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特別商品③



 アルクレシア帝国首都にあるハミルトン侯爵家の屋敷の一室では、嫡子であるエリスが大量の手紙を処理していた。

 彼女は現時点では侯爵ではなく侯爵令嬢であり、貴族家当主と比べれば届く手紙も少ないはずだったが……いまや社交界では時の人となっている彼女の下には、文字通り山ができるほどの手紙が届いていた。


(下品な勘繰りのような伺いの手紙は無視でいいでしょう。そんな手紙を送ってくるものが、ハミルトン侯爵家や私にとって今後有益になるとは思えません。私個人ではなく、ハミルトン侯爵家に宛てているかのような内容に関しては、お父様に対して再度出してもらうよう返事を送るとして……問題はやはりカイト様関連の質問でしょうね。どこまで答えるべきか、返答の結果カイト様に迷惑が掛からないか、その辺りを慎重に判断する必要があるので、やはりある程度の時間はかかりますね)


 答えられること、答えられないこと、伝えるべきこと、伝えるべきではないこと、それらを吟味しつつ手紙を書いていたエリスだったが、ほどなくしてノックの音が聞こえ父親であるハミルトン侯爵が封筒をふたつ持って入ってきた。


「お父様?」

「たまたまお前の下にコレを持って行っているメイドに遭遇してな。内容によってはワシにも関わりがあるかと思って、預かって持ってきた」

「……これは、なるほどニフティからの封筒。ひとつは中身の想像はできます。毎月発行している商品紹介の冊子ですね」

「ああアレか、流石というべきか記録魔法具による写真をふんだんに使った冊子を希望者に無料配布とは、圧倒的な財力をヒシヒシと感じるな」

「事実としてカイト様の財力は、並みの貴族では足元にも及ばないレベルですからね。それにニフティ自体も、素晴らしい品質で短期間で高級紅茶ブランドとしての地位を確たるものとしましたし、貴族のファンもかなり多く付いていますから利益も凄まじいでしょう」


 ハミルトン侯爵の言葉に答えながら、エリスはひとつめの封筒を開けて中から商品紹介の冊子を取り出した。そしてそれを軽く確認するように捲り……途中で目を見開いて硬直した。


「……お、お父様……これは……」

「月に一名のみに限定抽選される最高級の茶葉……これはまた、恐ろしいな」

「すでに初回に関しては抽選済みのようですわね。当選者の名は、当然ですが明かされないようです。まぁ、下級貴族などが当選したのを知れば、圧力をかける者もいるでしょうし当選者の身を守る意味でも当然ですね」

「……まて、エリス……そのもうひとつの封筒は?」

「…………」


 冊子に記載されていたMKロイヤルに関する紹介を見て驚いていたエリスとハミルトン侯爵だったが、すぐにある事実に気付く。そう、いまハミルトン侯爵が持ってきた封筒は『ふたつ』であり……エリスにとって心当たりのない封筒があった。


「……い、いえ、それは無いでしょう。あくまで当選するのは購入する権利ですし、この封筒のサイズは大きすぎます。本でも入っているかのようなサイズなので……それに、仮に私が当選したとしたら購入は辞退するつもりですわ」

「ああ、そうだな。当家はここのところあまりにも短期間に多くの利を得すぎている。これ以上は妬みで不要な敵を作りかねん。当選したとしても辞退するのが最善だろう」

「しかし、そうなると本当に心当たりがありませんね。いったい中にはなにが……」


 当選を知らせるような手紙ではないだろうと考えつつ封筒を開けると、中には大きく薄めの本……カタログのようなものと手紙が入っていた。


「……ああ、なるほど、そういうことですか……お父様、これは以前カイト様にいただいた家紋を入れた陶磁器を発注できる権利に関するものです。どうやら近々正式に取り扱いが始まるらしく、先行権を持つ私にカタログを送ってくださったようです。このカタログ内にある陶磁器に家紋を入れることができるみたいですね」

「なるほどな……ニフティの陶磁器は極めて人気が高い。当家にとってもよい箔となるだろう。ふむ、カタログを見る限りかなり種類があるようだ。食器類だけでなく花瓶やインテリアも……」

「どれで発注するかは、またお母様も交えて相談ですか……ね……え?」

「うん? どうした?」


 問題なく会話が進んでいたはずだったが、手紙を読み進めていたエリスが明らかに困惑した表情に変わり、ハミルトン侯爵が訝し気に尋ねる。

 するとエリスは、少しの間沈黙した後で……青ざめた表情で手紙の後半部分を読み上げた。


「……そ、そのまま読み上げます……『尚、エリス・ディア・ハミルトン侯爵令嬢の発注に関しては、ニフティ代表であるミヤマカイトとの関係も考慮し、特別にニフティの陶磁器の初期ロットを制作した者が制作を請け負います』……」

「……」


 若干震える声で告げたエリスの言葉を聞いて、ハミルトン侯爵もなんとも言えない表情で天を仰いだ。ニフティの陶磁器の人気は高いが、その中でも初期ロットと呼ばれる品はプレミアと言えるような価値が付いている。

 実際にニフティ店舗で販売されている陶磁器も素晴らしいのだが、初期ロットは見るものが見れば明らかに世界最高峰と呼べる技術を持つ職人が作り上げた品というのが感じられるほどのものであり、大金を積んで初期ロットのカップを買いたいと願う者も居るほどだ。


 だが、不思議なことにこの初期ロットの製作者の正体は謎に包まれており、世界最高峰の技術を持つであろうにも拘らず、思い当たる人物が存在しない状態でニフティの、それも限定復刻販売等でしかその職人の作品を手に入れることはできないのが現状だった。

 そして、特別にという文言から……他の家紋入り陶磁器のサービスには、その職人が関わることは無く、エリスの発注に対してのみ直接制作を行うということが読み取れ、思わずエリスは胃を手で抑えた。




シリアス先輩「メインと呼べる当選関係は完璧にスルーしてるのに、全然関係ないところで胃をぶん殴られてる……これが、新世代の胃痛戦士か……」

???「リリアさんの場合はメインが直撃するのでまた一味違いますね。まぁ、今回の当選発表に関してはリリアさんは別に店舗で購入する必要もなく、イルネスやネピュラさん、快人さんやカナーリスさんに直接交渉できますし、そもそも新商品サンプルとかのお裾分けを貰ってるので、新規で追加購入をしていたりはしないため抽選対象外です」

シリアス先輩「……なるほど、じゃあ、リリアも候補から外れたのか」

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― 新着の感想 ―
恐らく希少性から本来の用途は王かカイトでなければ使われず 展示どころか家宝として厳重に収蔵するレベルの品になるんだろうな。 手に入れにくさはともかく価格がイマイチはっきりしていないので優先販売で相応の…
 おっ、当選者ではなくエリスさんに胃痛ブローを与える方が先だったか。ふむ、MKロイヤルの存在は抽選候補者に公表するけど当選者は明かさないんだね。  家紋を入れた陶磁器を発注できる権利は既に知っている…
登場して嬉しい反面、当選者なのか?と疑問に思い読み進めると納得。 なるほど、「一緒に」お茶した時に渡された権利の話だったか。2枚封筒があるとなって本気で「?」になったけど納得だった。 それに、当選し…
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