香織とオリビアとのデート㉙
元々3分の2ほどは上っていたこともあり、それほど時間はかからず快人たちは丘の上にある公園に辿り着いた。街並みを見下ろすというコンセプトの公園だけあって遊具などは無く、ベンチが複数あちこちに置いてあるような形だった。
「時間的にもバッチリぐらいのタイミングで到着ですね」
「そうだね。もうちょっとで綺麗に夕日が見えそうっていうか、流石ベストポジションっていうかここから見ると街のバックに夕日がドーンって見えるような感じになるんだね」
「ですね。もう少ししたらいい感じになりそうですね……オリビアさん、着きましたよ」
「……」
目的の公園に着いたので、お姫様抱っこは終了してオリビアさんを降ろそうと思って声をかけたのだが、オリビアさんは俺にもたれかかって目を閉じており、反応が無い……あれ? 寝てるのかこれ?
「オリビアさん? えっと、もしかして寝てます?」
「……オリビア様って、睡眠とか要らないから寝ないんじゃないの?」
「いや、睡眠が必要じゃなくても寝ようと思ったら寝れるって知り合いが居るので、寝ている可能性はいちおう……」
快人の知り合いで言えば、クロムエイナやアイシス、アリスなどは睡眠は必要としないが寝ることも普通にできる。
ただ、クロムエイナなどは寝ることに慣れていないのか、基本的に起きた時は寝ぼけているが……なので、オリビアもそういった状態かと考えたが、その直後にオリビアが目を開けた。
「……ミヤマカイト様の声が聞こえます」
「あ、オリビアさん、気が付きました? 目的地に着きましたよ?」
「……はい……私のこの身は全てミヤマカイト様のものです」
「……オリビアさん?」
オリビアは眠っていたわけではなく、快人によるお姫様抱っこを受け入れると決めた結果……そのあまりの心地よさに思考が蕩けて夢見心地のような感じになっていた。
ある意味では寝ぼけているのと変わらない状態でもあり、快人の問いかけにもまともに返答ができていない。
「ふふ、ミヤマカイト様にこうして触れられて……この身に余る幸せが……幸せが……しあ……」
しかし、悲しいかないつまでも思考が蕩けているというわけではない。徐々に冷静さを取り戻すとともに、オリビアの顔は血液が沸騰しているのではないかと思えるほど赤くなった。
「――!?!?!?!?!?」
快人に抱きかかえられる心地よさにドップリ浸かり、快人たちの呼びかけにも気づかないほど幸せな気分を味わっていただけではなく、甘えた声で快人に受け答えをするという凄まじい失態を犯したオリビアの思考はかつてないほどのパニックになっていた。
「も、ももも、申し訳、あっ、ぶぶ、無礼を……ではなく、不敬が、いえ、手間を……だからその……」
「お、落ち着いてくださいオリビアさん。大丈夫ですから……と、とりあえず、危ないので降ろしますね」
「はひっ……」
とりあえず慌てふためくオリビアを降ろしつつ、快人はできるだけオリビアを安心させるように微笑みながら声をかける。
「無礼とか不敬とかはまったくないので大丈夫ですよ。負担とかも全然かかってないですし、もちろんオリビアさんに罪とかそんなのも無いですから、落ち着いてください……ね?」
「……は、はい。大変お見苦しいところをお見せいたしました」
快人の優しい言葉を聞き、オリビアはとりあえず真っ赤な顔のままで頷いた。己に関する戒めや罰は、後ほど荒行によって行おうと心に誓った。
その結果……後に神教においては、教主ですら満身創痍になるほどの隠された地獄の荒行が存在すると噂されることになるのだが、それはまた後の話である。
「とりあえずどこかベンチに座って夕日を眺めましょうか……丁度日が沈みかけているというか、いい感じの雰囲気なので……」
「はい。あちらのベンチなどはいかがでしょうか、街がよく見える位置にあると推察しますが……」
「よさそうですね。じゃあ、あそこで見ましょうか……香織さんも問題ないですか?」
「え? あ、うん。大丈夫だよ。青春感が凄くてなんか観客の気分だった」
香織は自分自身も恋愛をしたいし青春を味わいたいとは考えているが、他人の恋愛を見るのも好きである。快人に対してお姫様抱っこを勧めたのも、デートらしいことをしようと頑張っているオリビアをサポートする気持ちももちろんあったが、お姫様抱っこを間近で見てみたいという気持ちもあった。
……尤も、その一種の好奇心による提案が、この後に自分に返ってくるとは……この時はまだ、夢にも思っていなかった。
シリアス先輩「いやな流れだ。とても嫌な流れだ……これ、香織をお姫様抱っこする感じの流れじゃ……」