番外編・神とチキンとクリスマス
気が付いた時には、雪の降る中にいた。とはいっても不思議なもので、雪はまるでホログラムのような感じで俺の体をすり抜けていくため、俺の体が濡れたりすることは無い。
ついでに目の前にイルミネーションが煌めく巨大なクリスマスツリーがあるのだが……これは、どういう状況だろうか?
「メリークリスマス! 愛しい我が子、母だよ!」
「……あ、あぁ、なるほど……」
突如ハイテンションで現れたサンタのコスプレをしたマキナさんを見て、いまこの状況がたまにマキナさんと会っている夢の中であることを察した。
どおりでまったく見覚えのない場所にいるわけだ。
「マキナさん、なんとなくこれがいつもの夢の中で、どういう目的かはシチュエーションと服装見ればわかるんですが……いちおう聞いてもいいですか?」
「うん。今回は、日頃頑張ってる愛しい我が子に、クリスマスプレゼントとして、私とふたりっきりのクリスマスパーティをプレゼントするよ! ふふ、嬉しいよね。我が子の喜びが伝わってくるようで、私も嬉しいよ!」
自分とふたりでクリスマスを祝うことがプレゼントになると信じて疑っていない様子のマキナさん……その溢れんばかりの自信は、流石というかなんというか……。
う、う~ん、これ大丈夫なんだろうか? 明らかにいつもよりテンションが上がっているので、暴走の危険がかなりありそうな気がする。なにせ、サンタのコスプレしてるぐらいにははしゃいでいるのだから……。
「おっと、愛しい我が子、心配はいらないよ。今日の母は特別仕様だからね! ああ、服装がってことじゃないよ。ああいや、服装も特別なんだけど……気付かないかな? こうして愛しい我が子とクリスマスをふたりっきりで過ごすというシチュエーションにも拘らず、私が我が子への愛をビックバンさせずに冷静で落ち着いた。母性溢れる母の雰囲気を維持していることに……」
「ツッコミどころは多々あるんですけど、確かになんか不思議と暴走の兆候とかはないですね」
俺の知ってる冷静で落ち着いた雰囲気と違うのだが、それは置いておいて、言われてみれば今日のマキナさんからはドロッとした愛情は感じず、テンションこそ高いものの暴走していたりという感じはない。
「船上パーティでやったときの応用で、私の愛が一定以上に高まった場合は、オーバーした感情を別のところにある個体に移して、そっちが暴走してるんだよ。つまり、今日の私は暴走するという欠点が解消されたパーフェクトな母ってことだよ!!」
むしろ、いちおう暴走に関してはちゃんと欠点と認識していたことに驚いた。えっと、つまり船上パーティでエデンさんが暴走しないモードになってたように、いまのマキナさんも暴走しない状態ということだろうか?
「それは確かに、俺としては安心なんですが……それができるなら、もう普段から暴走する心配はないのでは?」
「いや、ところがそう簡単にはいかないんだよね。まず溢れた分とはいえ、私の感情を移す先にはそれに耐えられるだけの力が必要なんだよ。少なくとも楽園じゃ耐えれないから、船上パーティの時は機械仕掛けの神Ⅱの方が暴走役だったでしょ? あと、感情移す側は平気でも、移された側は暴走するから止める役が必要なんだけど、私の感情を移せる個体って強いから抑えるのがね……船上パーティの時は、アリスっていう私のことをよく分かってて上手く抑えてくれるストッパーが居たからできた感じだね」
「なるほど……ちなみにいまは?」
「いまの場合は、夢の中……つまり思念だけだし、この夢の中で会ってる時は愛しい我が子の精神を一時的に私の世界に呼んでるから、シャローヴァナルの世界と比べていろいろ対応しやすいからだね。だからまぁ、この対策が取れるのはアリスがストッパーを引き受けてくれたときか、夢の中だけだね」
なるほど、いろいろ条件は厳しいみたいだ……いや、でも、夢の中でこうして会う時に暴走しないというのは、俺にとって安心感が凄いんだけど……暴走さえしなければ、マキナさんは普通に明るくて楽しくて、ちょっと抜けてるところもある可愛らしい方であり、懸念事項が無くなるといってもいい。
「……けど、それなら一緒にクリスマスパーティをする分には安心ですね」
「うんうん! いっぱい楽しい思いで作ろうね! おっと、パーティというからにはもちろんご馳走も用意してるよ。そう、クリスマスと言えばチキンだね!」
とりあえず安心してクリスマスパーティを楽しめるとなったタイミングで、マキナさんは俺の前に大きなテーブルを出現させた。
いまの時点ではなにも乗っていないが、これから料理を出すのだろう。しかし、チキンか……マキナさんは神だし、滅茶苦茶すごい七面鳥とか出してくるのだろうか?
「じゃ~ん! 10ピースバーレルだよ!!」
そしてマキナさんが自信満々に取り出したのは、有名なフライトチキンチェーン店のマークが付いたバーレルだった。
そうだった。この人ハンバーガーとかが大好きなんだった。いや、でも俺としては小洒落た料理とかよりは、フライドチキンの方が嬉しい。
「瓶コーラもあるよ! やっぱ、こういう時は瓶だよね」
「確かに缶やペットボトルよりは、瓶の方が雰囲気に合いますね」
「うんうん! あ、他にもいろいろ用意してるからお腹いっぱい食べてくれていいからね! ここでいくら食べても現実の我が子の体には影響とかないから、安心だよ」
ニコニコと笑顔で話すマキナさんは、実際は数百億年かそれ以上生きているはずだが、どことなく幼く感じてきているサンタのコスプレも相まって、なんだか可愛らしさがあった。
「そうそう、愛しい我が子。今日はふたりっきりだし、母にいっぱい甘えてくれていいからね! ぎゅってしてあげよっか? 母の温もりで幸せいっぱいになれるよ?」
「……と、とりあえず、せっかく料理出したんですから先に食べません?」
「あっ、そうだね。じゃ、一緒に食べよっか!」
両手を広げてハグOKという感じで笑顔を浮かべるマキナさんを見て、少し気恥ずかしさを感じつつ話題を逸らした。
いや、だって、いつもは暴走することへの警戒があるのでアレだが……暴走する心配が無い状態のマキナさんって、なんというか普通に可愛らしくてドキドキしてしまう部分もある。
なんとも言えないくすぐったさというか……本当にマキナさん本人が言ってるように、暴走しないマキナさんってほぼ欠点が無いかもしれない。
我が子である俺に対しては優しいし、明るく庶民的な嗜好もあって話してて楽しいし、ちょっと抜けてる感じの可愛らしさもある……う、う~ん、いまの状態でいつも用にグイグイ来られると、結構こう気恥ずかしいというか、変に意識してしまいそうな気がした。
そんなことを考えつつ、俺は瓶コーラを手にマキナさんと乾杯した。
シリアス先輩「あれ? こいつマジで、暴走状態さえなんとかすれば……ヒロインとしていけそうなんじゃ……」