香織とオリビアとのデート㉕
のんびりと船で水路を回る観光が終わった後、再び手を繋いで移動をする。しかし、昼食から演劇にカフェ、船での観光とそれなりに時間をかけて行ってきたこともあり、そろそろ時刻は夕方と言っていい時間帯に差し掛かっていた。
今回のデートは夕食を食べて終了という予定なので、そろそろ終わりが見えてきた感じだ。
「まだ空は青いですが、そろそろ夕方ですね。さすがにもう多くの場所は回れそうにないですが、次はどこに行く予定なんですか?」
「高台にある公園に向かう予定です。そちらは観光雑誌などでも紹介されており、夕日に照らされる町並みが一望できるとのことです」
「へぇ、それはいいですね。赤レンガの建物が多いので夕日が映えそうですね。ところで、オリビアさん……大丈夫ですか?」
「ミヤマカイト様に虚偽を申し上げるわけにもいきませんので正直に申告しますが……思考がフワフワと思考が定まりません。肩を抱くという工程は、やはり私の現段階の習熟度を大きく上回る行為だったようです」
なんの習熟度だろうか? 恋愛? ともあれ、オリビアさんは現在表情こそ普段通りの感じではあるが、明らかに頬が赤くなっており、少し前までの肩を抱く態勢の恥ずかしさを引きずっている感じだった。
それでも褒め殺しモードには移行していないので、テンパったりしているわけではなく、ある程度思考は冷静さを取り戻しているのだろうとは思う。
ただ明らかに恥ずかしがっていると分かる状態でも、恋人繋ぎでしっかり手を繋ぐあたりは、なんというか少し子犬っぽさもあるというか、可愛らしく感じた。
「でも、オリビア様の気持ちも結構分かりますよ。恋愛小説とかで演劇で見るのと自分で体験するのだと、やっぱり違いますよね」
「……ミズハラカオリは随分余裕そうですね?」
「いえ、いま思い出しても滅茶苦茶恥ずかしいですし、後回しにしてるだけです」
「……後回し、ですか?」
「ええ、確かに恥ずかしさとかそういうのはありますが、せっかくのシチュエーションなわけですし恥ずかしがって楽しめないのは損じゃないですか。なので、いったん羞恥心は後に回して、貴重な機会を堪能しました。あとで、家に帰ってひとりになったら思い出して羞恥心で悶えてのたうち回るので大丈夫です!」
「それは果たして、大丈夫と言えるのでしょうか? いえ、ですが、確かにその言葉にも一理あり見習うべき点もあるような気がしますね」
確かに香織さんはあまり恥ずかしがっておらずどこか余裕があるように感じられたが……別に余裕とかではなく、恥ずかしがるのは後だと割り切って開き直ってただけのようだった。
いやでも、それが切り替えの早さに繋がっている当たり、なんだかんだで香織さんは精神的にタフなんだと思う。俺もさすがにあの肩を抱く姿勢は気恥ずかしさが強かったので、いまの時点で言えば香織さんが一番落ち着いてるかもしれない。
まぁ、本人の談を信じるならあとで悶えるらしいが……。
「まぁ、いろいろ感想とかはあるでしょうけど、いまは移動を急ぎましょうか? 夕陽を見るとなると、あんまり時間的余裕はなさそうですし……」
「そうですね。公園までそれなりに長い階段があるようなので、少々急いだほうがいいかもしれませんね」
……階段、階段ね。オリビアさんはさっき「街を一望できる高台の公園」って言ってたよな? 見える範囲でそれっぽい場所は……少し離れた場所に小高い丘のような場所が見えるので、たぶんあそこだろう。
ただあの丘……結構高い気がする。街を一望できるということを考えると、確かにアレぐらいの高さは必要なのかもしれないが、あの高さまで登る階段……。
「あの、オリビアさん、長い階段ってことですけど……体力とか、大丈夫そうですか?」
「ミヤマカイト様、お気遣いありがとうございます。確かに未熟なこの身を、ミヤマカイト様が不安に感じるのも理解できます。ですが、どうかご安心を……以前の勇者の丘よりも低く、坂ではなく整備された階段です。いかに友好都市外の私の力が貧弱とはいえ、問題ないと思います」
「……無理はしないでくださいね」
なんだろうこの感じ、確かに勇者の丘よりは低いし、整備された階段を上るだけで手すりもあるので長い坂道を歩くよりは楽なのかもしれない。
でもなんか、本当に直感でしかないんだけど……オリビアさんはたぶん、半分ぐらいでバテるんじゃないかと思う。
シリアス先輩「下調べとかきっちりするのに、自分に対する見積もりが甘いせいでそこそこ自爆するよなオリビア……」