香織とオリビアとのデート㉔
時間が無かったので少々短めです。
観光を目的とした自動操縦のボートだけあって、景色を楽しむためか速度自体はゆっくりとした感じだった。肩を抱く云々で困惑したり緊張していたりして、序盤は景色などを楽しむ余裕はまったくなかったが……ある程度時間が経てば、動揺していた気持ちも落ち着いてくるものだ。
「……いい景色ですね。高台から見下ろしたりってのは結構ありますが、水路からこうやって見上げるのはまた違った雰囲気ですね」
「そうだね。私は行ったことないけど、水の都って呼ばれてるベネチアとかもこんな雰囲気なのかな? いや、完全に想像で言ってるけどね」
「あ~でも、イメージは確かにそんな感じですよね」
香織さんは元々切り替えの早い性格だったこともあり、肩を抱いた直後こそ緊張したりという感情が強かったが、いまは結構リラックスした感じで、俺にもたれかかりながらのんびり景色を楽しんでいるように見えた。
対して、いまだに強く緊張の感情が伝わってくるのはオリビアさんの方である。いや、オリビアさんも何度か落ち着いたような感情に変わることもあったのだが、直後にまた緊張するという感じのを繰り返している。
「オリビアさんは、どうですか? 景色は楽しめてます」
「あ、はい。とても美しい風景を堪能させていただいています。以前にミヤマカイト様とボートに乗った際にも感じましたが、ミヤマカイト様が近くにいるというだけで景色がより美しく神聖に感じられますね。やはりミヤマカイト様の溢れ出る威光による影響が大きいのかもしれません。ああ、決して威圧感を覚えるというわけではなく、ミヤマカイト様の纏う雰囲気は陽だまりのように温かく心地よいものですし、その慈悲深さとお優しさが伝わってくる思いです。そんなミヤマカイト様の隣で、景色を眺められる幸福を世界へ感謝せねばなりませんね」
「……オリビアさん、落ち着きましょう? もうちょっとリラックスを……」
「ミヤマカイト様に虚言を申し上げるわけにはいきませんので、恥を承知で素直に申告いたします……大変申し分かりませんが不可能です。いえ、決して現在の状態が不快なのではなく、もっとギュッとしてもらって――し、失礼しました言葉を誤りました!? ともあれ、経験の浅い私にはなかなかに刺激の強い状態であり、短時間でこれに慣れるのは不可能と判断いたしますので、ご容赦願います」
「あ、はい」
こっちはだいぶテンパっており、丁重かつどこか誇らしげにすら感じる口調で「落ち着くのは無理」と返答してきた。ただ途中に肩を抱かれているのは不快ではないと主張してくるあたり、この状態の継続は望んでいるようであり、緊張してるし恥ずかしいけど嬉しいと……そんな感じではないかと思う。
まぁ、なんというか、この丁重な言葉づかいで慌ててる感じは、なんともオリビアさんらしくて可愛らしかった。
「そういえばこれって一回りするまでにどれぐらいかかるんですかね?」
「通常は45分ほどとのことですが、デートコースの場合は通常のものよりゆっくりと運転するらしく1時間ほどだそうです」
「なるほど、じゃあ、まだまだ時間はありますしのんびりできそうですね」
体感ではあるがいまはおおよそ10分から15分程度経過したところなので、まだまだ時間的な余裕はありそうだ。
1時間と聞くと長めに聞こえるが、船で水路を移動して観光すると考えればそのぐらいだと思う。意外と慣れてくると、この横長の椅子もソファーっぽくて座り心地がいいし、リラックスできる気がする。
オリビアさんもまだ緊張の感情が強いものの、それでもある程度楽しんでいるような感情も伝わってき始めたので、このまま他愛のない雑談をしながらしばらく両手に花の状態での観光を楽しむとしよう。
シリアス先輩「……し、しかし、だ……こいつら恋人でもないのに、手を繋いで、恋人繋ぎして、ハグして、肩まで抱いたぞ……ちょっとハイペースすぎるんじゃないですかね? 糖度上ってきてる感じなので、この辺で一度落ち着いて……」