香織とオリビアとのデート⑯
さて、この状態をどうするべきか……いま起こったことを整理すると、フリーズしていたオリビアさんに声をかけているとオリビアさんが不意に俺に抱き着いてきて、少し経ってから青ざめた表情で離れたとそんな感じである。
なんとなくその行動は突発的な事態への混乱の末のものであるというのは理解できた。多分混乱した思考のままで、俺がハグしてきたから自分もとかそんな感じに考えたのかもしれない。
少なくとも冷静な状態での行動ではないだろう、そうであるなら血の気が失せたような表情で離れるわけがない。
どう声をかけるべきか迷うところではあるが、恐らくというか確実にあまり時間はない。オリビアさんは次の瞬間に土下座し始めてもおかしくないような状態である。いや、土下座で済めばいいが、それこそオリビアさんの性格を考えれば、腹を切ろうとしたとしても不思議ではない。
急げ! とにかくオリビアさんが行動を開始する前にこっちが動くんだ!
「あ、あの、もうしわ――」
「オリビアさん!」
「――はひっ!? な、なんでしょうか、ミヤマカイト様?」
ギリギリではあったが、大きめの声を出してオリビアさんの言葉を遮ることで発言の阻止に成功した。とりあえずこの先は隙を与えては駄目だ。
とりあえず間違いなくオリビアさんは先程抱き着いたことに責任を感じているはずだし、俺に対して不敬だとかそんなことを考えているのは間違いない。
「ありがとうございます。俺のハグに対して同じように返してくれたんですね」
「え? い、いえ、私は……」
「というか、いきなりハグをしてしまって申し訳ない。オリビアさんが混乱していたようなので落ち着けばと思っての行動だったんですが、かえって混乱させてしまいましたね。不快だったりしませんでした?」
「ミ、ミヤマカイト様が謝られるようなことはなにひとつありません!? それに、私がミヤマカイト様に抱きしめられることを不快に感じるなどということもありはしません。むしろ、大変に光栄で幸福で……」
「そうですか? そういってもらえると助かります……というか、俺と同じ気持ちですね。俺もオリビアさんが抱き着いてくれて嬉しかったですし、お互い混乱しての行動でしたけど結果的によかったかもしれませんね」
「……え? あっ、そ、そうなのでしょうか……ミヤマカイト様が仰られるのなら、きっとそうなのですね」
かなり強引かつ力尽くではあるのだが、オリビアさんの行動前に俺もハグをしていたというのがいい方向に働いた。お互いハグをしたし、互いに嫌な気持だったわけではないので問題ないという結論に持っていきやすい。
ともかくこっちのペースに乗せてしまうほうがいい。基本的にオリビアさんは俺の言葉は絶対みたいに考えているところがあるので、俺が互いに良い結果だったと強引に結論付けてしまえば、そこに異を唱えたりはしないだろう。
「それにいまはデートしてるわけですし、ハグすることもありますよ。オリビアさんが参考にした本とかにも、そういうのはあったんじゃないですか?」
「た、確かに、互いに抱き合うような描写が……もっと終盤に差し掛かったタイミングで行われるものという固定観念がありましたが、言われてみれば別にどのタイミングで行ったとしても……」
「まぁ、お互い突発的な行動だったのはちょっと失敗でしたが、問題とかはまったくなさそうですから……互いにいい経験をしたってことにしませんか?」
「あ、はい。ミヤマカイト様がよろしいのであれば、私に異論はありません」
……よし、押し切った。少なくともこれで俺が「いい結果」といった以上、それに対して不敬だとか大罪だとか言い出すことは無いだろう。
「……ミヤマカイト様も不快ではなく……それはとても光栄で幸せな……ま、また雑念が!?」
「オリビアさん?」
「し、失礼しました。大丈夫です」
「そうですか? じゃあ、足を止めちゃいましたし改めてカフェに向かいましょうか」
なにかを思い出すような表情を浮かべていたオリビアさんに声をかけると、若干慌てた様子で大丈夫だと告げて、一度離していた俺の手を握りなおしてきた。
ちゃんと恋人繋ぎにする当たり律儀というかなんというか、ただ頬に赤味が差しているので照れている感じはする。
ま、まぁ、なんにせよ……オリビアさんが天下の往来で土下座とかしたりすることにならなくて、本当によかった。
シリアス先輩「……あの、快人? ほぼ口説いてるみたいなセリフだったんだけど……なんなら最後に『またしましょうね』とか付け加えても、オリビアは二つ返事で頷いた気がするレベル……もうフラグは完全に完成してるな……」