」
アイシスの言葉を聞いてアインはアイシスの手を両手で包み込むように握り、目に涙を浮かべ感極まった様な表情で口を開く。
「私は、貴女のような心優しく他者を思いやれる素晴らしい子と家族という強い繋がりがあることを、心の底から誇りに思います!! ありがとうございます!!!」
「……う、うん……えっと……喜んでもらえたなら……よかった」
「あはは、アインはさっきまでMKロイヤルが飲みたくて仕方なくて落ち込んでたからね。でも、ボクも興味あったし、アイシスが誘ってくれて嬉しいよ。ちなみに、ボクとアインが参加して、残り1杯分はどうするの?」
「……えっと……リリウッドを誘ったんだけど……リリウッドが……自分はそもそも水以外をほぼ飲まないから……紅茶好きのジュティアに代わりに飲ませてあげて欲しいって言ってたから……ジュティアを呼ぶ予定」
「なるほど、ジュティアちゃんもアインに負けず劣らず紅茶好きだし、MKロイヤルは気になってるだろうね」
納得した様子で頷くクロムエイナを見た後で、アイシスはふと思いついたようにアインの方を向く。
「……そうだ……たぶんアインの方が紅茶を淹れるのが上手いと思うから……もしよければ……淹れてもらっても……いいかな?」
「ええ、むしろ是非やらせてください!!」
「……う、うん……よろしく」
長い付き合いのアイシスでも聞いたことが無いような大声で返答するアイン……テンションが上がりきっているその様子に若干戸惑うアイシスを、クロムエイナは苦笑しつつ眺めていた。
シリアス先輩「なるほど、当選者はアイシスだったか……確かに本人が店舗に行くのは難しいから、快人が最初に一瞬驚いたのにも納得がいく。そして、なんだかんだでアインとジュティアの両方がMKロイヤルを飲めることになるわけだし、アイシスとしても配下やクロムエイナたちとお茶会ができて嬉しいと……アイシスに当選したのはある意味では最善かも?」
???「カイトさんの幸運値えげつないっすから、適当に引いたら一番いい相手に当たった感じなんでしょうね」