デート計画実行㉕
香織さんの店で食事と楽しんだとは、自然と現地解散のような形となった。香織さんと茜さんは服を買うという目的を達しているし、俺も自分用の服はすでに買い終えている。
メギドさんは俺と一緒に買い物に行って昼食を食べたことで満足した様子で、上機嫌で「また一緒に出掛けようぜ!」と言っていた。
メギドさんはその辺りサッパリとした性格なので、当初の目的通り俺と一緒に買い物をして以前に約束した香織さんの店に一緒に行くということも達成したので今日はもう解散でいいだろうという感じだった。
オリビアさんの元に行こうかと思っていることも伝えたのだが、特に大聖堂に興味は無いということで友好都市でいくつか酒を買って帰るとのことだった。
メギドさんがそういう性格だからこそこちらとしても気を遣わなくて済むのは凄く楽だ。いやまぁ、「抱く気になったんなら朝まで付き合うぞ?」と発言してアリスにぶん殴られてはいたが……メギドさんらしいと言えばメギドさんらしい。
と、ともかく、そういう経緯で現地解散となったので俺はオリビアさん用に買った服を持って大聖堂に向かっていた。
オリビアさんの服のサイズは香織さんが知っているとのことだったので、店の中にある服からおオリビアさんに似合いそうなものを選んで香織さんに私、香織さんから店員にオリビアさんのサイズのものがあるかどうかを確認してもらった。
……まぁ、オリビアさんの体格的にSサイズ買っておけば問題なさそうな気はするのだが、もしサイズが間違っていたら大変なので、その辺りはちゃんとした。
なにせオリビアさんの性格上、これで買った服のサイズが間違っていた場合は、『俺に対してサイズを伝達していなかった己が悪い』とかそんな反応になりそうな気がするから……。
あ~でも、いまさらながら会う時ってどうすれば……大聖堂の受付あたりで神官の人に聞いてみればいいかな? まぁ、それでよく分からなければハミングバードで連絡すればいい。
友好都市ヒカリにある神教の総本山たる中央大聖堂。その際奥に位置する教主の間では……オリビアが静かに祈りを行っていた。
現在彼女が行っているのは、事前に計画しておいた10日前から行う快人への感謝の祈りであり、いまの彼女の心は一切の雑念もない澄み渡った思考だった。
当初こそ快人のことをアレコレと考えてしまって集中を欠いていたオリビアだったが、この10日前の祈りが始まるまでに、常人なら何度死んでいるか分からないような凄まじき荒行を経て、その精神を完成させた。
いまのオリビアはまさに聖女と呼ぶにふさわしい荘厳かつ清らかな雰囲気を放っており、周囲がキラキラと輝いているかのようにさえ見えた。
そのまま静かに祈りを続けていたオリビアだったが、扉が開く音を聞いて静かに目を開いた。
「教主様、祈りの最中に失礼いたします」
オリビアが10日間にわたり重要な祈りを行うことは大聖堂内の神官全員に通達しており、通常であればこの祈りに邪魔が入るはずはなかった。
なぜならこの祈りを邪魔することは、オリビアに対して刃を向けるに等しい行為であり、当然ながら聖堂内の神官がそれを知らないはずはない。
だからこそ、オリビアはゆっくりと神官の方を振り返った。この神官は、オリビアの神聖な祈りを邪魔をしても伝達すべき重要な要件でやってきたのだと理解したから。
「……内容を」
「はい! 先程大聖堂にミヤマカイト様がいらっしゃり、教主様への面会を希望しています」
「ミヤマカイト様が? なるほど、それは最重要ですね。ミヤマカイト様を貴賓室にお通しした上で、飲み物と軽く食せるものをお出ししてください。私は身を清め、着替えてから赴きますので、2分ほどお待ちいただけるように、ミヤマカイト様に丁重に伝えてください」
「畏まりました」
当然ではあるが、オリビアにとって快人の方が祈りよりも優先順位が高い。快人の来訪を知って、直ちに祈りを一時中断した。
(……しかし、ミヤマカイト様はどのようなご用件でしょうか? 手紙等でなく訪ねてくるということは、何か重要な用件でしょうか? いえ、あれこれと邪推するのは不敬ですね。私が行うべきなのは、可能な限り速やかにミヤマカイト様の下へ向かうこと……問題ありません。いま、私の信仰心と精神は研ぎ澄まされています。教主として相応しい態度でミヤマカイト様をおもてなしできるでしょう。少なくとも、以前に部屋にお招きした際のような醜態は晒さないはずです……)
荒行によって透き通るようなクリアな思考を獲得したオリビアは、静かに思考を巡らせながら移動する。いまの己であればそう簡単に揺らぐことは無いと、そう確信しながら……。
なお、後に快人が帰った後で、彼女は以前よりはるかに湧き上がる雑念に頭を抱えることになるのだが、この時点ではそれを知る由は無かった。
~今回の分かりやすい要約~
オリビア「心が軽い……こんな透き通る心でミヤマカイト様の前に赴くなんて初めて……もう、なにも怖くない!」
シリアス先輩「……胃じゃなくて、精神をぶん殴られるのか……」