香織とオリビアとのデート⑲
オリビアさんが冷静な状態に戻るまでは少々時間がかかったが、それでも少し前の混乱具合と比べれば全く問題ないレベルであり、すぐに演劇の感想の会話も再開できた。
そしてやはりというか、香織さんが話題を引っ張ってくれる感じであり、こちらとしては香織さんの話す話題に乗っかる形でいいので楽な感じだった。
「あの告白のシーンも凄くよかった! 俺だけのために歌ってくださいって……やっぱり、精霊族の恋愛物と言えば歌に関わる内容の告白だよね。王道ではあるけど、それだけ安定感もあってよかったなぁ……」
「……精霊族への告白に歌に関わる内容ですか? そのような話は初めて聞きましたね。精霊族が婚姻の際に自らの魔力で作り出した黄金の果実を贈るというのは聞いたことがありますが……いえ、神教が取り仕切るのは基本的に婚姻ですし、交際に関しては預かり知らぬ部分も多いので、私が知らないだけなのかもしれませんね」
「え? そうなんですか? いや、私も精霊族の知り合いとかは全然いなくて、本とかの知識なんですが……精霊族の恋愛物だと、歌に関する告白がド定番って感じですね。愛の歌を歌って気持ちを伝えたり、逆に精霊に歌って欲しいってお願いしたり、そんな展開のものが多いです」
これはタイムリーというか、少し前にジュティアさんに聞いた話題に関わる内容だ。香織さんは基本的に恋愛物の小説や演劇からの知識なのだろう。逆にオリビアさんは、今回のデートにあたりいろいろ参考となるものは読んだみたいだが、精霊族の恋愛は特に今回のデートの組み合わせに該当する部分はないと考えたのだろう。
というか、間違いなく人間族の恋愛物などを参考資料として勉強してきたのだと思うから、精霊族について描かれる恋愛物の定番を知らなくても無理はない。
「それに関しては、俺も少し前に知ったんですが……実際は、オリビアさんの言うように精霊族が歌に関する告白をしたりってのはほぼ無いみたいですよ。というかそもそも精霊族の恋愛自体が少ないみたいです。ただ精霊族にとって歌は特別なものなので、そこから派生して創作物とかでは歌に関わる告白が定番という形になっていったみたいですね」
「へぇ~そうなんだ。まぁ、確かに物語とかだと映えるけど、実際の恋愛事情で自分のために歌って~とか言ったら変な感じだよね」
「さすが、ミヤマカイト様は博識ですね。叡智の光を受け、私自身の見識も広がりました」
感心したように話す香織さんと、感動したように話すオリビアさん……それぞれの性格がよく出た反応だと、そんな風に感じた。
カフェから外に出て再び街を歩く、それなりに長く話していたとはいえまだ夕方には遠い時間帯だが、次はどこに行くのだろうか?
「次はどこに行くんですか?」
「お昼食べてカフェにもいってるから、食べ物とかはもういいだろうと思って、この先は観光を中心に行く予定の筈だよ。場所とかはいくつか候補を話し合って、最終的にはオリビア様が決めてくれたはずだけど……」
「はい。いくつか候補は考えましたが、今回は時間的にも余裕がありそうなのでこの街の南西にある運河を模した観光地に向かいます。そちらでは、景観を重視した建物が並ぶ水路を船で見ることができるそうです」
それはかなりよさそうな感じである。赤レンガ造りの建物が多い街を、船で水路を進みながら眺めるのは想像するだけでもかなりいい雰囲気だ。
香織さんの言うように午前中は買い物、午後に演劇鑑賞とカフェと、ここまでそこそこアクティブに動いてきたので、のんびり船に揺られながら景色を楽しむというのは素晴らしい。
「それは楽しそうですね。そういえば、前にオリビアさんと出かけた時も一緒にボートに乗りましたっけ?」
「はい。その節はミヤマカイト様には多大なるご迷惑を……今回はあの時の反省を生かし、船は自動操縦があるものを選んで予約してあります」
「そうなんですね。いろいろ気遣ってくれて、ありがとうございます」
「は、はひぃ……も、もも、もったいないお言葉です」
「オリビアさん?」
「問題ありません! す、少しだけ雑念が……」
なぜかちょっと慌てた様子になっていたオリビアさんだったが、本人が問題ないという以上深く聞くわけにもいかないので、追及したりすることはしなかった。
ただなんだろう? 少しだけだが、俺の手を握るオリビアさんの手の力が強くなったような気がした。
???「おっと、この状況は? 砂糖マスターのシリアス先輩、解説をどうぞ!」
シリアス先輩「これはな、少し前まではテンパってる部分が多かったが、いまは落ち着いたことで逆に快人を意識して不意な微笑みにドキドキしたパターンだな。そもそも、オリビアは快人への感謝を高めすぎた結果、いつも以上に快人に対して恋愛クソ雑魚になっているわけで、この反応も必然なのだが……ここまでは展開による混乱であまり表に出てきてなかっただけ……この後のイベント的に、夕方に景色のいい場所に行くまでは比較的余裕ある時間帯って感じだから、少し気が緩んだのもあるんだろう……って、誰が砂糖マスターだ!?」