デート計画実行⑲
偶然快人とメギドと出会い、そのままの流れで一緒に店に行くことになり香織は痛む胃を軽く抑えつつ付いて行く。
(……ま、まぁ、大丈夫だよ。戦王様の相手は快人くんがしてくれるわけだし、いい店を紹介してもらえるってことだけ考えておこう)
幸いなのは、以前のアルクレシア帝国の建国記念祭でメギドに連れられてセレモニーに強制参加した際とは違って、ここにはメギドを止められる快人が居る。
先程のやり取りを見る限り、快人は問題なくメギドをコントロールできている様子なので、快人の存在は香織だけでなく茜にも安心感を与えていた。
程なくして、メギドのオススメという店に辿り着く。
「ここだな。結構人気のあるブランドなんだが、実はこの街の店舗が第一号店で、制作もここでやってるからな。他で買うよりかなり安価に買えるぜ」
「へぇ……ああ、確かに雑誌とかで見たことありますね。茜さんと香織さんは知ってますか?」
「ウチも知っとるよ。質のいい服を手頃な価格で売ってるブランドやな。高級ブランドほど肩ひじも張っとらんし、丁度ええぐらいやな」
「……私は、あんま服とか詳しくなくて初めて見るブランドだね」
有名なブランドの店ということで、お洒落な外観に感心しつつ香織は快人たちに続いて店の中に入る。店内はそれほど広くはないものの、センスのいい服がいくつも置いており、人気があるのも頷ける雰囲気だった。
興味深そうに視線を動かしつつ、香織はTシャツが複数置いてあるエリアを見て、そのTシャツの値段に思わず目を見開いた。
(え? 300R!? 日本円で……3万円!? このTシャツ一枚で? えぇぇ……いや、高くないかな?)
想定よりも高額だったTシャツを見て香織はなんとも言えない表情で他の面々を見るが、そこには香織の期待したような反応は無かった。
「どうだ? どれもかなり安いだろ、気になるものを全部買ったとしても大した額にはならねぇぞ」
そういって笑みを浮かべるメギドの言葉を聞き、香織は軽く額に汗をかく。
(いやいや、戦王様からすれば安いかもしれないですけど、私から見れば全然高いんですが!? 怖いからそんなこと言えないけど……)
あくまでメギドとしては安い店を紹介したという感覚ではあるのだが、一般市民と言っていい香織にとってはまったくそんなことは無かった。
だが、相手は戦王であり……そんな相手が案内してくれた店に文句など言えるはずもない。
「確かに、かなり手ごろな価格ですね。Tシャツとかも安めですし、センスもいいですね」
そしてそんなメギドの言葉に反応して、店内の商品を軽く見ながら快人も同意の言葉を返す。
(……いやいや、快人くん? 全然手頃な価格じゃないよ。君普段どんな金額の服着てるの!? ……いや、君はとんでもないお金持ちだからそんな感じかもしれないけど、私は違うんだよ!? 私、召喚された当時高校生だし、お金そんなに持ってなかったし、Tシャツとかで言えば3980円とかでもかなり迷うぐらいだよ! 3万円とか、高級ブランドって印象しかないんだけど!? ……あ、茜さん。茜さんなら……この気持ちを分かってくれるはず……)
快人は基本的にアリスが制作した服を着ることが多く、最高レベルの素材と技術で作られた服は非常に高価であり、製作者のアリスに対する信頼が高いことと、快人自身が金を余ら世気味なこともあって、割とポンポン高額でも購入しているので、そこそこの数の服を所持していたりする。
それでも以前はまだ、ある程度一般的な金銭感覚も維持していたのだが……結構式用の服などを買いに貴族御用達の衣服店に行ったりといろいろあった結果……最近その辺りの金銭感覚は完全に麻痺しており、一着3万円程度は安いという認識になっていた。
香織は快人の言葉に戦慄したような表情を浮かべて、縋るような気持ちで茜の方を向くが……こちらもまた、香織の期待した反応とは違っていた。
「会長、このブランドの服がこの価格というのは素晴らしいですね」
「そやね、流石直売だけあるわ。Tシャツとかやったら安価で買いやすいし、ウチらも何着か買うて行くか」
そう、自分と同じような反応を期待していた香織だったが、茜とフラウはむしろメギドや快人と同じ感じであり、店の商品は安めという感想を抱いている様子だった。
(あぁぁぁ……快人くんが凄すぎて忘れてたけど、茜さんも結構大きい商会のトップだし、普段のヒョウ柄の服とかも特注で作ってるって言ってた。ど、どうしよう……今回、お金は結構持ってきた。2000Rぐらいまでなら、ギリギリなんとか……いや、本当はその10分の1ぐらいで済ます気だったのに……で、でも、この雰囲気の中で私ひとりだけ高いとか言えないし、いくらお金持ちでも後輩の快人くんにはちょっと見え張りたい気持ちもあるし……うぅ、新しい包丁買いたかったんだけどなぁ……)
他の全員が安いという感想を抱いている中で、自分だけ高いとは言い出せず、香織はどこか諦めたような表情で大きな出費を覚悟した。
そのタイミングで、チラリと快人が香織の方を見たのには気づかないまま……。
シリアス先輩「そういえば、茜って……年に数えるほどしか出回らないブルーダイヤモンドを手土産に用意出来たりするし、快人と世界樹の果実のやり取りの時も『お金で解決するのでは互いに納得できない部分が残る』って感じで引いてたけど、その気になれば世界樹の果実も買える感じがしたよな」
???「実際並みの貴族よりお金持ってますからね。世界樹の果実に関してはそもそも市場に出回らないので手に入れられてなかっただけで、買えるだけの財力はありますね。比較対象のカイトさんが桁違いなだけで、普通にかなりのお金持ちですね」