デート計画実行㉜
やっぱり観光に力を入れている都市だからなのか、街並みだけではなく見るからにお洒落な感じの店が並んでいる。比率としては雑貨屋っぽい店が多い気もするが、もちろん他にもいろいろある。
赤レンガの建物のパン屋とかは、なんかすごくいい雰囲気で美味しそうである。まぁ、このタイミングで立ち寄る店ではないのだが……。
「とりあえず最初は無難に雑貨屋とかに行ってみましょうか?」
「畏まりました」
「う、うん。私もそれで大丈夫だよ」
その返答に少し違和感というか、思ったよりも香織さんが緊張している感じがした。オリビアさんの緊張具合が酷いかと思ってたのだが、オリビアさんは緊張しつつもある程度行動自体は落ち着いているというか、ギクシャクしていたりはしない。
対して香織さんの方はなんか動きが固いというか、ギクシャクしてる感じがする。
「……香織さん、もしかして緊張してます?」
「結構してるよ……快人くん、舐めちゃ駄目だよ。私は大人ぶってるけど、この歳まで恋愛経験ゼロでやってきた身だからね。実質遊びに行く感じとはいえ、デートって思うだけで緊張もするよ。ふふふ、笑ってもいいけど、失望しないでね」
「大丈夫です。俺の恋人にそれこそ数億年レベルで恋愛未経験で、本人が力強く恋愛クソ雑魚って自称する相手が居ますから……」
「え? そ、そうなの? そんな人が……」
「幻王ですね」
「突っ込みにくい例を出すのは止めて!? それにリアクションしたら、私が幻王様を馬鹿にしたみたいになっちゃうからね!!」
アリスを引き合いに出した話に慌てた反応をする香織さんだったが、少しだけ先程よりも肩の力は抜けた気がする。
するとそのタイミングで、オリビアさんが心底不思議そうな表情で香織さんに問いかけた。
「……ミズハラカオリ、疑問なのですが……恋愛経験という比較で言えば、私は1000年ほど恋愛経験なく過ごしているわけですが、その場合私も恋愛クソ雑魚というものに該当するのですか?」
「どうしよう、これどう答えるのが正解なんだろ……いや、恋愛クソ雑魚ってのはたぶん意味合い的には、恋愛未経験の年数には関係なく、本人の性格のような気がしますね」
「なるほど、ミヤマカイト様から見た印象だとどうでしょうか? 先程からたびたび雑念が混じり、無様を晒している私は……やはり、恋愛クソ雑魚と評するべき存在でしょうか?」
さて、香織さんではないがなんとも答えにくい質問が来た。恋愛クソ雑魚というのはアリスが自身を指して使う言葉であり、意味合い的には恋愛関係のイベントへの耐性が低いとか、そんな感じの意味で使われる言葉だ。
そしてこれにオリビアさんが該当するかというと……正直、そこそこ該当するんじゃないかと思う節がある。ともかく純粋で真面目というか、世間知らずな面があり肌の露出などを極端に恥ずかしがったり、手を繋ぐことに滅茶苦茶緊張していたりと思い当たる部分は多い。
だが果たしてこの状況で、「その通り、貴女は恋愛クソ雑魚です」などと返事ができるかと言えば、そんなわけもない。アリス相手なら言える気がするが、それはそういう冗談めかした言い回しが通用する相手だからだ。
オリビアさんの場合は俺が言えば真面目に受け止めてしまう可能性が高いので、迂闊なことを言うわけにはいかない。
「そんなことは無いですよ。オリビアさんはまだ恋愛経験が少ないので、いろいろなことに戸惑ってしまうのは仕方がないことですよ。前にも言いましたが、知識として知っていることと、実際に体験するのでは違ってきますから……少しずつ経験していけばいいんですよ」
「あっ……は、はい……あっ、その……今後ともご指導ご鞭撻……よろしくお願いいたします」
とりあえず出来るだけ優しい声で微笑みながら告げると、オリビアさんは顔を赤くしつつ頷いた。う、う~ん、あれ? これなんか俺が口説いてるみたいな感じになってない? い、いや、でも他に上手い言い回しも思いつかなかったし、とりあえず今はこれでいいか……。
シリアス先輩「さすが、数々のフラグを建築してきた者だ、面構えが違う……やめろよマジで、恋愛フラグを広げるな! その軽率な行動が、後の砂糖展開を招くんだぞ!!」