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デート計画実行㉖



 荘厳ながらどこか静けさを感じる広い廊下を、祈りの際に使用していた服から教主としての服に着替えたオリビアが歩く。

 窓から差し込む光が彼女を照らし、まるで彼女自身が輝いているかのように見えるほど、その歩く姿は美しく絵になっていた。


 後の重大イベントに向けて研ぎ澄まされ、磨き上げられた精神は雰囲気にも影響を与えており、仮に神官とすれ違うことがあれば、神官たちは膝を折って祈りの姿勢に移行したかもしれないと思えるほどに神々しさすらある雰囲気だった。

 まさしく神教のトップたる教主に相応しき姿であり、オリビア自身もいまの己の状態が最高と言えるものであることを確信してた。快人に会うにあたって、これほど相応しい状態もないだろうと……そんな風に考えつつ、応接室に辿り着く。


「……ミヤマカイト様、大変お待たせして申し訳ありませんでした」

「オリビアさん、こんにちは……いえ、全然待ってないですし、こちらこそ急に尋ねてきて申し訳ない。都合とか大丈夫でした?」

「ええ、全く問題ありません。仮になにかしらの用事があったとしてもミヤマカイト様の来訪より優先される事態などほぼありませんが、今回に関していえば私的な時間の使い方をしておりましたので、ミヤマカイト様が心配されるような事態はありません」

「それならよかったです。ハミングバードで連絡をとも思ったんですが、たまたま香織さんの店に来てたので直接訪ねて取り次いでもらえるなら、大聖堂の方に来た方が早いかなぁと……」

「ええ、もちろん。この中央大聖堂に属するものでミヤマカイト様のお姿を知らぬ者など居ませんので、いつ訪ねてきても問題なくもてなしを行うことができますので、今後も是非お気軽に足を運んでいただいて大丈夫です」


 非常に穏やかな口調で快人にそう告げた後、オリビアは「失礼します」と一言断りを入れてから、快人の向かいの席に座った。

 彼女の感覚としては快人が座っている状態なら、下位に位置する己は立っているべきとも思うのだが、これまでの付き合いで快人がそれを望まないことは理解しているため、向かいに座る形を取った。


「それで、ミヤマカイト様。失礼ですが、今回はどのようなご用件でしょうか? もちろん、ただ会いに来てくださっただけでも私としては望外の喜びですが……」

「ああえっと、どこから話せばいいか……かいつまんで説明すると、最初に俺が自分の服を買いに行って……」


 オリビアに用件を問われた快人は、最初に経緯を説明した。服を買いに出かけた先でたまたま香織と出会って一緒に買い物をしたことなどを説明すると、オリビアは穏やかな微笑みのままで軽く頷く。


「なるほど、ミヤマカイト様にとって良い時間になったのであれば、私としても喜ばしいですが……失礼ながら、現状のお話の中では私に関わることは無いような? ミヤマカイト様の深いお考えを読めず申し訳ありません」

「ああいえ、用件はここからで……いや、まぁ、用件ってほど大した話では無いんですが、その時に行った店で、オリビアさんに似合いそうな服を見つけて、せっかくなのでオリビアさんにプレゼントしようかと思って買ってきたので、それを渡しに来ました」

「…………………………」

「……あ、あれ? オリビアさん?」


 快人の言葉を聞き、オリビアは時が止まったかのように硬直した。先程までの透き通る心はどこへいったのか、彼女の頭の中には今唐突に広大な宇宙が広がっていた。

 すなわち、状況にまったく付いていけていないというのが正しい。


(……ミヤマカイト様が、私に衣服を下賜? 私は別になにかしらの功績をあげた覚えも、褒賞を頂くような理由も思いつかないのですが……プレゼント? え? な、なぜ? ど、どど、どうして?)


 現在のオリビアの感覚で言えば、なぜか唐突に敬愛する相手から最上級の褒美を差し出されたような状態であり、心の平静は一瞬で崩れ去り混乱の極みにまで達していた。

 真面目過ぎる彼女は、上位の存在……つまり快人が己になにかを贈ってくれるというのは、オリビアが快人にとって有益な功績を上げた際の褒賞ぐらいしか想定はしていない。


 以前にもある意味快人から服をプレゼントされてはいるのだが、どちらかと言えばあの時の状況的には、アリスに無理やり着替えさせられたという認識が強く、快人からのプレゼントという印象ではなかった。

 だが、今回は違う。ただ衣服をプレゼントされるというだけでもオリビアにとっては大事なのだが、それどころか快人がオリビアに似合いそうな服を選んで買ってきてくれたというのが、あまりにも恐れ多く思考が完全に宇宙へ飛び立っていた。


(お、おお、落ち着くのです、へ、へへ、平静に……ざ、雑念が……心落ち着かせて、ミヤマカイト様の真意を読み解くのです! 私はなんの功績もあげてないのにミヤマカイト様からなにかを下賜されるという状況、これはつまり褒賞という意味合いではなく別の意図があるはずです。それを、早く察しなければミヤマカイト様に無礼を……はっ!? そ、そうです! たしか、デートに関して調べた際の参考文献に似たような衣服を贈る話が……アレは確か、贈る側の好みに相手を染め上げるというようなことが……はへぇ?)


 冷静さを取り戻そうとした結果ドツボにハマってしまうというのは、ままあることであり、オリビアの思考が再び宇宙へと旅立ったのは言うまでもないことである。




シリアス先輩「なるほど、信仰心ガチ勢に迂闊にプレゼントをすると、変に深読みしすぎてテンパるのか……」

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― 新着の感想 ―
下賜って…オリビアにとって快人は帝か何かですか(笑)
デート当日までとんでも苦行が始まるのか… 買ってもらった服は、状態保存の魔法をこれでもか!って程かけてそうだな…。
 おぉ、洗練されている。いつもオリビアさんだったら用事があっても快人さんの方が優先だと言い切っていたけど、それで快人さんが気に病まないように私用で過ごしていたと伝えたね。  そして渡しました、プレゼ…
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