デート計画実行㉓
茜さんの転移魔法で香織さんの店に移動し、店内に入ると香織さんは一度奥に入っていつもの割烹着風の服装に着替えてきた。どうやら料理をするときはその格好を決めているらしい。
そして俺たちの前に、水とメニューを置いてくれる。
「香織さん、今日って定休日ですよね? 手間がかかるでしょうし、作りやすいものでいいですよ?」
「あ、大丈夫だよ。いまはラズ様に貰った大きなマジックボックスがあるからね。いや~やっぱり大容量のマジックボックスは飲食店だと最高だね。手の空いてる時間に下処理してマジックボックスに入れておけば、簡単に作れるから……だからメニューもいろいろ増やしたんだよ。作り置きとかも簡単になったしね」
「あ~なるほど、言われてみれば確かに……」
確かに香織さんの言う通り、マジックボックスは料理などを出来立ての状態で保管できるので、作り置きしておけばいいし、そうじゃなくても手間のかかる下拵えなどを終わらせたものを入れておけば、注文から短時間で完成させられる。
店が暇な時間帯とかにそういった料理を作ってマジックボックスに入れておけば効率的だし、確かに容量の大きなマジックボックスは飲食店にとっては非常に強い味方かもしれない。
「というわけで、メニューに載ってるものならすぐ作れるからなんでも頼んでくれていいよ」
「ありがとうございます。じゃあ、俺は……竜田揚げ定食で」
「ほな、ウチは味噌カツで頼むわ」
「私は野菜炒め定食で」
とりあえずどれを頼んでも香織さんの手間が大きくなったりはしないようだったので、食べたいものを選んで注文する。茜さんとフラウさんも注文し、残るはメギドさんだけとなった。
「戦王様はなににしますか?」
「ああ、俺はあんま食事はしねぇからな……軽く摘まめるもんでいいぞ。あと、酒はあるか?」
「はい。熱燗とかでもいいですか?」
「熱燗か、久しぶりに飲むな……ああ、それでいい」
メギドさんは六王の中では色々食べるほうらしいが、基本的に酒のつまみがほとんどであり、今回も普通に酒と一緒に摘まめるものを頼んでいた。
ただそのやりとりで少し気になる部分があったので、メギドさんに聞いてみることにした。
「メギドさん、熱燗を知ってるんですね? 久しぶりに飲むってことは、前にも飲んだりしたんですか?」
「うん? ああ、確か日本酒……だったか? 元々はノインのやつが自分用に少量作ってた酒だったんだが、それをうちのイプシロンが随分気に入ってな。ノインに作り方を教わって、量産体制を整えて大量に作ってるな。ブロッサムとかも日本酒が好きだぜ」
「あ~なるほど」
言われてみればイプシロンさんって和服っぽい服装だったし、ブロッサムさん程とはいかないまでも日本的な文化が好きなのかもしれない。
ノインさんとかイプシロンさんが、日本酒を飲んでる姿はかなり似合いそうだ……いや、ブロッサムさんも見た目だけなら大和撫子って感じなのだが、どうも元気いっぱいのイメージが強いせいで落ち着いて熱燗とか飲んでる姿はイメージし辛い。
「おっ、そうだ。せっかく熱燗なら、アレに……『熱盛』ってやつにしてくれ」
「「「……」」」
メギドさんがいいことを思いついたと言いたげに告げた言葉に、俺と香織さんと茜さんは硬直する。それも当然だろう。熱盛というのはネットスラング的なもので、熱く盛り上がったシチュエーションとかって意味合いだったはずだ。
少なくとも熱燗とはなんの関連もないのは確かである。となると、メギドさんはなにかを勘違いしているのだろうとは思う。
フラウさんは熱盛がなにかを知らないので特に不思議そうな顔はしていないが、俺たち三人はなんとも言えない表情になっていた。そして、香織さんから俺の方に向けられる「助けて」という無言のメッセージ……まぁ、この状況でメギドさんに突っ込めるのは俺だけか……。
「メギドさん、俺たちの居た世界に熱盛って言葉は確かにあったんですが……熱燗とはなにも関係ないものなんですが、どこで聞いたんですか?」
「なに? 熱燗をでかい器に大量に注ぐのが熱盛だって、ブロッサムのやつに聞いたんだが……違うのか?」
「全然違います……けど、ああ、なるほど、熱燗の山盛りとか大盛りとか、そんな意味合いで考えてたんですね……香織さん、普通ので大丈夫です」
「あ、うん」
なんというか、情報源がブロッサムさんと聞いて物凄く納得した部分がある。うん、なんかあの人ならドヤ顔でそんなこと言ってそうなイメージがある。
シリアス先輩「またアリスが変な事吹き込んでたのかと思ったが、別人の仕業だった」
???「失敬な、アリスちゃんがそんな間違った知識なんて教えるわけ……いや、ゴリラ相手なら面白がってやりそうですね」