教主の振り返り 前編
香織が快人とのハグの恥ずかしさや後回しにしていたもろもろの羞恥で悶えている頃、大聖堂の教主の間ではオリビアが教主の服に着替えたあとで静かに祈りを行っていた。
暗い聖堂の中、高い位置にある窓からこぼれる月明かりに照らされるその姿は、まさに聖女と呼ぶにふさわしい神秘的な姿だった。
(ミヤマカイト様のおかげでとても素晴らしい一日ではありましたが、反省点も多いですね。事前に計画していた通りに行動できた場面もありますが、想定外のことに戸惑って無様を晒す場面も多々ありました。想定と実際の体験による相違での戸惑いであるならばまだいいでしょう。知識として知ることと実際に体験することが違うのは、ミヤマカイト様の導きにより学んでいます。しかし、想定すらしていなかった事態に翻弄されるのは、私自身の事前の想定力不足と判断するほかありません。私の想像力が未熟であったことを認め、反省と改善を行わなければ……)
極めて真面目な性格だからこそだろうか? オリビアは現在祈りの姿勢のままで今日の出来事を振り返って反省点を考えていた。
これは元々デート後の予定に組み込んでいたもので、一日の反省と今後の改善点をしっかりと考えたのちに快人への感謝の祈りに移行する予定だ。
(まず、最初の買い物に関しては元々ミズハラカオリの提案もあり、ミヤマカイト様にお導きいただくと決めていました。そこに関しては問題と取れる場面はありません。さすがはミヤマカイト様というべきでしょうか、店選びなども大変に的確で、頼りがいのあるお姿には見惚れてしまうほどでした。手を繋いで歩かせていただくという栄誉までお許しいただけたのですから、その透き通る空のように広く海の如く深い慈悲の心に感謝しなければなりませんね)
オリビアの考えとして午前中の快人主導で見て回ったウィンドウショッピングには一切の不満はないし、いま思い出しても心の中で快人への絶賛が溢れてくる。
まぁ、そもそも快人への信仰心と好意が激烈に高いオリビアが、快人の店選びに不満を覚えるはずもないのだが……。
(その後の昼食は、予定していた行為自体は行えましたが、己の想定の甘さも実感しました。お優しいミヤマカイト様であれば、お返しとして私に料理を食べさせてくださるというのは想定しておくべきでした。私の方がミヤマカイト様に尽くし仕えるという認識が強く、ミヤマカイト様になにかをしていただくという考えに至らなかったのは問題ですね。もちろん私が尽くすべきではありますが、ミヤマカイト様のご意向も存在するため、決めつけるという行為は間違いでしょう……ですが、あの時に私が差し出した料理をミヤマカイト様が口にしてくださった時の幸福感は素晴らしかったです。ミヤマカイト様に尽くしているのだと実感できて幸せで……またしたい――っ!? あ、浅ましいことを! いまはそのようなことを考える時ではありません!!)
レストランでの快人とのやり取りを思い出して、幸せそうな笑みを浮かべたオリビアだったがすぐに己を律して思考を立て直す。
(そのあとの演劇については、事前には予定していなかった指を絡める手の繋ぎ方を実行しましたね。突発的ではありましたが、それなりに上手く思い通りに行うことができた……というのは、愚かな考えでした。すべてはミヤマカイト様が私とミズハラカオリの会話を見通し、慈悲深くも我々の行動に合わせてくださったからこその成果であり、功績は全てミヤマカイト様にあるといってもいいでしょう。いえ、そもそも今日の一日の幸福は全てミヤマカイト様のおかげであると言っても過言ではありません)
もちろん快人本人がこの場にいれば、過言だと返したのだろうが、ツッコミは不在でありオリビアは高すぎる信仰心を持って思考を進めていく。
(あの指を絡めて手を繋ぐという行為は、知識と実際の体験は違うというのを強く実感するものでした。ただ繋ぎ方を変えるだけと考えていた己の浅はさ……指を絡めることによりアレほどの密着感を覚えるとは思いませんでした。ミヤマカイト様の大きな手に包み込まれるような温もりもさることながら、ミヤマカイト様と深く繋がっているのだという実感が高い幸福感をもたらしてくれましたし、なによりその行為をミヤマカイト様に容認していただけていることのなんと光栄な事か……突然の思い付きによる行動に合わせてくださるだけではなく、場合によっては不敬と取られてもおかしくない行為を許してくださる慈悲深さ、ミヤマカイト様の優しさは三界の天地に響き渡るほど、あの際に劇場の明かりに照らされるミヤマカイト様の横顔の美しさときたら、ああこれが芸術というものなのだと私の心の見識が広がる思いでした)
とりあえず快人が好きすぎるのが原因なのか、目的としては今日一日を振り返って反省点を洗い出すというものなのだが……どうにも、すぐに快人への絶賛の気持ちで心が埋め尽くされるようで、またもしばらくの間オリビアは心の中で快人への称賛を繰り返していた。
シリアス先輩「まぁ、オリビアに関しては快人大好きオーラをまったく隠せてないというか、そもそも隠す気が無いというか……いつも通り心の中まで快人への称賛たっぷりだ」
マキナ「本当に分かってる子だよね。他の肉塊もオリビアを見習って、常に愛しい我が子への感謝を持っていて欲しいね」