香織とオリビアとのデート⑱
おしゃれで落ち着いた雰囲気のカフェに入りテーブルについて、俺は店員に確認を取ってからテーブルの上に魔法具を置いて起動する。
「快人くん、それなんの魔法具?」
「ああ、これはニフティの店舗で使ってるやつの携帯版で、一定範囲に認識阻害と会話が聞こえないような結界を張る感じです」
「なるほど、ミヤマカイト様のご威光は天地を眩く照らすほどですし、一般市民の衆目を集めてしまうでしょうからこういった対策も必要ですね。そういえば以前にともに出かけた際にも、かなりの注目だった覚えが……やはり、ミヤマカイト様の偉大さは歩いているだけでも周囲に伝わるものなのですね」
……いや、それは間違いなく俺ではなくオリビアさんに注目が集まってたんだと思うのだが……いま魔法具を取り出したのもオリビアさんに周囲がオリビアさんに気付かないようにという目的だ。
そもそもオリビアさんは聖女のような雰囲気もそうだが、根本的に物凄い美少女であり、教主とか神聖な雰囲気とかを抜きにしても人目を引く。
「……まぁ、それはともかくとして、演劇の感想を話すんでしたっけ?」
「うんうん! すっごくいい劇だったよね! 最後も期待通りのハッピーエンドだったし、主人公の青年が若いからか青春感もあってさ……いいなぁ、私の青い春はどこ行っちゃったんだろ……」
演劇の話題になると香織さんが目を輝かせて語り始める。やはり相当恋愛物が好きらしくて、その感想を語り合えるというのが嬉しいのだろう。
自分の好きなものを語り合えるというのは本当に楽しいし、俺もよくジークさんとペット談義で時間を忘れて話し込んじゃうことがあるので気持ちはよく分かる。
「……以前から疑問だったのですが、ミズハラカオリがたびたび口にするセイシュンというのは、どういったものなのでしょうか?」
「えっと、説明が難しいんですが……俺や香織さんが居た世界だと、若い……10代ぐらいの時期を青春って呼んでたんですよ。なので、この場合は若々しい恋愛的なものを指しての青春って感じですかね?」
「う、うん。私も改めて説明すると難しいというか……オリビア様とかから見れば、いまの私も子供みたいな年齢だし、本当に説明は難しいですが……そんな感じです?」
「なるほど、その青春というものは、いまから行うのでは駄目なのですか?」
「う、う~ん……私の青春はまだこれからだった? いや、言われてみれば駄目ということも無いような……なんとなく青春って10代って感覚が強かっただけですし……」
これは非常に難しい質問である。なにせオリビアさんにしてみても、1000歳は越えているわけだし、オリビアさんから見れば10代と20代の差なんて誤差レベルだろう。
青春をオリビアさんに分かりやすいように説明するのは難しいというか、俺や香織さんもある程度なんとなくで使ってるところがあるので、いざ「青春の定義とは?」とか聞かれても返答は難しい。
「ま、まぁ、その辺は気持ちの持ちよう次第な部分もありますし、それぞれの感覚でいいと思います。強いて言うなら、若く未熟かつ多感な時期って感じですかね?」
「なるほど、ご指導感謝いたします。定義がある程度曖昧なものなのですね。そういった受け手側に解釈を委ねるものは神書などにもありますし、納得できました」
うん。多分微妙に勘違いをしてるとは思う。神書ってのは、いわゆる聖書にあたるものだし、若干の認識間違いはある気もするが、それを正確に説明するのも難しいし、オリビアさんが納得してるならよしとしよう。
「そういえば、劇場でやった恋人繋ぎも青春感はある気がするね。でも、快人くんはやっぱ凄いね。私正直、手を繋いでる状態から上手く移行できるかなぁ~って思ってたんだけど、凄くスムーズだったから……やっぱ慣れが大きいのかな?」
「ああ、いや、それに関してはどこかのタイミングで言わなければと思ってたんですが……申し訳ない。劇場に向かう途中の、ふたりの会話が聞こえてました」
香織さんが振ってきた話題は、どこかしらで切り出そうとしていたものだったので、ある意味ではいいタイミングと言える。
「え、えぇぇ、快人くん、アレ聞いてたの!?」
「ええ、シロさんの祝福のおかげでああいう魔力波長的な会話は聞き取れるみたいで、どうにも言い出す切っ掛けがつかめなくて盗み聞きの形になってしまってすみません」
「あ、アレを聞かれてたとなると、結構恥ずかしいけど……でも、あの場で言い出すのが難しいってのは凄く分かる! というか、あの場で聞こえてるとか言われてたら、アタフタしちゃって上手くできなかっただろうし……そういう意味ではむしろ良かったかも? いや、でも結構恥ずかしいなぁ……って、オリビア様は落ち着いてますね?」
香織さんの言葉を聞いてオリビアさんの方を向けば、確かにオリビアさんは動揺した様子も無くいつも通りの落ち着いた表情で、少し微笑みを浮かべていた。
「……ええ、天地見通す叡智を持つミヤマカイト様を前にして、そもそも隠し事などが通ると思うことの方が間違いだったというだけの話です。己の浅はかさは恥と思いますが、そもそもよくよく考えてみれば偉大なるミヤマカイト様に対して隠すようなことはなにもありません。最初から事情を説明して、その太陽の如き慈悲を賜れるように願うべきだったのでしょう。こうしていまも目にしているミヤマカイト様の、なんと叡智に溢れた佇まいか……瞳に映る知性の輝きは、三界を貫くのではないかと思うほどで……」
「……私、今日一日でオリビア様に関する理解度がかなり上がってきた気がするというか……これ顔はいつも通りだけど滅茶苦茶焦ってるし、混乱してるパターンだよね」
「……そうですね」
表面上だけは落ち着いてるように見えるが、褒め殺しモードに入ってるのでテンパってるのは間違いなかった。
シリアス先輩「表情の変化は少ないって話だけど、オリビアはなんだかんだで感情の変化は結構分かりやすいタイプな気もする」