デート計画実行㊱
快人の提案を了承してチョコレート店に向けて移動をしていたのだが、歩いているうちに香織の表情はどんどん変化していた。
その理由は単純である。通りがひとつ違えば景色が違うというが、まさにそのとおり……途中から周囲に映る景色が大きく変化していたからだ。
「……あ、あの、快人くん? たぶんだけど……この辺って、高級店が並ぶエリアじゃないかな? も、もしかして快人くんの知り合いがやってるチョコレート店って、かなりの高級店だったりするのかな?」
そう、明らかに少し前まで歩いていた通りとは違い、並ぶ店舗のどれもが庶民である香織には縁遠そうな高級感を覚える店舗に変化していた。
街の雰囲気を損なわないようにデザインされているが、それでも店の佇まいや店頭のショーウィンドウに飾られた商品などから、明らかに高級店……それも以前にハイドラ王国で足を運んだブランド店より、さらにランクが上の店舗が並ぶエリアに入っていることが感じられた。
「そうですね。その友達は、エリスさんと言って侯爵令嬢の方なんですが、完全会員制の高級チョコレート店ですね。ああでも、俺が会員証を持ってるので入るのは問題ないですし、味も凄くいいですよ」
「そうだった、快人くんの交友関係って私の常識の外だった。サラッと侯爵令嬢とか……あ、あのね、私の想定だとその高めに見積もってもデパ地下とかのレベルを想像してたんだけど……これ多分、だいぶランク違うよね? そ、そのレベルの店で買い物とかは私にはハードルが高いというか……」
明らかに貴族御用達というクラスの店に向かっていることを察した香織は、胃の痛みを感じながら青ざめた表情で呟く。
香織は一般庶民であり、馴染みあるレベルの高級チョコレートであれば一粒3R……日本円にして300円クラスの品がいいところだ。
だが香織は雑誌などもよく読み、貴族御用達店を紹介する特集などで貴族向けの店などを見たことはあるが、おおよそ菓子にかけるとは思えない金額が書かれていたのを記憶している。そのようなレベルの品は流石に……買える買えないは別にして、買おうとは思わない。
明らかに買う気のない客が居ては店に対してみ失礼ではないかと、そんな不安を覚えていると、快人が香織に対して安心させるように微笑む。
「大丈夫ですよ。俺が誘ったわけですし、お金に関しては元々香織さんに支払わせたりするつもりはないです。本当に美味しくてオススメなので、気になったのがあれば遠慮せずに好きなだけ選んでください。支払いは俺が持ちます」
「ふぐっ……き、君はまたそうやって……」
どこか余裕を感じさせる優し気な笑みに対し、香織は顔を赤くして思わず言葉に詰まる。
(だから、もうっ!? いちいちカッコいいんだよ、君は!!)
香織が心の中で叫んでいると、オリビアがチョコレート店に関して質問して快人がそれに答えていた。その光景を見つつ、香織はどこか気恥ずかしさを感じつつ思考を巡らせる。
(ぐぬぬ、本当に快人くんを一緒に行動してると、モテる理由がよく分かるよ。普段は優しくてちょっと抜けてるとこもあって可愛い感じなんだけど、こういう時はすっごく頼りがいがあるっていうか……感応魔法って魔法のおかげかな? こっちが不安だったり困惑してると、察してフォローしてくれるから安心感があるし、普段とのギャップもあってきゅんってしちゃうよ……)
実際快人には感応魔法があるため、人の感情の変化には鋭い。あくまで感情が分かるだけで心が読めるわけではないので、解釈違いなどは起こりえるのだが……それでも、なにも言わずとも助けが欲しい時に助けてくれるのは嬉しい。
(カッコいい行動が多くて、たまに「あれ? もしかして私口説かれてる?」とか感じちゃうこともあるし……いや、間違いなく快人くん的には口説いてるわけじゃなくて普通にしてるだけだろうけど、転生の女たらしじゃないかな、本当に……それになんか普段の感じだと「交友関係以外は平凡です」みたいな感じ出してるけど、君普通に見た目もカッコいいからね!! 自己評価低いのか、周りに美形が多くて基準値を高くしてるのか分からないけど、優しい雰囲気のイケメンで……個人的に凄くタイプだから、さっきみたいに微笑まれるとドキドキしちゃうだよ!!)
もちろんそれが理不尽な文句だとは理解しているので口に出したりはしないが、年下の後輩にいいように振り回されてる感じがして、心の中ぐらい文句を言いたくなる。
(たまにすごく胃が痛い状況を引き起こす以外は、本当に理想的すぎるぐらいだよ……はぁ、もう、呑気な顔しちゃってさ……こっちがどれだけドキドキしてるか分かってないでしょ? これ以上本気にさせたりしたら、本当に責任取ってもらっちゃうからね……まったく、本当に胃と心臓に悪い後輩だよ)
そんな風に心の中で考えつつ、香織は快人と繋いでいる手に少しだけ力を込める。気のせいか先程までより少しだけ……つないだ手が熱いような、そんな気がした。
シリアス先輩「ぐはっ!? な、なにぃぃ……エリスへの胃痛ブローと見せかけて、最初に香織に胃痛を与えつつ、砂糖ムーブもすることで私にまで胃痛を!? そしてこの後にエリスに胃痛……こ、これが、匠の三連ボデ胃ブローなのか……」