デート計画実行㉙
中央大聖堂教主の間にて、オリビアは静かに思考を研ぎ図ませていた。快人からのプレゼントという予想外の事態によって感情は乱れ、一時は祈りに集中できない状態が続いた。
だがオリビアは鋼の如き精神で雑念を封じ込め……もとい、快人に対する照れや動揺といった感情をすべて感謝の感情に置き換えることに成功していた。
(完全なる無の心を求めるのではなく、心の中に純粋なミヤマカイト様への感謝の念だけを満たす。デートの望む上でこれ以上の心境は無いでしょう。未熟な私は雑念をただ消そうとしていました。ですが、それこそが間違い……乱れる心を曇りひとつない感謝の念へに昇華させること事が、真に信仰心を高めているといえるのです。ミヤマカイト様はきっと、そのことを私に教えてくださるために衣服をプレゼントしてくださったのでしょう)
快人にプレゼントされたロングスカートタイプの白いワンピースとダークブラウンのやや厚手のカーディガン。肌の露出を極端に恥ずかしがるオリビア用に、香織に頼んで購入してもらった黒いタイツとこげ茶のブーツ……手と顔以外はほぼ肌の露出が無い服装ながら、オリビア自身の清楚な雰囲気が引き立てられており、煌めくような銀髪も相まってどこかオリビアらしい神聖さも感じられる格好で、オリビアはいつもとはやや違う姿勢で祈りを行っていた。
いつもなら両膝をついた祈りの姿勢で祈りを行うのだが、現在は快人から贈られた服を着ているため、万が一にも汚れない様にと立ったままで祈りを行っていた。
(約束の時間まではおよそ30分、ミヤマカイト様の性格を考えると恐らく15分ほど前に大聖堂に到着すると思われますね。私の下を訪ねるという形式である以上、私が出迎えに向かうのではなくここで待つのが最善。神官たちにはひとりの例外もなく完璧な伝達を終えていますから、ミヤマカイト様が誰に話しかけたとしても問題なくここへ案内をしてくれるでしょう。であれば、私はミヤマカイト様が訪れるまで、祈りを続けていれば大丈夫ですね)
オリビアは雑念を感謝へと昇華させることによって研ぎ澄まし、以前よりもさらに強固で安定した心へと到達していた。
少なくとも荒行程度ではほんの僅かでさえも彼女の心が乱されることは無いだろう。そう確信できるほど、いまのオリビアの精神は安定していた。
もっとも、しょせんそんなものは快人の居ない状況、ひとりで祈りをしているシチュエーションに置いてのものであり、快人と出会ってほんのわずかの後に軽々と瓦解することになるのだが……この時のオリビアはまだ知る由もなかった。
15分ほどが経過し、こちらに向かってくる快人と香織の気配を感じてオリビアは祈りを止め、扉に向かって正対する。
ノックの音が聞こえ入室を促すと、快人と香織が入ってきたので、オリビアは美しさを感じる完璧な礼を行った。
「おはようございます、ミヤマカイト様。そして、ミズハラカオリも……今回は私の要望にお応えいただき、デートに応じてくださったことに改めて心よりの感謝を……」
「おはようございます、オリビアさん。俺も今日を楽しみにしていたので、むしろ誘ってもらってありがとうございます。その服、着てくれたんですね。やっぱり、清楚な雰囲気がオリビアさんに合ってて、凄く可愛いですよ」
「…………はひっ」
その状況をどう例えるのが適切だろうか? いうならばオリビアが時間をかけ丹精を込めて美しく作り上げた精神という名のガラスの城。美しく芸術的なその城に……唐突に隕石が落ちてきたような、そんな感覚だった。
有体に言えば、いまの快人の一言でオリビアの余裕は文字通り消し飛んだ。
(……可愛い? ミヤマカイト様が、私を可愛いと……可愛い……)
思考は一瞬で真っ白に塗りつぶされ、頭の中では快人の「可愛い」という言葉がリフレんし続ける状態であり、オリビアの思考が戻るまでしばらくの時間を要したのは、言うまでもないことである。
シリアス先輩「これ、アレだよな? 快人に対する信仰心を、事前の10日間で高めまくってるってことは、要するに快人への好感度を自分で上げまくってるってことであって……前以上に快人の称賛に弱くなってるのでは?」