香織とオリビアとのデート㉗
とりあえず一休みした後でまた階段を上り始めたのだが、やはりというべきかオリビアさんの足取りは重い。性格とかを考えると、このままいったとしてもオリビアさんは最後まで登りきるとは思うのだが、そうなった場合公園に着くころには疲労困憊だろう。
「オリビアさん、前に勇者の丘に行った時みたいに俺がおんぶしますよ」
「い、いえ……大丈夫です。この程度でミヤマカイト様の手を煩わせるわけにはいきません。もう残りは3分の1ほどですから、問題なく登り切れるはずです」
「ええ、登り切れるとは思うんですが……それだと公園に着いた時にオリビアさんが疲れ切ってるでしょうし、景色や夕日を楽しむ余裕が無いでしょうから……」
「私もそれがいいと思いますよ、オリビア様。少しだけですが空に赤味もかかってきましたし、時間的にもそこまで余裕があるわけでもないですし、ここは快人くんに……ふむ……」
例によってオリビアさんは俺の提案を拒否して自分で歩くと言い出したが、香織さんも現在のオリビアさんのペースでは厳しいと判断したのか俺の提案に賛成してくれた。
しかし、なにやら途中でなにかを思いついたような表情に変わり、ニヤリとちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて俺の方を向く。
「快人くん、ここはアレだよ! おんぶよりお姫様抱っこだよ!!」
「……ミズハラカオリ、貴女……いったいなにを……」
「……お姫様抱っこ?」
若干テンションが上がった感じで提案してくる香織さんに、俺とオリビアさんは同時に首をかしげる。お姫様抱っこ……できなくはない。前におんぶした感じだと、オリビアさんはかなり軽いし身体強化魔法を使えば、お姫様抱っこで運ぶのは余裕だろう。
階段も段差は低く足元も広いので、気を付ければ躓いたりということもないだろう。
「やっぱりデートっぽさと言えば、おんぶよりお姫様抱っこだよ。その方が絶対絵になるし一度近くでお姫様抱っこしてるとこ見てみたいってのもある。快人くんも身体強化魔法使えるんだよね? なら大丈夫……オリビア様、これは凄くデートっぽいことなので、実行するチャンスですよ!」
「……えっと、まぁ、俺は別にお姫様抱っこの方でも構いませんが、オリビアさんは?」
「あ、いえ、ミヤマカイト様? そもそも私は、運んでいたかなくても大丈夫ですし、ミヤマカイト様にそのような手間をおかけするわけにいきません」
「お姫様抱っこは嫌ですか?」
「い、いえ、決してそのようなことはありません。ハグや肩を抱かれた際の事を考えれば、私の精神状態に関してはそれなりに危険かと思いますが、忌避感などは一切ありません。ですが、そもそもミヤマカイト様に私を運ばせるなどという大変な不敬にあたる行為を行うわけにもは行きませんので……」
「……なるほど」
とりあえずお姫様抱っこが嫌というわけではなさそうだし、香織さんの強い要望もあるので、それならお姫様抱っこで運ぶことにしようか……。
オリビアさんが遠慮というか、俺に手間をかけさせるわけにはいかないという感じの返答をするのは分かっていたし、それの対策は前回で学習済みである。
するとそんな俺の様子を見て、オリビアさんはなにかに気付いた様子でハッとした表情を浮かべて、青ざめた顔で口を開く。
「……ミ、ミヤマカイト様……再考を……こ、ここは一度再考を……私は自力で……」
「オリビアさん、残念ですが……命令ということで」
「うぅぅ……ミ、ミヤマカイト様は、極々まれに意地悪です」
前回の勇者の丘でのやりとりを思い出したのか、オリビアさんは必死に考え直すように言ってきたが、俺が命令という言葉を口にすると諦めたような表情を浮かべた。
ただほんの少しだけだが、嬉しそうにも見えるので……もしかしたら、最初に俺が言い出した時点でこういう展開になるとは分かっていたのかもしれない。
「じゃあ、オリビアさん。失礼しますね」
「あっ、はい――ひゃっ!?」
繋いでいた手を離して、オリビアさんに一言断ってからお姫様抱っこの形で抱き上げる。やはりオリビアさんはかなり軽く、身体強化魔法を使っておけばまったく問題なさそうだ。
オリビアさんは驚いたような表情を浮かべた後で、顔を赤くする。もしかしたら今日一番赤くなってるかもしれない。
「か、軽々と私を抱え上げるとは、なんて力強い。揺るがぬ体幹の安定感たるや巨大な世界樹の幹を連想させるかの如く、雄大で荘厳です。未熟な私を気遣う慈悲深きお心は澄み渡る大空のように清らかで、ミヤマカイト様という存在がいかに偉大であるかというのを、この身を持ってひしひしと感じて……」
「オリビアさん、落ち着きましょう」
「ミヤマカイト様に虚言を告げるわけにはいきませんので、お言葉を否定するような返答をお許しください……無理です。顔は信じられぬほど熱くなっておりますし、動悸も思考も落ち着きません。雑念も次から次へと湧いてくるだけでなく、熱に浮かされるかのような感覚まであり、油断すると意識が神域へと旅立ってしまいそうです」
それで旅立ってこられたらシロさんも困りそうな気もするが、とりあえず「恥ずかしいので落ち着くのは無理」ということらしい。
ただそれでもあくまで恥ずかしいだけであり、嫌がってたりするわけではなく……なんなら少し俺の体にもたれかかってるというか、微かに甘えるように頬を俺の肩に触れさせてきているので可愛らしい。
無意識の行動っぽいというか、指摘するといま以上に慌てふためきそうなので、気にせずにお姫様抱っこの態勢で歩き出した。
シリアス先輩「なに余計なアシストしてんだ胃痛戦士!! もうほぼ恋人じゃん、恋人みたいな行動してるじゃん!!」