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香織とオリビアとのデート⑤



 陽光に照らされた美しき花畑。色とりどりの花々が咲き誇り、鼻腔をくすぐる心地よい花の香りが漂ってきて、心に穏やかさをもたらす。

 煌めくような太陽の光と共に、花畑には福音の如き音楽が鳴り響き、それを耳にするものを天上へと誘う。

 オリビアは神域を訪れたことは無い。だが、伝え聞く神域とはこのように素晴らしいものなのかもしれない。まさに世界の神が住まう美しき地、祝福の場所、それを映すオリビアの瞳にもキラキラとした輝きがあった。

 オリビアは確信した。心に満ちる幸福を――そう、信仰とは尽くすことと見つけたり。


 ……時間にして約1秒、オリビアの思考は別世界へと飛び立った。だがしかし、快人を目の前にしているという状況でいつまでも呆けているわけにはいかず、オリビアは気合と根性で思考を戻した。


(――はっ!? あ、あまりの幸福感に意識が飛んでしまいました。こ、これは、あまりにも危険です!? ミヤマカイト様に食べ物を差し出し、それをミヤマカイト様が食してくれているという状況自体が、ミヤマカイト様に尽くしているという実感を湧き上がらせて胸を幸福で満たされます。さらにミヤマカイト様の体温といいますか、それを指先で感じるというのは大変に、大変に危険で……こんなことを繰り返せば、私の頭は蕩けてしまいます)


 基本的にオリビアの信仰心はカンスト……どころか天井を突き破って限界無しに上がり続けているというレベルで高い。日頃から心の中でシャローヴァナルや快人を絶賛していることからも、その信仰心の高さを疑う余地はない。

 そんなオリビアにとって、快人のためになにかを行い、それを快人が受け入れてくれるという状況……快人に尽くしていると実感できる行為は、あまりにも大きな幸福感をもたらした。


「……オリビアさん? 大丈夫ですか?」

「え、ええ、大変失礼しました。いまの行為は、事前に目標として定めていたものだったので、無事に完遂出来て達成感を覚えています」


 嘘は言っていない。実際に事前に目標として定め、料理なども下調べをして、入念なイメージトレーニングを行ってきた事が実行できた達成感はある。単純にそれ以上に幸福感が大きすぎるだけである。


(ですが、本当によかったです。事前に何度も何度も雑念を抑え込みながら、イメージを固めておいたおかげで、大きな無様を晒すこともなく乗り切ることができました。これでデートの目的をすべて達成というわけではありませんが、中盤の山場をひとつ越えたと表現すべきですね。やはり、何事も事前の想定が重要ですね)


 そんな風に心を落ち着かせていたオリビアだが、そんなオリビアに対して快人は自分の皿の上にあったカナッペを手に取り、先程のオリビアと同じように片手を添えながら差し出す。


「じゃあ、せっかくですし俺もお返しということで、どうぞ」


 これは快人にとってはごく自然な流れでの行動だった。真面目なオリビアがデートについて調べて、カップル同士で料理を食べさすような行為を必須と勘違いし、それを実行したと経緯まで含めて完璧に予想した上で、それを完遂するためのフォローを入れた形だ。

 だが、唯一誤算があるのは、先程オリビア自身が「完遂」と口にしたように、オリビアにとってはすでに目的は終了していること……。


(……え? そ、それは……想定……していません)


 そう、オリビアは快人に尽くすこと、快人のためになにかをすることに関しては入念に想定しているが……そもそも「快人になにかをしてもらう」という想定自体が、彼女の思考にはほぼ存在しない。

 なにせ、快人はオリビアが信仰を捧げる対象であり、全てを捧げて尽くすのはオリビア側だと認識しているからだ。


(な、なぜ? わ、私はなにか大きな功績をあげたのでしょうか? ミ、ミヤマカイト様の分である料理を下賜されるだけでなく、直接食べさせていただく? そ、それほどの褒賞に見合うような働きをした覚えは……も、もしかして、今回のデートの計画を立てた褒美でしょうか? ですが、それだとあまりにも褒美が大きすぎます!? い、いえ、ですが、こうしてミヤマカイト様がすでに料理を差し出している状態で、悩んでいるわけには……ミヤマカイト様をお待たせするわけには……あ、えっと……た、食べていいのでしょうか?)


 オリビアにしてみれば想定外のところから極大のご褒美が飛んできたような状況であり、カナッペと快人の間に何度も視線を行ったり来たりさせていたが、すでに快人が料理を差し出している姿勢のため、これ以上待たせるわけにもいかず、かなり緊張した面持ちで口を開いて差し出された料理を食べた。


「少し量が多かったですかね?」

「あ、いえ、そのようなことは……最初に自身で食べた一口とは、まるで違っていまして、ミヤマカイト様の手には料理さえも高次元に導くほどの力が宿っているのかと感嘆するばかりです。料理を差し出す姿も神々しく、聖堂にその姿の彫刻を飾るべきではと思うほどで……」

「あはは、それは大げさですが、喜んでもらえたならよかったです」


 褒め殺し状態というオリビアがテンパっている時に移行する状態になったことで、快人はどこは微笑まし気に苦笑を浮かべた。


(あっ……尊いです……これが……幸せ?)


 丁度いま料理を食べさせてもらったばかりで距離が近かったことで、優しい笑顔を間近で見ることになったオリビアが、再び数秒ほど意識を別世界に飛ばしたのは言うまでもないことであった。




シリアス先輩「ぐぅっ、な、中々の破壊力。本人がそれを恋愛感情と自覚してないだけで、オリビアって快人に対してデレデレだから、オリビア視点になると好感度が溢れまくってるのが伝わってくる」

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― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。 いつも楽しく読ませていただいています。 年末年始の更新お疲れ様とともにありがとうございます。 オリビアが恋人になる前から恋愛クソ雑魚組の期待のルーキー!!アリスとどっ…
更新お疲れ様です!連続で読みました! 番外編では快人さんたちの世界の人達が集まり新年会を開催される! 正義君がかなり久しぶりでした! 餅とピザの組み合わせ的なことして美味しそうだなぁ思ってるなかノイン…
 快人さんの口にオリビアさんの指が当たるのも原因の1つだけど、何よりも快人さんに尽くしている感じが、これ程の幸福感に満たされていて意識が飛んだんだね。  はい、オリビアさんの想定外の事態が起こりまし…
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