香織とオリビアとのデート③
繋いでいた手を離すと寂しそうにしたり、小柄な体格も相まってどことなく子犬感のあるオリビアさんに対して、ついつい頭を撫でるということをしてしまい驚かせてしまったが、なんだかんだでオリビアさんから伝わってくる緊張が少し和らいだので効果はあったのだと思う。
「……う~ん、こういう雰囲気もいいね。私の定食屋とは方向性が違うけど、やっぱ景色の見え方とかいろいろ考えててすごいな~って思うね」
「香織さんの店は純和風……雰囲気的には居酒屋に近いかもしれないですね」
「そういえば、ミズハラカオリの店にはこの店のような大きな窓はありませんね。アレはなにか理由があるのでしょうか?」
オリビアさんが尋ねたように、香織さんの店に大きな窓はない。換気用の窓はあるのだが、このレストランのように景色がよく見える感じの窓はない。
まぁ、和風の定食屋とかってそういう感じの店も結構多いので俺はあまり気にしていなかったが、オリビアさんが疑問に思う気持ちも分かる。
「あ~それに関しては、快人くんが言ったように私の定食屋って雰囲気的には日本……私や快人くんの居た世界の居酒屋をモデルにしてるんですよ。定食屋っぽくあちこちアレンジはしてますけど、日本って感じの雰囲気が好きなので……それで、私も詳しいわけじゃないんですけど元が居酒屋なので、酔ったお客さんが窓を割っちゃったり窓から外に出たりってのを防ぐために、換気用の小さめの窓を高めの位置に設置してる感じだと思います」
「なるほど、いろいろと工夫があるのですね」
「まぁ、たぶんそうなんじゃないかな~程度で、本当にそういう理由かどうかは分かりませんけどね。あと単純に、私の店の立地的に外が見える窓付けても景色がいいわけじゃないですしね」
そんな風に他愛のない会話をしていると、注文していたフルーツジュースが届いたようだった。ワイングラスっぽい容器が俺たちの前に置かれる。この大きめのワイングラスみたいなので飲むってことかな? かなりお洒落だ。
そう考えていると、店員がオリビアさんに声をかける。
「ご用意できるジュースが何種類かありまして、もしよろしければテイスティングを……」
「こちらの説明不足ではありますので、咎める気はありませんが……そちらに座っている男性、ミヤマカイト様がこの場において最も位の高いお方です。選択権は私ではなく、ミヤマカイト様にありますので今後は注意してください」
「大変失礼いたしました」
おっと、なんか妙な流れになってきたぞ……この店はたぶん有名店ではあるが、貴族が経営していたりというわけではないのだろう。俺のことを知らないのは無理もないし、オリビアさんもそれを咎める気は無いようだった。
だが、教主から唐突に己より上の立場みたいな言い方で紹介されたら、俺を見て「いったい何者なんだ?」って戦慄した表情を浮かべてくるのも無理は無いと思う。
でもここで一から全部説明するわけにもいかないし時間もかかるので、曖昧に苦笑しつつ俺がジュースを選ぶことになった。
いちおうオリビアさんと香織さんにも確認を取りつつ、俺の好みで柑橘系のフルーツを中心に使われたドリンクを選んでおいた。
リプルの使われたジュースも好みだったのだが、食事と一緒に飲むにはちょっと甘すぎる感じだったので、爽やかなオレンジジュースっぽい味わいの柑橘系ミックスのフルーツジュースにしておいた。
「そっかぁ、交流関係が凄すぎて私も快人くんって超有名人って思ってたんだけど、そういえばそもそも快人くんに会うまで聞いたことなかったし、一般的にはあんまり知られてないんだね」
「ええ、貴族とかにはかなり知られてるみたいなんですが、普通の店とかでは全然。俺は国のセレモニーとかそういう偉い人が出るような場所には参加しませんしね」
「……私個人としては、ミヤマカイト様の御威光はもっと広く知らるべきと思うのですが……ミヤマカイト様が望まないのであれば、現状のままがいいのでしょうね」
「そうですね。むしろ今でも結構個人的には過剰なぐらいですが……普段街を歩いたりする分には影響ない現状ぐらいが気楽でいいですね」
これに関しては本当に情報を上手くコントロールしてくれてるアリスに感謝である。いや本当に、仮にいろんな町でリグフォレシアみたいな状態になってしまったら、本当にシロさんから貰った眼鏡を常用しなければならなくなって大変である。
さすがにリグフォレシアとかは極端な例ではあるけど……まぁ、本当に俺個人としてはいま以上に有名になったりはしたくない。
「知る人ぞ知る隠れ家的フィクサー?」
「なんかごっちゃになってますし、フィクサーじゃないです」
シリアス先輩「実際、一般人にはほぼ知られてないってのは絶妙な感じで、積極的に貴族とかとは関わらない快人的にはかなり気楽だろう」
???「貴族でカイトさんと関わり合いを持つには、一定以上の胃痛戦士適正が必要ですね」
シリアス先輩「絶対に違うとも言い切れないのが、なんとも哀れだ……」




