デート計画実行㉔
香織さんが手際よく作ってくれた料理は相変わらずとても美味しい。ノインさんが香織さんの料理を食べた時も言っていたが、なんというか温かみのある家庭的な味わいがとても素晴らしい。
「ほぅ、いい腕じゃねぇか……それにこの酒は、ノインから仕入れてんのか?」
「あっ、はい。ノイン様に味噌などと一緒に仕入れさせてもらってます。他のお酒も試してみましたが、日本酒だとノイン様のものが一番美味しかったので」
以前にノインさんを連れてきた際に、いろいろ商談が整っていたようで、香織さんの店ではいくつかの調味料や酒などをノインさんから仕入れているらしい。
ノインさんは日本食などへの拘りが強い方なので、香織さんの店とは相性がかなりいい。ノインさん自身も香織さんの定食屋を気に入っているようで、友好都市ヒカリというノインさんが世界一近付きたくない都市に店があるにも関わらず、それなりの頻度で通っているらしい。
「なんというか、香織さんの定食屋もどんどんレベルアップしてる感じがしますね」
「いや、本当に自分で言うのもなんだけど前と比べて質のいい食材とかいっぱい使えるようになって、美味しくなってると思うよ。というか元を辿ると大体全部快人くんの影響だから、快人くんに感謝だね」
「大体全部は大げさな気もしますが、役に立てたようなら嬉しいです」
「……これでもうちょっと胃に優しかったら、最高なんだけどなぁ」
「うん?」
「あ、いや、なんでもないよ。あはは……」
なにやら途中ジト目になって小声で呟いていたのだが聞き取れなかった。するとそのタイミングで横からスッとお猪口が差し出された。
「ほれ、カイトも飲め。シャローヴァナルの祝福で、その気になれば酔いは無効化できるんだろ?」
「あ、はい。それじゃあ、いただきますね。なんか真昼間っからお酒ってのは変な気分ですが……」
「なんでだ?」
「メギドさんに説明して納得してもらうのは、滅茶苦茶難しい気がするので気にしないでください。個人的な感想です」
メギドさんは気が向けばいつでも酒を飲むというか、水代わりみたいに飲んでる部分もある。メギドさんもその気になれば酔いを無効化したり、一瞬で酔いを醒ましたりとかそういう芸当もできるみたいなのでいつ飲んでても問題は無いのだろう。
しかし、いまのややミステリアスな雰囲気のある少女の姿だと、熱燗を飲んでいる姿が絵になるというか艶のある雰囲気で色っぽさもあるので不思議なものだ。
これがよくある魔獣の姿とか、男性の人化姿とかだとただの大酒飲みにしか見えないのに……見た目の印象の影響力は凄いものだ。
「お? なんだ、カイト? 惚れたか?」
「いや、その姿でお酒を飲んでる姿は独特の雰囲気があって普段とはまた違った印象だなぁって」
「そうか? というか、普段はどんなイメージなんだ?」
「酒好きで豪快な戦闘狂……ですかね?」
「なんとも言えん評価だが、自分自身でも否定できる要素を見つけらんねぇから文句も言えねぇな。まぁ、いいか、飲むぞ!」
本当にメギドさんはサッパリとした性格というか、こうして苦笑しながら話を切り替えるところを見ていると、付き合いやすさのようなものは感じている。
いや、慣れないうちは怖いのも分かるし、先程俺がメギドさんを酒好きで豪快な戦闘狂と言った時に、香織さんや茜さんが慌てていた気持ちも分かる。
「……快人、お前……怖いもんないんか?」
「いや、メギドさんって世間で言われてるより全然寛容というか、そうそう怒ったりしないですよ。今日に至っては、過去最高レベルで上機嫌なので本当に心配はいらないです」
そう、例えばアリス相手とかだとあえて挑発に乗っているというか、喧嘩しているのも一種のコミュニケーションみたいな感じだ。
そしてそれ以外の相手に関しては基本的に大らかというか、懐が深いというか、そうそう怒ることなどない……まぁ、あくまで『メギドさんが気に入っている相手なら』という前提が入るが……。
気に入らない相手に関しては、たぶん香織さんとか茜さんが想像しているような感じの対応だと思う。あとちなみに、香織さんや茜さん、フラウさんのことは割と気に入ってるっぽいので、もうちょっと気楽に話しても大丈夫だとは思う。
そんなことを考えつつ、他愛のない雑談と食事を楽しんだ。
ああ、そういえば、せっかく香織さんの服も買ったのだからとオリビアさんにも服を買っておいたのだが、せっかく友好都市に来たのだからあとで渡しに行くことにしよう。
シリアス先輩「荒行をして必死に精神を整えようとしてるオリビアに襲撃かける気でいらっしゃる」