香織とオリビアとのデート⑳
オリビアさんに案内されて街を移動していると、なるほど少し景観が変わってきた。いままでは赤レンガ造りのお洒落な商店街という感じだったが、水路があちこちに見え始めて、建物なども特徴的なデザインのものが増えてきた。
「同じ都市でも、この辺は結構雰囲気が変わりますね」
「お洒落なオーラが凄いねぇ……あっ、オリビア様、アレが乗る船じゃないですか?」
「そのようですね」
香織さんの言葉に反応して水路の方に目を向けると、なんというか水の都とか聞いてイメージするような前と後ろが沿った形状の船が並んでおり、周囲にはそれなりの数の観光客が見えた。
オリビアさんの話だと船は自動操縦らしいので、数が多くてもぶつかったりする心配は無いのかもしれない。或いは、衝突とかを避けるために時間差で出発させるのかもしれない。そう考えると、遊園地とかのアトラクションに近いイメージだ。
「船もいろいろ種類があるみたいですね。大きさ自体にそこまで差はない感じですが、座る場所とかが違うんですかね?」
「私が調べましたところによると、いくつかコースが用意されておりそれによって船の形状が違うようです。今回はデートコースというのを選択しました」
「……デートコース?」
「はい。観光コース、遊覧コースなどといろいろあるようでしたが、デートコースというものもあるらしく、今回の目的に最も適していると考えて選択しました」
「……なるほど」
これはあくまで俺の予想であり、なにも確証などがあるわけじゃないのだが……わざわざデートコースって銘打って、船まで専用のものに変えてるってことは、恋人とか夫婦が一緒に乗ることを想定した作りなんじゃないかと思う。
そして、船は自動操縦でありオールを動かしたりする必要はなく、そういった操縦を考える必要が無い分席の作り方にも幅がある……これ、もしかして結構密着して座るような形状になっているのでは?
「オリビアさん、質問なんですが……そのデートコースって、人数指定とかはありました?」
「はい。事前に人数と種族を指定するようでしたので、三人で申し込んであります」
この世界においては三人でのデートと言うのもごく一般的であり、魔法もあるので船の広さとか席の配置を人数に合わせて変更できても不思議ではない。しかも人数だけでなく種族まで指定……。
いや、まぁ、そうは言ってもせいぜい並んで座るぐらいの形状か……それなら演劇の時と大して違うわけでもないし、問題はないかな?
そんな少し前の自分の思考にやや呆れてしまうというか、若干予想とは違った感じであることを悟ったのは船が止まっているところに辿り着いてからだった。
事前に予約してあるということで手続きなどにも時間はかからずすぐに案内してもらえたのだが、予想通りぶつかったりしないように前の船とはある程度間隔をあけて出発するらしい。
そして偶然ではあるが、俺たちと同じデートコースを選択したであろう人たちが前の順番で、さらに偶然にもこちらと同じく男性ひとり女性ふたりという構成だった。
そしてデートコース用の船だが、座席は横長の席がひとつだけ……三人で座るとかなり密着するような……少なくとも肩は触れ合うであろう程の大きさである。
……やっぱりこれはある程度密着することが前提になる感じじゃないだろうか? そして、前の客に関しては男性が真ん中に座り、両側の女性の方を抱くような形になって出発していった。
「……あ、ああやって乗るもの……なのかな?」
「どうでしょうね? 肩を抱くまでする必要はなさそうですが、席は三人で結構ギリギリのサイズって感じですね」
「これ、完全に密着する想定で作ってるよね?」
「まぁ、デートコースなので恋人とか夫婦用って感じなのでは?」
いちおう俺たちの場合は、オリビアさんが小柄なこともあって若干余裕はありそうだが、それでも三人で座るにはそこそこ密着はするであろうサイズである。
「も、もも、申し分かりません。こ、ここ、このような形式とは思わず……ミヤマカイト様に不快な思いをさせてしまう可能性が……」
「いや、それは無いので安心してください。むしろ、オリビアさんたちの方が嫌だったりしないですか?」
「そのようなことはありえません!」
「じゃあ、大丈夫ですよ。安心してください」
まぁ、かといってここで尻込みするような感じになってしまうとオリビアさんが責任を感じるだろうし、最悪自分は立っているとか言い出しかねないので、問題ないという感じで押し切ることにした。
香織さんの方をチラリとみると、苦笑しつつ頷いてくれたので香織さんも問題ないらしい。
……まぁ、ひとつ問題があるとすれば、席に座ってみると丁度視線の先に来るような場所に「肩を抱いて座るのがオススメ」とか書かれてることだろうか……ど、どうしよう?
シリアス先輩「余裕そうにしてると自爆するなオリビア……」