香織とオリビアとのデート㉖
そして予定通りに高台の公園を目指して長い階段を上り始めた。階段自体の段差は低く、足場の広くなっておりゆっくり景色を楽しみながら登れるような造りにはなっていたが、一段一段が低いということは必然的に段数は多くなる。
俺は普段から陽菜ちゃんのジョギングに付き合ったりして、ある程度は運動しているのでまったく問題ないが、やはりというべきかオリビアさんは半分に到達するかどうかという辺りで予想通りに疲労した状態となっていた。
「オ、オリビア様? 大丈夫ですか?」
「……はぁ……も、問題ありま……せん」
「いや、全然大丈夫そうに見えないんですけど!? でもあれ? オリビア様ってものすごく強いんじゃ……」
見るからに疲れ切っている様子のオリビアさんに、香織さんが慌てたように声をかけるが、例によってオリビアさんは大丈夫だと返答する。
まぁ、香織さんの言う通りまったく大丈夫そうには見えないのだが、それでも勇者の丘に行った時よりは持ったような気がする。
「とりあえず、時間にも余裕はありますし休憩しながら行きましょう。俺もちょっと一休みしたいところでしたし……」
「か、畏まりました。ミ、ミヤマカイト様が、そ、そう仰られるなら……」
とりあえず休憩を提案する。オリビアさんの性格上、自分のせいで俺の足を止めさせるわけにはいかないとか無理をしそうだったので、俺が休みたいと伝えることで納得してもらった。
ベンチとかがあるわけではないが、ひとつひとつの段差はかなり広くスペースに余裕はあるので、後ろから登ってきたりする人の邪魔にならないように避けて一休みする。
「……先程のミズハラカオリの疑問に関してですが、私は友好都市以外では著しく能力を制限されますので、友好都市外では人並み程度の能力しかないのです。簡単に言ってしまえば、能力が封印されている状態ですね。極めて緊急性の高い事態においては、その封印を解除することも認められてはいますが、現状は人並み程度と認識してもらって問題ありません」
「な、なるほど、そういう感じなんですね」
「オリビアさんは、友好都市内では最高神と同格ぐらいの力があるんでしたっけ? つまりそれが、オリビアさん本来の力ってことなんですね」
どういう仕組みなのかと若干疑問には思っていたが、どうやら友好都市以外では大半の能力が封印されるって形式らしい。
「厳密に言ってしまえば、友好都市内においてという条件の上でなら私は最高神より上です。いえ、そういうと少々語弊がありますね。私がシャローヴァナル様から与えられた神族で言うところの権能に該当する力は、友好都市内での強大な能力ですが、その中には『権能を含めた能力の無効化』も含まれます。友好都市内において私は、権能や能力の影響を受けません。これは、私がそもそも中立性を重視してシャローヴァナル様に創造されたことに起因する力と言えるでしょう」
「なるほど……」
言ってみれば、オリビアさんは友好都市内においては相手の能力を無効化する力を持つ感じかな。洗脳とか思考誘導とかそういった魔法や権能の影響を受けず中立性を維持するってコンセプトでシロさんが与えたのかもしれないが、なんとも強キャラ感ある能力である。
含まれるってことは、他にもいろいろ能力はあるんだろうし、実際に友好都市内においては本当に滅茶苦茶強いのだろう。だからこそ、世界への影響を考慮して友好都市外では能力が制限される感じなんじゃないかと思う。
「とはいえ、シャローヴァナル様を含めた一部の準全能級には効果がありませんが……幻王も、私の領域化である教皇の間で亜空間を作っていましたので……」
「ああ、だから、あの時やたら驚いてたんですね」
「な、なんか、スケール凄い……」
オリビアさんの話を聞いて、香織さんはなんとも言えない表情で遠い目をしていたが、ふとそのタイミングでオリビアさんがなにかを思いついたように香織さんに声をかけた。
「私の友好都市外での能力の低さは除外するとして、ミズハラカオリはまったく疲労している様子がありませんね?」
「ええ、まぁ、私は友好都市に店を出す前はあちこち一人旅してたので、歩き慣れてたりってのはありますね。いちおう冒険者資格も上位のやつ持ってますし、変な二つ名付いたこともありますよ」
「え? そうなんですか? てことは、香織さん、最上位冒険者なんですか?」
香織さんが強いというのは茜さんから聞いて知っていたが、まさかルナさんとかと同じ二つ名持ちの最上位冒険者とは思わなかった。
しかし、香織さんは俺の言葉を聞いてなにやら悩むような表情を浮かべた。
「う~ん、どうなんだろ? 確かに二つ名持ちは最上位冒険者って呼ばれるけど、私別に冒険者として積極的に活動してたわけじゃないんだよね。葵ちゃんと陽菜ちゃんが冒険者だから快人くんも知ってるかもだけど、冒険者登録する時って戸籍も含めたいろいろな書類を提出するから、冒険者ライセンスってちゃんと身分証明書として機能するんだよ」
その話に関しては、俺も葵ちゃんや陽菜ちゃんと一緒にアリスに教えてもらったので知っている。実際ふたりはかなりいろいろな書類を書いて、面談を受けた上で冒険者になっていたので、ライセンスが身分証明書として機能するのも納得である。
「冒険者ライセンスがれば、ギルドがある街なら仕事を受けれたからね。旅費稼ぎによかったんだよ。上位になったほうがいろいろサポートも受けれるし、短期で報酬の美味しい仕事とかも回してもらえるから上位資格は取ったし、一回魔物のスタンピードが起こったときにちょっとだけ活躍して、『水刃』だとかって恥ずかしい二つ名で呼ばれたりしたけど……私あちこち旅してたから、指名依頼とか来たことないし、別に旅費稼ぐ時も必ず冒険者稼業ってわけじゃなくて、普通に飲食店とかで短期バイトしたりしもしてたし、そんな状態で最上位冒険者って言っていいのかなぁって……」
「それは確かに、迷うところかもしれませんね」
「ね? まぁ、でも、いまは定食屋の店主だし昔の話だよ」
そういって苦笑する香織さんは、本当に大したことではない思っている感じではあったが……どうも俺が思ってる以上に強いのかもしれない。
茜さんから強いという話を聞いて、葵ちゃんや陽菜ちゃんぐらいの強さだと勝手に思っていたが……もしかしたら、ルナさんやジークさんぐらい強いのかもしれない。
シリアス先輩「本人謙遜してる感じだし、性格的に低めに言ってそうだから、実際冒険者界隈ではそこそこ有名なレベルなのでは?」
???「ええ、数年前にハイドラ王国で発生した大規模スタンピードで大活躍して、ラグナさんから直々に褒賞を貰ったりしてますし、騎士団への勧誘とかも受けてます。アッサリ断って旅を再開しましたし、本人にとって冒険者として活動するのは旅費が少なくなった時の短期アルバイトみたいな感覚だったので、そもそも冒険者稼業にまったく力入れてませんでしたからね」