閑話・神々の集い②
それぞれが単独で容易に複数の世界を滅ぼせるほどの力を持つ上位者たちが一堂に会し、真剣な表情で話し合うのは……快人の誕生日に関してという、なんとも平和な内容だった。
とはいえ集まった者たちの表情は真剣であり、どこか重々しい雰囲気すらあった。
「……前回は完全に後手に回ってしまい即席という面が強かったですが、今回はまだ十分に時間があります。前回の反省を生かして確実な計画にしたいところです」
「まぁ、ある程度仕方ない部分はあるよね。いまここに集まってる中で、一番若いのはフェイトだけど、それでも10万歳は優に超えてるでしょ? 私たちにしてみても自分の誕生日とか年齢とかいちいち気にしてないからね」
静かに呟くシャローヴァナルに対し、マキナが軽くフォローを入れる。
以前に快人の誕生日パーティを行った際には、アリスによる情報の周知が行われてから準備をするという形だった。
もちろんシャローヴァナルなどは事前に快人の誕生日も知ってはいたが、誕生日を祝うという感覚が無く行動を起こしていなかった。
しかし、快人を含めた人間には誕生日を祝うという行為がそれなりに特別であるということを後になって知って、なぜもっと早く用意しておかなかったのかと後悔した。だからこそ、今回は万全の準備をして臨むためにこれだけの面子を招集したのだった。
「まぁ、カイトさん自身も両親を早く失ってた関係で、あんまり誕生日を意識してなかったみたいですからね。すっかり私たちの反応も遅れちゃいましたね」
「でも、かなり喜んでもらえたよね? あの時にシャルティアが描いた絵を、いまも大事に飾ってるし……カイトくんが喜んでくれたらボクも嬉しいし、しっかり練ったものにしたいよね」
前回のパーティの企画者であるアリスの言葉に、クロムエイナも腕を組んでしみじみと呟く。もちろん前回のパーティもいろいろ急で騒ぎになった部分はあるのだが、快人はかなり喜んでおり、誕生日パーティの際の絵はしっかりとした額縁に入れて、クロムエイナに頼んでしっかりと状態保存の魔法をかけた状態でいまも快人の部屋に飾られており、あのパーティが快人にとっていい思い出であるのは間違いなかった。
「内容とかに関してもいろいろ話し合う必要はありますけど、やっぱ最初は場所ですかね? 自分は、そこまでトリニィアの事情に詳しいわけじゃないですけど、前回はその辺も結構騒ぎになったんですよね?」
「そうですね。前回はシンフォニア王国を会場にしたので、その辺りには結構影響が出ましたね」
「あ~フェイトさん? 自分相手には、普通の話し方でOKですよ? 自分は立場的には快人様の部下的ポジションのつもりなので」
「……えっと、はい……じゃなくて、うん」
あくまで比較するならばという話ではあるが、この場に集まった者の中ではフェイトが一番格下であり、フェイトとしては中々に気の休まらない状況だった。
カナーリスのフォローにも若干戸惑った表情を浮かべていたが、断るのも逆に失礼だと考えたのか頷いて少しだけ砕けた口調に戻す。
「なるほど、ではまず場所から話し合うとしましょう」
「う~ん、人界とか魔界でやるとどうしても騒ぎは避けられないよね? 神界はどう?」
「クロりん、神界はよくないかも……シャローヴァナル様が神域以外に降りてくるのは、それはそれで別の意味で騒ぎになりそうだし……」
まずは開催となる場所に関して話し合うことに決まった。前回は急遽の開催ということもあり、その時点で快人が居たアリスの雑貨屋のあるシンフォニア王国首都の上空、神族が急ピッチで作り上げた天空城にて行われたが、今回は十分すぎる準備期間があるため場所の選定から行える。
そんな話し合いを見ていたマキナが、こともなげなに呟いた。
「いや、別に作ればいいんじゃない? 私も含めこれだけの存在が揃ってるんだよ、新しく世界を作ることだって簡単だよ。愛しい我が子の誕生日パーティを行うための場所ぐらい、いくらでも作れるでしょ?」
「……また突拍子もないことをって一瞬思いましたが、それならまぁ確かに前回のシンフォニア王国みたいな騒ぎにはなりませんし、今後も同じ場所を使うことができるって利点はありますね」
快人の誕生日パーティを行うために、専用の世界を作ろうと告げるマキナの言葉を聞き、アリスは若干呆れつつも悪くない考えであることを認めた。
トリニィアで開催すれば、どこで行ったとしても騒ぎにはなる。それならまったくの別の場所に会場を用意するというのは、有効な手段だ。
実際ここには世界創造の経験がある神が三人もいるため、小さめの世界を作るなど簡単な話であり、快人の誕生日パーティのためだけの世界であれば、使わないときはまるごと封印しておけば管理の手間もない。
こうして、圧倒的な力を持つがゆえに非常識な案でも実行できてしまう者たちによって、快人の誕生日パーティ専用の世界が作られることが決定した。
シリアス先輩「前回の誕生日パーティの最後に、快人が地の文で『どうして次は普通の規模でって言っておかなかったのか……』って意味がよく分かった。専用の世界作っちゃったら、その翌年とかもそこでやることになるわけだし……」