閑話・神々の集い④
アルベルト公爵家の屋敷にある執務室……事実上リリアの私室と言っていいその場所で、リリアはソファーに座って優雅さを感じる仕草で本を読んでいた。
『月刊ドラゴンの生態』と書かれた本はリリアの愛読書でもあり、今日は仕事も少なく時間的にも余裕があるためこうしてのんびり趣味の時間を楽しんでした。
しかして、その平穏はほどなくして粉々に打ち破られる。
「……唐突に失礼」
「……アリス様?」
突如として部屋の中に現れたアリスを見て、リリアは読んでいた本を閉じて机の上に置きながら首をかしげる。アリスが単独で自分の下を訪ねてくる用事が思い浮かばなかったからだ。
「あ~実は、リリアさんにちょっと用事がありましてね」
「……そう、ですか……その内容を聞く前にお尋ねしたいのですが、なぜそんな『心の底から哀れむような目』で私を見ているのでしょうか? ……嫌な予感がします。ものすごく、嫌な予感がします」
「まぁ、予想に違わずK案件です」
「……」
アリスが口にしたK案件とは、アリスがたびたび使う造語で……主に快人絡みのなにかの際に使用される。リリアもそれは知っており、これから己に待ち受けるであろう胃痛をなんとなく察して遠い目をしていた。
「ま、またカイトさんがなにかを? またどこぞの世界の神様を連れてきたとか……」
「ああいや、カイトさん絡みではあるんですがカイトさんが何かをしたわけじゃないんですよ。ちょっとお待ちを……」
「……防音の結界?」
リリアの問いかけにアリスは考えるような表情を浮かべた後、室内に外に声が漏れないように結界を張って説明を行った。
「実はいま、カイトさんの誕生日パーティについての話し合いをしてましてね」
「ああ、なるほど……そういえばもう2ヶ月ほどですし、そろそろ準備を始めてもいい頃合いですね。なるほど、話し合いを……アリス様……嫌な予感がします。とても、本当に、嫌な予感がするんです」
「まぁ、お気の毒ですが……リリアさんもその席に加わってもらおうってことになって、私が迎えに来たわけです」
リリアもこれまで快人によってもたらされる数々の胃痛を経験してきた存在であり、アリスの表情や話し合いをしているという部分からおおよその事情を察した。
どう考えてもその話し合いの席には、シャローヴァナルやマキナが居るというのは想像できる。できれば加わりたくないというのが本音であるが……そこにいるであろう存在達の要請を断れるわけもない。
「……ち、ちなみに、アリス様……話し合いのメンバーは?」
「私以外で、貴女の知る限り能力が高い順に5人ほど思い浮かべてください……全員居ます」
「ひぇ……あ、あの、なぜ私……なのでしょうか? 人界代表というならもっと他に相応しい者が……い、いえ、決して異論を唱えるわけではありませんが!?」
もはやリリアに断るという選択肢は存在しない。それは本人もよく分かっているのだが、それはそれとして、なぜ自分が選ばれたのか知りたいという気持ちもあった。
リリア自身の認識としては自身は公爵であり、国王である兄などの方がその場には相応しいと考えていたからだ。
「ああ、いちおう三国王も呼びます。リリアさんが選ばれた理由は……まぁ、カイトさんに近いのと……カイトさん絡みの影響で、シャローヴァナル様やマキナとかの上位者からの評価が高いからですね。まぁ、お気の毒ですが、今後も似たようなことがあれば呼ばれるでしょうね」
「……お腹……痛い」
そう、本当にリリアにとっては災難ではあるが……集まっているメンバーからリリアの評価は高い。特に選り好みをするであろうマキナが「リリアなら同席しても文句はない」というぐらいには高評価なので、今後も似たような集まりがあればまず間違いなくリリアが呼ばれることになるだろう。
襲い来る胃痛にお腹を押さえながら、さりとて文句を言うわけにも行かず……リリアは、哀愁漂う表情を浮かべていた。
???「そうなんですよね。リリアさんが最適な一番の理由が……マキナが同席を嫌がらないって部分なんですよね」
シリアス先輩「何気にシロからも評価が高いというか、とりあえず人族関連はリリアって感じに判断されてるし、前の誕生日パーティでも快人が断ったら次はリリアってぐらいには評価高めなんだよなぁ……結果それが胃痛に繋がってるけど……」