香織とオリビアとのデート⑩
たどり着いた劇場は、これはまた赤レンガ造りのお洒落な建物であり、中も広く綺麗だった。内装とかがレトロな感じに見えるが、これはたぶんあえてそういう雰囲気にしているのだと思う。
今回公演する劇団のポスターなどもあり、人もそれなりに多いので香織さんの言う通り人気の劇団のようだった。俺はなんの演目を見るのか知らないままで来たのだが、ポスターを見る限り精霊と人間の恋の物語的な感じだと思う。
「この劇団は、魔法演出とかも凄いらしいよ」
「へぇ、それはかなり期待できそうですね。俺も魔法演出ありの演劇は何度か見たことがありますが、やっぱなしのものより迫力や臨場感が凄いんですよね」
「うんうん。映画とはまた違った迫力があっていいよね~」
オリビアさんが事前に用意してくれていたチケットを受け取り、入場の列に並びつつ会話を行う。いまの時点では香織さんとは繋いでいた手を離して、開いた手でチケットを持っている形であり、オリビアさんとは手を繋いだままでいる。
というのも事情があって、エリスさんのチョコレート店とかでもそうだったのだが、私服姿で普段とは違ってもオリビアさんにはなんか、聖女っぽいオーラというか独特の雰囲気があって、割とすぐに教主だと気づかれてる感じだった。
それで思い至ったのが、少し前に表情の変化を隠せないだろうかと考えたシロさんに貰った認識阻害眼鏡である。これをかけた状態で手と繋いでいれば、オリビアさんにも認識阻害魔法の効果が及ぶのでオリビアさんも周囲の人に気付かれなくなるという感じだ。
「……申し訳ございません。認識阻害にまでは気が回っておらず」
「いえ、俺もさっきまで思いつきませんでしたしね。でもこうして手を繋いでおけば、オリビアさんに気付かれて変に注目を集める心配もないですし、安心ですね。まぁ、オリビアさんには入場の時も手を繋いだままになってしまうので、ちょっと不便かもしれませんが……」
「い、いえ、そのようなことは!? むしろ、私といたしましては偉大なるミヤマカイト様の手のぬくもりを感じられることはこれ以上ないほど幸せで、叶うのならいつまでもこのままでと感じてしまうほどですし、不都合などは全くありません」
オリビアさんは友好都市の外では認識阻害魔法なども使えないし、認識阻害眼鏡を貸そうにもこのメガネは俺の顔のサイズに合わせてあるので、オリビアさんには大きすぎるということで手を繋いだままという形で行くことにした。
(……ミズハラカオリ、助言を賜りたいのですが……例の件を実行するタイミングは、どこが適切でしょうか?)
(え? えぇ、私にそれ聞きます? う、う~ん……や、やっぱり、こう演劇がいい感じの雰囲気になった時じゃないですかね)
(なるほど……いい感じの雰囲気とは、具体的にはどのような?)
(ぐ、具体的に!? え、ええっと、恋が進展したような感じの時とか……)
香織さんが若干返答に困ってる感じのやり取りをしているが、例によって俺には筒抜けである。これに関しては後でちゃんと聞こえていることは伝えるつもりなのだが、いまのタイミングで伝えるとオリビアさんとかテンパってしまいそうな気がするし、とりあえずオリビアさんの目的を達成してからかな?
いや、でも、よくよく考えればこれ事前に知れておいてよかったかもしれない。手を繋いでる状態から恋人繋ぎに移行するのって、互いに分かってる状態であればスムーズにいくかもしれないが、どちらか片方だけが実行しようとしても変な感じになりそうだし……。
本当に幸いだったのは、オリビアさんも香織さんも実行するときのタイミングとかを考えて緊張したりしているのか、ひとまず俺の表情とかから会話が聞かれていることに気付いたりはしてないようだ。
そんなことを考えながら劇場の中に入り、指令された席に座る。オリビアさんはかなりいい席を取ってくれたみたいで、舞台が綺麗に見える場所だった。
オリビアさん、俺、香織さんという並びで座り、ほぼ準備は整ったと言っていい。オリビアさんから「ここが天下分け目の決戦」とでも言いたげなほどの、滅茶苦茶強い決意の感情が伝わってくるが……そ、そこまで気合入れるものではないような……ま、まぁ、オリビアさんにしてみれば恋人繋ぎを実行するのは、本当に決戦に赴くような心持なのかもしれない。
ま、まぁ、とりあえずなんとか、俺の方もうまく対応してあげれたらいいなぁ……。
シリアス先輩「でも言われてみれば、快人に知られてない状態で普通に手を繋いでる形から恋人繋ぎに移行しようとして手を動かすと、手を離したがってるのかって勘違いされたりしそうだし、そういう意味では伝わっておいて正解なのか……?」