デート計画実行㊵
エリスさんのチョコレート店はやはりお洒落な感じで見ているだけでも楽しく、香織さんも目を輝かせて楽しそうに商品を見ていた。
少し意外だったのは、オリビアさんも興味がある様子で、かなり真剣に商品を見ている。香織さんの店の常連になってから、味覚とかもかなり鋭くなってるみたいなので、食に対する関心が高まっているのかもしれない。
「香織さん、さっき言った通り遠慮せずに好きなものを買ってくれていいですからね」
「う、うん、ありがとう。でも、やっぱ凄いね。こんなに小さなアソートでこの金額、やっぱ想像以上に高級店って感じで圧倒されるね。その分、普段だと目にする機会のないものが多くて楽しいけどね」
「ふむ、ミズハラカオリ、ここの品は高額な部類の商品なのでしょうか?」
「え? あっ、そっか、オリビア様はそもそもチョコレートにあまり馴染みが無いかもですね。値段としては、やっぱり貴族向けなので高額ですね。その分質も凄くいいんでしょうけど……」
オリビアさんにとってはチョコレート自体がそもそも新鮮であり、香織さんの言葉に興味深そうに頷いていた。なんとなくだけど、オリビアさんは凄く真面目な性格なので、あとで普通のチョコレートとかも購入して味を比較したりしてそうな気がする。
そんなことを考えていると、エリスさんが綺麗な銀色のトレーを持ってやってきた。トレーの上には一口サイズのチョコレートがあり、食べやすいように串が刺してあった。
「こちらは今月の新作チョコレートなのですが、よろしければ試食をいかがでしょうか?」
「ありがとうございます。月毎に新作が出たりしてるんですか?」
「ええ、当店は購買層が富裕層になりますので、そういた方々は新しいものを好む傾向にあります。定番のメニューはそのままに、月毎に切り替わる商品も用意してありまして、こちらもそのひとつですね。柑橘系のフルーツエッセンスを加えた、爽やかな味わいの品です」
エリスさんはかなり頭がよさそうというか、知的な雰囲気があるので販売戦略とかもかなり練っているのだろう。説明に感心しつつチョコレートを頂くと、オレンジっぽい味わいのジュレが中に入っていて、スッキリとした味わいが素晴らしい。
「……なるほど、果汁にやや酸味のある液体を加えて固めてあるのですね。チョコレートは初めて食しましたが、これは内容物に甘みがある分、チョコレート本体の甘さは控えてある……という認識で問題ありませんか?」
「はい、その通りです。さすが、教主様は鋭い味覚をお持ちですね。仰る通り、チョコレートはビターな味わいのものを使用しています」
香織さんも言っていたが、オリビアさんは味覚はかなり鋭く、味噌汁の味噌の違いなどもすぐに見抜いたり、隠し味を簡単に当てたりするらしい。
食への関心が深まっている証拠か、いまもチョコレートをただ食べるだけではなく味わいつつ研究しているような真剣な雰囲気があった。ただ、なんだか時々、チラチラとこちらを見ている理由に関してはよく分からなかったが……。
快人の推測はある意味では正解で、ある意味では間違いだった。確かにオリビアは真剣にチョコレートを味わっており、材料なども考慮して頭の中で様々な考察をしていた。
だがしかし、別にそれは職に関心が強いからというわけではない。
(ミヤマカイト様はこのチョコレートを食べた際に、美味しそうな顔をしていました。味わいが好みであったのは推測されますが、甘さを控えたチョコレートが好みなのか果汁の用いられたものが好みなのか、この時点では判断しきるのは難しいですね。できればミヤマカイト様の好みに合わせたものを用意して、以前のようにお茶にお誘いして……うっ、な、なんて浅ましい考えを……し、しかし、ミヤマカイト様はまた機会があれば是非と仰られていましたし、それならば再度ああいった席を用意するべきだとは思います。飲み物もチョコレートに合わせたものがいいのでしょうか……大聖堂に戻ったら、いくつか本を取り寄せて学んでみましょう。そして、ミヤマカイト様にお褒め――ざ、雑念が!? くっ、見返りを期待するなど浅ましいにもほどが……うぅ、どうにも心に雑念が……)
そう、オリビアは徹頭徹尾快人の事ばかり考えており、そもそもチョコレートに興味を持ったのも、快人が好きだと口にしたからである。
そうしてチョコレートなどを用意して、また快人と一緒にお茶をしたいというささやかな願望があるのだ。もちろん、別にチョコレートなど用意しなくても茶に誘えば快人は喜んで応じてくれるのだが、生真面目すぎる性格が災いしてか、なにかしらの建前が無いと行動を起こし辛いのがオリビアである。
なので現在の状況は渡りに船ともいえるものであり、どんな風に快人を誘えばいいのかと、そんなことを考えてチラチラと快人を見ていた。
シリアス先輩「オリビアって完全に、本人が信仰心からだと思い込んでるから自覚ないだけで、とっくにフラグはバッチリたってるし、快人大好きオーラも溢れてる気がする」