香織とオリビアとのデート㉛
水原香織は恋愛物の本や演劇を好むことからも、他人の恋愛を眺めるのが好きだ。だがそれと同時に、自分自身の恋愛事情に関してもそれなりに強い興味は抱いている。
主な要因としては、召喚の前後……彼女が青春と認識している10代、特に後半の時期において母親の死に父親の蒸発、異世界への召喚と様々なことがあり、恋愛をしている余裕がまったくなかったというのが大きい。
(ま、まさかこんな展開になるなんて……今日一日で私の青春が凄いことになってるよ!? 大遅刻してやってきたかと思ったら、大暴れもいいところだよ)
確かに日頃から青春に対する憧れや、婚期を機にするような発言、そして恋愛をしてみたいというような発言をしていたのは間違いない。
お姫様抱っこに関しても少なからず憧れがあるというのも事実……だが、それはそれとして恥ずかしいものは恥ずかしい。
「……あ、あ~でも、大丈夫かな? ほ、ほら、私オリビア様より背が高いし、体重もその……す、少しだけ上なんじゃないかなぁって、快人くんの負担とかは……」
「その辺は身体強化の魔法もあるので大丈夫だとは思いますよ。確かに滅茶苦茶鍛えてるとかってわけではないですが、落としたりはしないので安心してください」
「ほ、ほぉ~そういう頼りがいのある発言しちゃうんだ……へぇ~じゃ、じゃあ、お手並みを拝見させてもらっちゃおうかなぁ……」
気恥ずかしさから若干遠慮気味に告げる香織に対して、快人は穏やかな微笑みで言葉を返す。確かに香織はオリビアと比べれば背が高く、体重も上ではあろうが……別にそこまで大きな差というわけでもない。
この世界においては体内や筋肉の構造が違うため、種族によっては見た目にそぐわない体重の者も居る。一例をあげるならメギドなどがそうであり、メギドが普段戦王として行動している姿は10m以上の巨体ではあるのだが、実際は魔力による拘束を纏っているだけなので、その体躯でも体重は50kg前後しかない。
メギドレベルになれば、体重などいくらでも調整できるので一種の参考でしかないが、そのように見た目にそぐわない体重というのは存在する……だが、香織に関しては普通に見た目通りの体重である。
「それじゃあ、失礼しますね」
「ど、どーんと来い……」
快人は非力と認識されがちだが、それはあくまで比較対象が悪いだけであり、一般成人男性ぐらいの筋力はあり、本人は倍率が低めの事を若干気にしているが身体強化魔法もあるので、香織をお姫様抱っこするぐらいはまったく問題ない。
快人は若干の緊張が見て取れる香織に苦笑しつつ、お姫様抱っこの形で香織を抱き上げた。
「……お、おぉ……な、なるほどね。へ、へぇ、こんな感じなんだ。お姫様抱っこって普段まずされることとかないから、新鮮な気分だね」
「顔、赤いですよ」
「そりゃ赤いよ!? 普通に恥ずかしいからね! 恥ずかしいのは間違いないけど……でも体験してみたかったのは本当だし、これはこれでなかなか……」
普通に生活をしていてお姫様抱っこをされる機会というのはそうそう訪れるわけもなく、香織もこれが初めてのお姫様抱っこだった。
さすがにオリビアほどは動揺はしていないが、それでも内心では結構慌てていた。
(なかなかというか……お、思ったより凄いなぁ。地に足が付いてなくて不安定だからか、やけに快人くんが頼りがいのある感じに思えるよ。ていうか、快人くん結構ちゃんと鍛えてるよね? ムキムキとかじゃないけど、なんだかんだでガッシリしてるっていうか、こうやって密着すると男の子の体だなぁって感じるっていうか……あ~いや、これは……うん……結構、ドキドキするなぁ)
少し前に肩を抱かれた際にも体の密着はあったが、お姫様抱っことなるとそれ以上であり、不安定な態勢を快人の手で支えられているという状態は、快人の男らしさのような部分を感じられるようで胸が高鳴るのを実感していた。
(こんな感じで快人くんを見上げる視線ってのもなんか新鮮だし……うぅ、くそっ、カッコいいなぁ。好みのタイプってのもあるけど、シチュエーション的なのとかも合わさって、ちょっとヤバいぐらいカッコよく見えるなぁ……)
いろいろな要因はあるだろう。元々好印象で気になる異性と言えるような存在だったこともあるし、今日一日のデートでオリビアに追従する形でいろいろ恋人のようなことをしたことで、より意識しているというのもある。
なんにせよ、自分が思っていた以上に快人を意識しており、香織は顔がさらに熱くなるのを自覚していた。
「……快人くん、重くない? キツかったら言ってね」
「全然重くないですよ、むしろ軽いです。キツさとかは無いですが……でもやっぱり、こうやって密着してるとドキドキするというか、香織さんが美人なこともあって結構緊張しちゃいますね」
穏やかに微笑む快人を見て香織は、どこか気恥ずかしそうだが嬉し気な表情を浮かべ、快人には聞こえない程度の小声で呟いた。
「君はまたそいうことをサラッと……本当……これ以上本気にさせたら……責任取ってもらうからね」
シリアス先輩「ぐぉぉぉ、オリビアとは違うタイプ……オリビアの方はクソでか恋心を認識してないタイプで、香織の方は自分の気持ちとか割とちゃんと把握しつつ、快人が普通にしてるだけで口説いてるわけじゃないってのも含めちゃんと分かってるタイプか……青春……してるじゃねぇか……」