デート計画実行㉗
オリビアの混乱は続いており、ぐるぐると回る思考が止まらない。対する快人は唐突にフリーズしたオリビアの様子に戸惑っており、何度か呼びかけを行っているのだがオリビアからの返答はない。
ただしそれはあくまで快人を無視しているというわけではなく、思考が追い付いていないだけであり……少しすると思考が追い付いたことで、オリビアは慌てて机に打ち付けるような勢いで頭を下げる。
「も、もも、申し訳ございません! 突然のことに驚き、ミヤマカイト様の呼びかけに即応できないという不始末。即極刑すら生温い大罪を犯してしまい、弁明の言葉もございません。いかような罰でもお受けします!」
「いや、そんな大罪はないですから、落ち着いてください。とりあえず顔を上げてもらって……」
大慌てで謝罪するオリビアを見て、快人は苦笑しつつオリビアの顔を上げさせる。このようにオリビアが快人に対する不敬に対して大げさすぎる反応をするのは初めてではないため、快人の方もある程度慣れたものだった。
「な、なんと寛大な……やはりミヤマカイト様のお心は、雄大な大空のように広く澄んでいるのですね。私を気遣ってくれるお姿は、まさに聖者のそれ……やはりシャローヴァナル様の祝福を受けられるだけあって、心にも神聖さが溢れて……」
「落ち着きましょう、オリビアさん……」
オリビアが過剰なほどに快人を称賛する言葉を口にするのはテンパっている証拠であり、それが分かっている快人もオリビアを宥める。
まぁ、もっとも、あくまでテンパると『口に出る』というだけで、テンパってない状態でも同じような称賛を心の中で考えていたりするのだが……。
そして少ししてオリビアが落ち着いたタイミングで、快人はマジックボックスから綺麗に包装された箱を取り出してオリビアの前に置く。
「というわけで、これが服です。今度一緒に出掛ける時とかに着てくれたら嬉しいですが、もちろん無理をする必要はないので……」
「あ、えっと……た、大変光栄なのですが……私は、ミヤマカイト様にこのような品を下賜していただけるような功績などなく、素直に受け取っても良いものなのでしょうか?」
「ええ、もちろん……というか功績とかはなにも関係なく、純粋に俺がオリビアさんにプレゼントしたいと……えっと、この服を着ているオリビアさんを見てみたいと思ったから贈る感じで、つまるところ俺の方の都合なので気にせず受け取ってください」
「は、はひっ」
それは快人にしてみれば、遠慮するオリビアに対して気にしなくていいとフォローを入れたつもりであり、実際にその言葉を聞いてオリビアは箱を受け取った。
ただ、快人の意図とは違っている部分もあるというか、予想とはまた違った結果を招いた部分もあった。快人としては先程の発言のメインの部分は「気にせず受け取ってほしい」というものであり、理由などはオリビアが心理的に受け取りやすいようにするためのフォローの意味合いが強かった。
対してオリビアはもちろんそういった快人の気遣いの部分も理解しているが、それ以上に彼女の頭の中には「この服を着たオリビアさんを見てみたい」といった快人の発言が強く残っており、頭の中で何度も快人のその発言がリフレインしていた。
(……ミヤマカイト様が、この服を着た私を見たいと……要望を……な、なんですかコレは!? 精神がソワソワと落ち着きません。地に足が付いていないようなこの感覚は……と、とりあえず雑念が多いのは分かります。分かりますが、それ以上に嬉し……ではなく!? ミヤマカイト様への感謝の言葉を伝えるのが先です!!)
まだいろいろと経験の浅いオリビアは、自信の感情の動きに困惑していた。決して不快なわけではなく、むしろ嬉しいという気持ちがどんどん湧き上がってくるのだが、感情を上手くコントロールできずにどうにも落ち着かない感じだった。
「……ミヤマカイト様に心よりの感謝を、ミヤマカイト様との……デ……デデ……」
「でで?」
「……デートの際には、必ずこの服を着用して参ります」
「あ、はい。楽しみにしてますね」
まるで宝物を扱うかのように大切そうに箱を持ちながら深い感謝の気持ちを伝えたオリビアだったが、やはりうまく感情がコントロールできないのか頬に赤みが差して途中で言い淀んでいた。
(な、なんですかコレは? ミヤマカイト様の前でなんて無様な……デートと口にするだけなのをいったい何度失敗しているのですか!? だ、だめです。心が乱れています……ミヤマカイト様への感謝の儀を再開するより前に、再び己の精神を研ぎ澄ませなければ……)
神教のトップ……教主オリビア……想像を絶する荒行の始まりの瞬間であった。
シリアス先輩「まだ感情面が成熟しきって無いというか、快人と会うまで箱入り状態だったから無垢な感じが強くて戸惑いが大きいのか……な、なかなかのヒロイン力じゃないか……」