香織とオリビアとのデート⑭
流石人気のある劇団の演劇というだけあって、本当に見事なものだった。魔法演出によってかなり派手な感じもさることながら、ストーリーも面白く、役者の演技も素晴らしかった。
事前に備えていたおかげで、香織さんとオリビアさんの普通に手を繋いだ状態から恋人繋ぎへの移行もスムーズに達成できたし、文句なしの結果と言っていい。
「面白かったですね」
「うん! 最高だったね! 最後も幸せな結末で本当によかったよ……まぁ、その辺りはこれから行くカフェで話そう!」
香織さんが前に言っていたように、演劇を見た後はカフェで感想を話し合う予定だ。それに関しては問題ないというか、丁度喉が渇いていたのでカフェに行くのは大賛成である。
今回行ったのはお洒落な雰囲気の劇場なので、ある意味では当然かもしれないが……映画館とかのように客席で飲めるドリンクとかポップコーンを販売していたりするわけでは無かったので、面白かったとはいえ演劇が結構長かったので喉の渇きを感じるし、小腹も空いた。
……まぁ、仮にドリンクが販売されていたとしても、両手を繋いでいる状態だと飲むのは難しそうではあるが……。
「け、けどアレだね。この手の繋ぎ方って、やっぱ結構恥ずかしさはあるよね。いや、感覚的には結構好きというか……安心感みたいなのはあるんだけど、いざ外に出ると恥ずかしさが増してくるね」
「元の繋ぎ方に戻しますか?」
「う~ん……快人くんは嫌じゃない? 嫌じゃないなら、私としてはもうちょっとこのままがいいかな……」
「ええ、俺も気恥ずかしさは感じますが、それ以上にこうして香織さんと手を繋いでることに嬉しさもありますから、まったく問題ないですよ」
「ふぐっ、ま、また君はそうやって……」
事実として、香織さんの言う通り恥ずかしさというのは少しあるが、それ以上に香織さんにオリビアさんという素敵な女性と手を繋いで歩けているという喜びもある。
まぁ、両手を繋いでいる状態だと、結構要所要所で動きにくい場面もあるなぁと思うが、工夫すればどうとでもなるし必要なときは一時的に手を離したりすればいいので、まったく問題はない。
ただそれ以外にひとつ問題があるというか、オリビアさんが劇場を出てからずっと無言である。手を繋いで一緒に歩いているし、なんならずっと俺の方を見上げるように視線を向けているので意識が無かったりというわけではないのだが……。
「……えっと、オリビアさん? 大丈夫ですか?」
「はい……今日もミヤマカイト様は大変尊く神々しく、こうして目にしているだけでこの身に収まりきらぬほどの幸福を感じています。恐れ多くもこうして手を繋ぎ隣を歩かせていただくことが、どれだけ幸福で得難いものかを再認識していまして、私の心にはミヤマカイト様への感謝と信仰心が満ち満ちています。ミヤマカイト様は、歩く姿ひとつとってみてもまさに天上の美と表現するのにふさわしく、大地を踏みしめ歩く力強さたるや、雄々しさも類まれなるものであると実感しています。そんなミヤマカイト様が、こうして私に声をかけてくださる幸福に祈りを捧げられぬ状況……大聖堂に戻った後で、果てなき感謝の心で祈りを……」
「オリビアさん? 落ち着きましょう……」
「なんだろうこれ、表情はいつも通りだし口調も落ち着いてる感じなんだけど、オリビア様がテンパってるのがヒシヒシ伝わってくるよ。こんなオリビア様初めて見た」
ポカンとした表情で呟く香織さんの言葉通り、オリビアさんは明らかにテンパっている状態であり、いわゆる褒め殺しモードに突入しているのは間違いない。
ただいままでの明らかに慌てている感じの褒め殺しモードではなく、熱にうなされた様にジッと俺の顔を見ながら、まるで歌うように称賛の言葉を紡いでいく……こういう状態もあったのか……、
「……なんだろうねこれ? こっちの話を聞いてるようでサッパリ聞いてないというか、ずっと快人くんのことを絶賛してて、意識どっか行っちゃってるような気さえするよね」
「そうですね。この状態は俺も初めて見たのでどうすればいいか……」
「ふむ……あっ、そうだ! さっき見た演劇にもこういうシーンがあったよね! ほら、精霊のヒロインが悩みを叫ぶみたいに自分の使命について語ってて、主人公の話を全然聞いてなかったシーン……その解決法で行けばいいんじゃないかな?」
「……それ、主人公が捲し立てるヒロインを抱きしめて落ち着かせたシーンでは?」
どうも大好きな恋愛の演劇を見て変にテンションが上がっているらしく、香織さんは繋いでいた手を離してハグをしてオリビアさんを落ち着かせろと提案してくる。
う、う~ん? ど、どうなんだろ? 驚かせて意識をこっちに戻させるっていうのはありだと思うけど、抱きしめたりは流石にオリビアさんに失礼な気も……いや、でも、このままの状態にしておくのもというのもあるし……と、とりあえずやるだけやってみようか?
若干状況に流されている感じはあったが、とりあえず試すだけ試して……ダメだったら他の方法を考えよう。
「オリビアさん、ごめんなさい。ちょっとだけ失礼しますね?」
「太陽の如く偉大なるミヤマカイト様が、矮小な私如きに謝罪する必要のあることなどあろうはずが、失礼などということは存在しませんし。なにもかも全て。ミヤマカイト様のご意志のまま――ッ!??!?!?!?!?」
淡々と呟き続けるオリビアさんをソッと軽く抱きしめてみると……オリビアさんは目を見開いたまま時間が止まったように完全停止した。
……あれ? これ状況悪化してない?
マキナ「私はね、オリビアのことは本当に高く評価してるんだよ。愛しい我が子を称えるっていう、基本的な土台がしっかりしてるから見てて安心感があるよね。こういう子なら、私としても愛しい我が子との仲を応援したいって気持ちになるよ」
シリアス先輩「……テンパってる状態の時は暴走してるマキナに若干似てるのか……まぁ、オリビアの方は狂気はまったく感じないというか、純粋な信仰心と好意って感じだから、マキナの暴走とはだいぶ印象が違うけど……あとオリビアの場合は、いちおう快人の話は聞いてるし返事もしてるんだよなぁ、意識がどっか行ってて返事はしてるけどイマイチ話は通じてない感じはあるけど……」