香織とオリビアとのデート㉟
夜の友好都市の通りを並んで歩く快人と香織、友好都市ヒカリは観光都市でもあるため、夜でも営業している飲食店も多く、通りもかなり明るく歩くのに困ることは無い。そして現在、両者の間にはなんとも言えない空気が流れており、特に香織は頭の中で大混乱と言っていい状態だった。
(あ、あれぇ? なんでこんなことに……完全に予想外というか、どうしようこれ? なんか、オリビア様があまりにも予想外なこと言いだしたから混乱しちゃって、そのままなんか微妙な空気感になっちゃって……ずっと大聖堂前に居ても迷惑だし、なんとなく快人くんと一緒に歩き出して店に向かってる。こ、これ、変な感じになってない? 解散じゃなくて、完全に私の店に向かう流れになっちゃってるよね!?)
そう、オリビアの発言は勘違いによるものであり、元々香織はハグに関してはいつか機会があればという意味合いで開店前の店でと口にしていたし、快人の方も正しくそれは理解していた。
だから、あのままオリビアが去った後に「オリビア様、なんか勘違いしてたみたいだね~」などという感じで快人と話し、そのまま大聖堂前で解散する形になっていればまったく問題なかった。
だが唐突な事態に快人も香織も困惑した状態であり、なんとなく一緒に歩き出してしまった。そうなると向かう方向は香織の店になるのが必然であり、特にそういう話をしたわけではないのに、オリビアの言葉通りにハグをするために店に向かっているような感じになってしまっていた。
(え? えぇ? ど、どうしよう、あれだよね。このまま店に着くと、私は快人くんに抱かれちゃうわけだよね……いや、意味が違う!? いや、内容はあってるけど、そういう言い方すると完全にいかがわしいことするように聞こえる!! ハグ、あくまでハグ!! 欧米では挨拶だから!! ……ここ異世界だけど……)
心の中で誰に対してか分からない言い訳を告げるほどには混乱しており、香織は現在どうするべきか迷いに迷っていた。
香織の店は、本人が勇者役の子に訪れてほしいと思っていたこともあって勇者祭のセレモニーが行われる大聖堂前広場に近い通りにあり、大聖堂から香織の店までゆっくり歩いたとしても15分もかからない。
(い、いや、それ以前に私の店って、つまるところ私の家なんだけど……自分の家に男の子連れてきて、誰も居ない店内で抱き合うって……それもう完全に一緒に朝迎える感じのやつじゃない!? いやいや! さすがにそれは駄目だよ!! は、ハグだけだよね? ハグだけならセーフ……快人くん、信じてるからね! 絶対ハグだけして解散だよ!!)
香織もここまでの付き合いで快人が誠実な相手であるというのは理解しているし、自分に対しても同郷のそれなりに親しい女性としてある程度の好意は抱きつつも、現時点ではまだ香織を恋愛対象として意識しているわけではないというのも正しく理解していた。
(少なくとも、快人くんはまだ私を恋愛対象って感じで見ては無いと思う。肩抱いたりお姫様抱っこしたりってのを流れとは言えしてくれるぐらいには好意的に思ってくれてるけど、恋愛感情ってほどじゃないと思う。いや、私恋愛経験全然ないから勘でしかないけど、私がそんな感じだからあってるとは思う。いや、私自身の心境を例にするとなんか切っ掛けあれば、普通に恋愛感情に発展しそうだけど……と、ともかく、現時点ではそんな感じのはず!!)
絶対の自信があるわけではないが、ある程度の確信を持ちつつ考える。快人は誠実で優しい……少なくともその状態で一夜のあやまちのような展開になる可能性は、ほぼ無いだろうと感じられた。
(というか……あの、なんで私快人くんと手を繋いで歩いてるんだろう? 今日一日ずっと手を繋いでたから無意識にやっちゃった……けど、いまさら離すのも……でも、もう絵面が完全にデート後にお持ち帰りされてる状態なんだよなぁ。いや、向かってるの私の家だけど……で、でも、どうする? もうこれ、ハグは確定? 滅茶苦茶恥ずかしいんだけど……い、いやでも、もし実行するとしたら勢いとノリで行かないと厳しいと思うし、意図せずとはいえそういう雰囲気になってるのは……チャンスではあるのかも?)
もう店までの距離はそれほどなく、考えられる時間は少ない。このまま店についてハグを実行するべきか、それともなにもなかったかのように店の前で解散するべきか……ぐるぐると思考を巡らせていた香織に対し、快人が声をかけた。
「あの、香織さん……」
「ハ、ハグまでだからね!!」
「へ? あ、えっと……」
「あくまでハグをするだけだからね! 欧米では挨拶だから、またねって感じで軽くハグするだけだよ! それ以上はまだ早いし絶対ダメだからね!!」
「え? あ、はい」
急に話しかけられたことに動揺して慌てた様子で告げた香織が気付くことは無かったが、いま彼女は自ら逃げ道を塞いでしまった。
いま快人が香織に声をかけたのは、感応魔法で香織の困惑を察したため「オリビアさんはああ言っていましたけど、気にせず店に着いたら解散しましょうか?」と提案するためだったのだが……香織が凄い勢いで言葉を遮ったため、それが告げられることは無く……ハグ実行が確定した。
???「デートをして、いい雰囲気の年上女性にお持ち帰りされる。確かに普通なら、朝チュンコースですね。まぁ、快人さんの理性ならまったく問題ないでしょうが……」
マキナ「いいなぁ、我が子同士の恋愛……こういうのでいいんだよ、こういうので……」
シリアス先輩「……さて、横になるか……」