デート計画実行㊹
人界の貴族の交渉相手を探していたらしいラサルさんは、エリスさんと少し話後日話し合いの席を用意してそちらで話すという形で話は落ち着いた。
ラサルさんは軽く俺に挨拶をした後で買って帰るチョコレートを選ぶため、店内を見て回っていく。俺たちに関してはもう買い物は終わっているので、綺麗に包装された商品をエリスさんから受け取って各々マジックボックスにしまう。
「カイト様は、この後はどちらに行かれるご予定ですか?」
「丁度お昼時なので、この後は昼食を食べる予定です。全員初めて行く店なんですが、店の名前が確か……」
尋ねてきたエリスさんに事前にオリビアさんと香織さんから聞いていた店の名前を伝える。昼食と夕食に関しては、オリビアさんがすでに予約を入れてくれているということなので、ウィンドウショッピングの時のように俺がリードしたりという必要はない。
事前にクロの食べ歩きガイドで確認したところ、地元の野菜などを使った食材にこだわるレストランという感じで、クロの評価も高めだった。
ただひとつ気になったのは、そのレストランの紹介記事に「実は秘密のメニューもある」と書かれていたが、詳細については載っていなかった。
「あの店は人気があって味も素晴らしいので、とても良い選択だと思います。せっかくなので……少々お待ちください」
「え? あ、はい」
店の名前を聞いたエリスさんはいいチョイスだと微笑んだ後で、なにやら店員に指示を出して小さなメッセージカードを持ってこさせて、そこにサラサラとなにかを書き込んだ後で小さい封筒に入れた。
「あの店には常連になると勧めてくれるメニューには載っていないフルーツジュースがありまして、食材に拘り抜いた素晴らしい味わいなので、是非カイト様にも体験していただきたいです。個人的にあの店に伝手がありまして、紹介のメッセージカードを入れておきましたので、もしよろしければ注文してみてください」
「ありがとうございます。是非、注文させてもらいますね」
なるほど、クロの食べ歩きガイドにあった隠しメニューというのは常連のみに提供してくれるメニューだったのか……。
気を利かせてくれたエリスさんにお礼を言ってカードの入った封筒を受け取り、店の外まで見送ってくれたエリスさんに改めてお礼を言ってから店を後にした。
新作のチョコレートも美味しくて、以前に結構購入したのに今回もそこそこ買ってしまった。やっぱり、あのチョコレート店はかなり美味しくていいな。
そういえば、ニフティでも少量ではあるがネピュラの作ったカカオを使ったチョコレートを販売してるし、チョコレート繋がりでコラボ商品みたいなのがあっても楽しいかもしれない。
まぁ、それに関しては俺が決められるようなことでもないし、カナーリスさんとかエリスさんに提案して乗り気であればって感じだろうか? 完全な思い付きではあるが、機会があれば提案してみることにしよう。
「そういえば、前々から気になってたんですけど……オリビア様の収入って、やっぱり寄付とかなんですか?」
再び手を繋いでレストランを目指して歩いていると、ふと香織さんが思いついたようにオリビアさんに尋ねる。オリビアさんは香織さんとは違ってエリスさんの店の価格に気圧されている様子はなく、目に付いたものをひとつずつかなりの種類購入していた。
「間違いではありません。聖堂、ひいては神教に対する寄付、祭事や式典などへ聖堂のものを派遣した際の報酬、神官が行う祝福の収入などが大聖堂に属する者の収入源といえます。寄付金も含まれるため給与という言葉は使わず分配という言い方をしますが、事実上の給料と考えて問題はありません。私の場合はそこに都市代表としての業務に関する給与も追加される形です」
「なるほど、オリビアさんは神教のトップですし都市代表としての給料もあるなら、言い方は変かもしれませんがかなりの高給なんでしょうね」
言われてみれば納得ではあるが、オリビアさんがそれなり以上にお金を持っているのは必然と言える。あんまりお金を使ってたりというイメージが無くて、お金持ちって認識ではなかったが……ひとつの都市のトップかつ、世界で唯一絶対の宗教のトップと考えれば、お金持ちじゃないほうがおかしいレベルである。
「確かに、ミヤマカイト様の仰る通り比較的高給なのでしょうね。ただ、ミヤマカイト様に導きを賜る前の私は、金銭を使用するということ自体ほぼなく、1000年分の分配や給与はほぼすべて手付かずで保管していましたので、お恥ずかしながらあまり自分がどの程度金銭を所持しているか詳しくは把握しておりません」
「……1000年分の給料まるまる……オリビア様って、実は滅茶苦茶お金持ってるんじゃ……」
香織さんが呟いた通りオリビアさんは間違いなく大金を所持しているのだろうが、これまでのやり取りの印象からそもそも金銭自体にあまり関心が無さそうな感じだった。
いや、実際1000年ほぼ手付かずだったってことは、本当に必要じゃない限り使わないんだろう。むしろ最近は香織さんの店に食事に行ったり、興味を持った本などを買ったりと使用する機会は増えているはずなのだが……でもやっぱり散財したりという姿がまるで想像できないので、月々の給料すら使い切りそうにはない気がした。
シリアス先輩「エリスって、本当に胃痛に対するタフネスさだけなら胃痛戦士で一番なんじゃ……あれだけ胃をぶん殴られても、しっかり持ち直してるし、心の中でこそアタフタしてるけどほぼ表には出してないあたりに強さを感じる……まぁ、胃痛の悪魔は、人の心が無いのか追撃の計画を思いついてるみたいだけど……」