デート計画実行⑰
少々トラブルというか、メギドさんの困った行動はあったものの試着したジーンズを購入することにした。裾上げには時間がかかるみたいなので、他の服屋を回ってあとで受け取りに来るつもりだ。
まぁ、裾上げしないまま購入してアリス辺りに頼んだりすれば、すぐに裾上げは終わりそうだが……別にそこまで急ぐようなことでもない。
「むぅ……恋愛ってのは難しいもんだな」
「その言葉には同意しますが、メギドさんの難しいって感覚は他とはちょっと違うような気が……」
のちの再指導が確定したメギドさんはなんとも難しそうな表情で首を捻っていた。ただこうして事前の行動に関して、どこが間違っていたかってのを考えてたりしてる辺り、クロとアリスの指導の成果はある程度出ているのだろう。
「まぁ、それは置いておいて、次は上着ですかね」
「そうだな、さっきのジーンズに合わせるなら上は明るめの色合いがいいぞ」
「白とか合いそうですね」
「白は確かに無難だな、あとはオレンジとかもいいと思うぜ。俺の意見としては、ワンポイントないし柄が入っていた方がアクセントになっていいな。ジャケットの方を派手にするって手もあるが、それはカイトの好みとは違うんだろ？ なら、やっぱ上着だな」
「なるほど、確かに全部無地だとアクセントが欲しいですね」
クロのネックレスがあるので、基本的にはこのネックレスに合わせたデザインを探す必要がありそうだ。ひとりだと大変だったと思うけど、メギドさんが頼りになるので結構気楽だ。
「……いやいや、なにこんなとこまで来て安物買おうとしてんねん。せっかく遠出して服買いに来たんなら、ええもん買った方がええやろが」
「う、う～ん、それは分かるんだけど……やっぱ、値段見ると躊躇しちゃうっていうか、うぅ、服って高いなぁ」
「お気持ちは分かります」
「いや、お前なんで香織より服買ってんねん！ 普段メイド服ばっかなのに、いつ着るんや……」
それは本当に絶妙なタイミングというべきか、俺とメギドさんが歩いていると進行方向にある店のドアが開き、見覚えのある三人が会話をしながら店から出てきていた。
そう、茜さん、香織さん、フラウさんの三人だ。正直驚いた、友好都市とかならともかくこんな場所で遭遇するとは思わなかった。
「香織さん、茜さん、フラウさん……こんなところで奇遇ですね？」
「え？ 快人くん！？ この街に来てたの？ うわっ、すっごい偶然だね」
俺が声をかけると三人も驚いたような表情を浮かべて近づいてきた。三人と軽く挨拶を交わしつつ、事情を確認してみると、なんと三人も俺と同じくこの街に服を買いに来ていたらしい。
正しくは香織さんが服を新調したいと言っていたのを聞き、茜さんが気を利かせて連れてきた感じらしいが……本当になんとも奇妙な偶然である。
「こんな偶然があるもんなんやなぁ……うん？ ほんで快人、そちらは？」
「綺麗な人だね～見覚えはないけど、快人くんの知り合いだからやっぱすごい人なのかな……」
「ん～……ああ！ アルクレシアの祭りの時に会ったな！ たしか、カオリとアカネだったか？ そっちのメイドは初めて見たが……」
「「え？」」
「ああ、この人、メギドさんです」
「「ッ！？！？」」
一瞬船上パーティの時に見てなかったのだろうかと思ったが、考えてみればメギドさんは性格上あちこちに挨拶に行ったりするようなタイプではないし、戦王配下が集まってる場所で酒を飲んでいたのだろうし、香織さんや茜さんがこの姿のメギドさんを知らないのも不思議ではない。
「あ？ ああ、そういやこの姿は見たことなかったか？ まぁ、別に大した違いがあるわけじゃねぇから、気にすんな」
「……えっと、メギドさんは人化の姿が複数あって、いまの姿はそのうちのひとつなんですよ」
「そ、そうなんだ……あっ、じゃ、じゃなくて！？ あ、挨拶が遅れて、申し訳ありません。お久しぶりです、戦王様」
「またお会いできて、光栄です。後ろに控えているメイドは、護衛のフラウと申します」
「おう、そんな固くならなくてもいいぞ。今日の俺は上機嫌だし、お前らはカイトの知り合いだろ？ 大抵のことは許してやるから、気楽に話せばいい。というか、変に畏まってるほうが鬱陶しいから、やめろ」
メギドさんとしては「気にせずに話しやすい口調で話せ」ということを言いたいんだろうが、口調に変に威圧感があるので慣れないうちは不機嫌なように聞こえる。
「香織さん、茜さん、フラウさん、慣れないうちは威圧感があるように感じるかもしれませんけど、本当に大丈夫ですよ。というか、いまのメギドさん滅茶苦茶上機嫌なので、安心してください」
「ほ、ほんと……お、怒ってない？ 私たち、殺されない？」
「いや、慣れると分かるんですが、本当に上機嫌なんですよ……」
とりあえず明らかに怯えている三人にフォローを入れると、香織さんが震えながら小声で聞き返してきた。まぁ、こういう反応になるのも分かる。
あとなんなら、少し思い出す時間が必要だったとはいえ、香織さんと茜さんの名前も憶えていたので、むしろふたりのことはある程度気に入ってる感じだ。
シリアス先輩「なんとなく想像できるけど、たぶんデフォルトで声にドスが効いた感じになってるんだろうな……ただ、快人の言う通り間違いなく上機嫌ではある」
