デート計画実行㊷
ラサル・マルフェク……死の殉教者と呼ばれ、魔界でも黒い森の怪物ティアマトと並んで恐れられる存在ではある。
ただ彼女は特異な性癖を持つティアマトとは違い、基本的に知的で冷静な人物であり、特定の相手……主に頻繁に喧嘩しているシリウス以外には、対応なども紳士的である。
ではなぜ、恐れられているのかと言えば……やはりその見た目に起因する部分も多い。
(……こ、怖ぁ……な、なんだろうあのおっきな棺桶……棺桶だよね? え? なにに使うの? 死体入れるぐらいしか用途が思いつかないんだけど……こ、殺した相手をあそこに入れて持ち帰るとか? それに魔力も凄いし、快人くんは本当によく平気そうに話せてるなぁ……)
快人と話すラサルを見て、香織がそんな感想を抱いているように、ラサルに関してまず最初に目を引くのは背負った巨大な棺桶である。
いちおう棺桶を持ち歩いていることにも理由はある。ラサルは死霊術師であり、棺桶は主に魔法を発動する際に媒体として使用することから、死を連想させる品の方がスムーズに死霊術を行使できるという合理的な理由だ。
もちろんラサルの実力であれば媒体などなくてもたやすく発動はできるのだが、研究家気質なこともあって効率は重視する傾向にある。
続いて顔を隠すように被った漆黒のローブである。これは単純に本人の嗜好と研究で薬剤などが体にかからないように対処した結果でもあるが……見た目的にはかなり怪しさがある。
そしてなにより、快人には影響が無く本人もたびたび忘れがちになっているのだが、死の魔力は別格としてそうではない魔力でも、強大な魔力というのは相手に対し威圧感を与える。
伯爵級最上位クラスの魔力ともなれば、かなりの威圧感を周囲に与えるのだが……それに関しては個人差が大きい。というのも、多くの高位魔族たちは己の魔力をある程度調整しているからだ。
例えば、七姫などは一部の地域で信仰の対象となっているリリウッドを含め、力の弱いものと関わる機会が多く、無闇に相手を威圧しないように普段は魔力をかなり抑えている。
同様に十魔に関してはそれぞれが別の顔を持つことや、潜入や情報収集なども重要な任務のため魔力はかなり抑えて気付かれないようにしている。
逆に戦王五将などはオズマを除き、ある程度は調整しつつも己の力を誇示するために普段から大きめの魔力を纏っている場合が多い。
四大魔竜も戦王陣営に近く、配下たちへ威厳を示す意味でも普段から巨大な魔力を纏っている場合が多い。
そして話を戻してラサルに関しては、ある程度は抑えているがそれでも王であるアイシスが見くびられたりはしないように、強者として認識されるように調整して魔力を纏っている。
それが一般人である香織やエリスといった者には、威圧感として伝わっているのだが……それでも香織は比較的落ち着いていた。
(……うん、でもまぁ……戦王様よりは全然……いや、比較対象がおかしいかもだけど……)
そう、魔力を特に抑える気が無く普段から凄まじい魔力を纏っているメギドと、複数回あっていることもありラサルの見た目を少し怖がりつつも、怯えたりはしていなかった。
メギドに関しては、あまりの威圧感に最初は遭遇しただけで半泣きになっていたが……。
そんなことを考えていると、快人がチラッと香織の方を見た。それを「香織にも紹介するべきか?」という確認の意志が籠ったものだと理解した香織は、素早く首を横に振る。
後々そんな機会もあるのかもしれないが、とりあえずいまラサルが希望したのはエリスに対する挨拶なので、出来ればそっちだけにして欲しいという願いは……。
「おヤ? そちらの女性ハ? 片方ハ、教主ですネ。そちらの異世界人ハ、確か船上パーティでもチラッと見たような気ガ?」
……もちろん叶うことは無く、快人が視線を向けたことで気付いたラサルの言葉で、紹介される流れになってしまったため、香織は諦めたような表情で苦笑した。
「ああ、この人は過去の勇者役の人で……」
「み、水原香織です」
「なるほド……自己紹介に感謝すル。私はラサル・マルフェク……死王アイシス様の配下のひとりダ。ミヤマカイト様の友人であれバ、今後会う機会もあるかと思うのデ、よろしく頼ム」
「あ、はい。よろしくお願いします」
あくまで見た目が若干怖いだけで、ラサルの対応自体は丁重だったので、緊張しつつも問題なく挨拶を返すことができた。
快人と知り合って以降、どんどん凄い知り合いが増えるなぁとそんなことを考えつつ、僅かに痛むお腹を少しだけさすった。
シリアス先輩「これ、仮に㊿あたりまでエリスの店で過ごして、サブタイトル変えてデートの続きって形だとしたら……まだ、なんか一発ぐらいエリスが胃を殴られそうな猶予があるんだけど……」