デート計画実行㊲
帰宅が非常に遅くなったので短めです
店員から快人たちが来店したと聞いたエリスは、即座に書類仕事を中断し部屋を出た。快人を待たせるわけにはいかないのと、そもそも来店すれば即座に対応するつもりでいつでも中断できる書類しか扱ってなかったので、問題はない。
(……大丈夫です。しっかりと、様々な状況は想定してきましたし、今回は無様に狼狽えることは無いはずです)
これまでもなんとか上手く対応はしているが、それでも行き当たりばったりというのはエリスの好むところではなく、今回は入念な情報収集を行って心構えもしっかり行ってきたからか、その姿には自信が溢れているように感じられた。
もし仮にいまのエリスをリリアが目にしたとしたら……「いや、カイトさんは対策の斜め上を行くので、備えるだけ無駄かと……」と経験から来る実に的確なアドバイスをしたことだろうが、残念ながらそのやりとりが発生することは無かった。
「あっ、エリスさん! こんにちは……いらっしゃってたんですね」
「こんにちは、カイト様。ご来店ありがとうございます。ええ、いくつか処理する仕事があって店舗に来ていたのですが、カイト様が来店されたと聞きましたので」
快人と挨拶を交わしつつ、エリスは軽く視線を動かして快人の同行者……まずは香織に目を向けた。
(……見覚えのない方……独特な魔力から、間違いなく異世界人ですね。雰囲気や表情から、商会のトップという印象は受けません。むしろ、高級店にやや委縮しているような緊張を感じますね。となると……ミズハラカオリ様と考えてよさそうですね)
快人と言葉を交わしつつ高速で思考を巡らせるエリスは間違いなく才女であり、高位貴族の令嬢としてどこへ出しても恥ずかしくない知識や洞察力を持っている。
快人と一緒にいる異世界人が、香織であると素早く見抜くと共に高級店に対して緊張している様子なども感じ取っていた。場合によってはその辺りのフォローも行うべきだろうと、そう考えつつエリスはもうひとりの同行者に視線を動かす。
(さてもうひとり……もう……ひと……)
そして、オリビアの姿を視界にとらえた瞬間、エリスの頭の中は一瞬真っ白になった。
(……え? 教主様? い、いやいや、流石にそんなはずは……た、他人の空似……い、いえ、でも、服装こそ普段と違いますが、この神聖さを感じる雰囲気は……ま、まま、待ってください!? さすがに想定外が過ぎるというか、教主様が友好都市以外の場所に来てること自体が異常事態なのですが!! た、確かに、以前ネバーライト子爵の結婚式で進行を務めたという話は聞きましたが、アレはカイト様と関係深い異世界人の結婚式だったから例外中の例外で友好都市外に出てきていたのだと……え? ええ? ま、待ってください!? 教主オリビア様は、六王様や最高神様以上に情報がほとんどない方で……ど、どう対応すれば……)
そもそもオリビアは友好都市ヒカリの都市代表や教主としての仕事こそするが、それ以外では大聖堂から出ることはほぼなく、他者との交流も必要最低限である。
まさに想定外と言える事態に、遠のきそうになる意識を繋ぎ止めつつ、エリスはこれからどうするかを必死で考えていた。
鉄壁の筈の淑女の笑みが若干引きつるのを感じつつ……。
シリアス先輩「さっそく鋭いボデ胃ブローが突き刺さってる」