香織とオリビアとのデート㉑
オリビア視点も入れたかったのですが、時間が足りずにオリビア視点は次回となりました。
ゴンドラの席に座り、目の前にある文字に視線を浮かべながら、香織は静かに思考を巡らせていた。
(ほ、ほ~ん、な、なるほど、そういうやつね。いやいやいや!? 何気にこれ、結構すごい状況になってない!?)
否、静かだったのは最初だけで即座に思考はパニックに移行した。それでもある程度パニック耐性は高いのか、支離滅裂な思考になったり意識が彼方に飛び去ったりはせず、現在の状態に関しての思考が回る。
(こ、これはもう完全にカップルとか夫婦のムーブじゃないかな? ああいや、デートコースなんだしそういうものではあるんだろうけど……ああでも、例えば友達以上恋人未満みたいな青春丸出しカップルが乗ったとして、目の前に書かれてるみたいなメッセージがあれば、「オススメって書いてあるから~」とか言いつつ関係進展のきっかけになったりするのかな?)
席に座った正面、派手に主張するわけではないがふと目に付く位置に書かれた、肩を抱くことを推奨する文字……やはり思考の中心は、その肩を抱くという行為に関してだった。
(というか密着度凄いね、このゴンドラ……演劇の時の椅子は肘置きとかあったから、それを比較するとかなりの密着度だよ。確かに肩を抱く姿勢には移行しやすい気がするけど……だ、駄目! さすがに、肩を抱くとかはレベルが高すぎるというか、恥ずかしすぎる!!)
そもそも香織は、本人もなぜかよく分からない流れで快人とデートすることになっているだけで、快人と恋人だったりするわけではない。あくまで同郷の友人というだけの関係である。ちょっと、異性の中では一番好感度が高くて、ちょっと様々な面が好みに合致していて、ちょっとことあるごとにドキドキしたり、ちょっとある程度踏み込んだりした行動をとってもいいかなぁと思ってる相手というだけで、あくまで友達である。
友達以上恋人未満とかという甘酸っぱい関係でもなく、あくまで友達かつ「ちょっといいな」と思っている異性であり、現段階で告白されたとしたら熟考の末にギリ頷く程度の関係であり、例えるならビーフカレーとチキンカレーぐらいの差はある。
(……まぁ、肩を抱かれながら綺麗な景色を見るというシチュエーションに憧れが無いとは言わないよ。ハグよりは難易度も低い気がするし、相手が快人くんなら別に嫌じゃないから、仮に快人くんが目の前のメッセージ通りに肩を抱いてきたとしたら……まぁ、それは仕方ないよね。書いてあるわけだし、快人くんもついそういう行動をしちゃっても不思議じゃない。年長者としてそこは咎めるんじゃなくて、受け入れてあげるぐらいの度量はあるつもりだよ)
誰に対してかは分からないが、香織は心の中で言い訳を始める。肩を抱かれるというシチュエーションには憧れがあり、先程のハグの話題のドキドキした気持ちもある程度持ち越している状態であり、恥ずかしすぎるという問題点にさえ目を背ければ、本人自身も以外ではあったが割と乗り気な気持ちだった。
(でも、相談したりしたら恥ずかしすぎて絶対拒否する。だからもしオススメ通りの行動をするなら、変な確認とか無く強引にいって欲しい。私は年上ぶりたいタイプだけど、たまには強引な感じでリードされるのもいいかなとか思ってるし……うん。快人くんの判断に委ねよう! 快人くんが肩を抱いてくるなら、それはもう仕方ないよ。私よりずっと恋愛経験も豊富な快人くんが、オススメの文字を見てその通りに行動するなら、きっとそれが最善なわけだし、それはもうしょうがないから……そうなったら年下イケメンに肩を抱かれるシチュエーションを堪能すればいい。逆に快人くんが動かなかったり、「どうしますか?」とか相談してきた場合は肩を抱かれるシチュエーションは次の機会ってことで、普通にこのままの態勢で景色を楽しめばいい。うん、どっちに転んだとしても私が損するような展開にならないし、これでいこう!!)
香織は最終的な結論として待ちの姿勢を選んだ。恋愛経験が薄い己が慌てふためいて行動しても悪い結果にしかならないだろうし、それなら快人の判断に任せてしまえばいいというある種丸投げの結論であった。
そもそも、香織にとって快人はかなり気になる異性であり好感度も高く……別に肩を抱かれる程度は普通に受け入れる程度には好意的だ。
あくまで自分が言いだしたり、前置きしてやるには恥ずかしすぎるというだけ……そんなこんなで、香織は流れに身を任せることに決め、混乱していた思考を穏やかに整えて景色を眺め始めた。
シリアス先輩「落ちてない? もうこの子普通に攻略完了してない!?」