香織とオリビアとのデート⑰
同僚がインフル感染で急な勤務変更となったので、申し訳ありませんが明日は更新はお休みです。
とりあえずオリビアさんはある程度冷静さを取り戻してくれたようなので、そのまま目的のカフェに向かって移動を再開しようと、そう思ったのだが……オリビアさんがなにやら考えるような表情を浮かべていた。
「オリビアさん、どうかしました?」
「ああいえ、予定にはない工程でしたが……ミヤマカイト様に抱擁していただくという、デート中の行動としても大きな出来事を経験できました。ただ、この場合……ミズハラカオリに関しても、同様のことを経験する権利があるのではと、そう考えていました。いえ、もちろんミヤマカイト様の意志が最優先ですが……」
「うえっ!? こ、ここで私に飛び火してくるんですか!? えぇぇ……い、いや、さすがにハグは恥ずかしすぎるので……ちょっと、勇気が……嫌ってわけではないんですが、こう、恥ずかしさが……」
唐突に話を振られた香織さんは、慌てた様子で言葉を返しつつ、少し恥ずかしそうに俺の方をチラチラと見てきていた。
仕草が大変可愛らしいというか、言葉通りハグが嫌というわけではないが、恥ずかしいという感じの反応だ。
たぶんだけど、オリビアさんは香織さんも一緒にデートをしているんだから、出来るだけ同じような経験をしたほうがいいと考えてるんだと思う。というかオリビアさん的には香織さんを気遣っての発言だと思う。
恋人繋ぎをする際にも香織さんに話を振っていたし……。
「ふむ……そうですね。確かに、この抱擁は明らかにランクの違う行動ですし、本来はもっと先で行うはずのものなのでしょう。迂闊に行っては私のように、半ば意識を失う危険性もありますし、次に機会があればということにしましょうか? ミヤマカイト様はいかがでしょう? そういった機会があった際には、ミズハラカオリにも私と同様に、抱擁をしていただけますか?」
「え? ええ、香織さんが構わないのであれば……」
「……あれぇ? なんか、のちのちハグすることが確定みたいな流れに……いや、まぁ、それはそれとして……オリビア様、ハグってそんな凄かったんですか?」
ハグがランクの高い行為かどうかはさておいて、密着度という点であればかなり高いとは思う。ただ香織さんは思ったよりは乗り気というか、恋愛物が大好きというのも関係しているのかハグそのものには結構興味がある感じだ。
「そうですね。やはり知識として知るのと、実際に体験するのではまったく違うのだと感じました。ミズハラカオリ、貴女もミヤマカイト様と指を絡めて手を繋いだ際には、少なからず衝撃を受けたかと思います。ですが、それすら比較にならぬほど……あの温もりと全身を包み込まれるような安心感は、とてつもないものでした」
「そ、そんなに……へ、へぇ……なるほど……」
熱く語るオリビアさんの言葉を聞いて、香織さんはなにやら非常に悩んでいるような表情で俺の方を見る。オリビアさんから話を聞いてハグをしてみたいという気持ちは湧いてきたのだろうが、それはそれとして恥ずかしいという感じだろうか?
「……えっと、ハグ、やってみますか?」
「……う、う~ん。興味はある。正直どんな感じなのか、やってみたいって気持ちもあるし……欧米とかだと、挨拶でしたりするんだよね? じゃあ、ちょっとやってみてもって気持ちもあるんだけど……や、やっぱここじゃ恥ずかしいよ!」
「まぁ、普通に通りですからね」
「うん。だからその……よ、予約ってことで!」
「……予約?」
突然不思議なことを言い始めた香織さんに首をかしげて聞き返すと、香織さんはやや赤くなった顔で説明してくれる。
「うん。ハグは正直してみたいけど、ここでやるのは恥ずかしいから、また今度……もっとこう人の目が無いところで……ほら、例えば開店前の私の店とか、そういう場所で……か、快人くんさえよければだけで、後学のために体験させてもらえたらなぁって……」
「え、ええ、香織さんがそれでいいなら、俺は構いませんよ。じゃあ、とりあえずハグは次の機会ってことで、カフェに行きましょうか」
「そうだね、そうしよう!」
恥ずかしさを誤魔化すように無理やりテンションを上げて歩き出す香織さんを見て軽く苦笑する。ただ、それはそれとして……開店前の香織さんの店でハグするって、それはそれで凄い絵面になる気もするんだが……ま、まぁ、香織さんがいいなら……いいかな?
シリアス先輩「開店前の店の中で抱き合う男女……逢引じゃねぇか!!」




