デート計画実行⑯
メギドさんと一緒に最初に入った服屋は、デニム系の店らしくジーンズなどが多く取り揃えられていた。ジーンズはいいな、いろんな上着と合わせられるし選択肢としては非常にいい。
「そういや、カイトは普段の服はどこで買ってんだ? パーティとかで見る服は、見事ってレベルでいいもの着てたが……」
「ああ、アリスから買うことが多いですね。でも、それだけじゃなくて普通に他の店で買ったりすることもありますね」
「シャルティアが作ってたのか、それ質がいいわけだな。同じ店で買ってると服の系統が偏りがちになるからな、たまには違う店で買うってのも新鮮な出会いがあっていいよな……おっ、この辺りなんていいんじゃねぇか?」
普段のメギドさんの姿を見るとお洒落なんてものとは無縁に感じるが、口ぶり的にかなり分かってる感じというか、実際いまのメギドさんの姿もお洒落である。
船上パーティではドレスだったが、現在はパンツルックの服装であり、ジーンズというよりはやや緩めのスラックスに七分袖の上着を合わせたコーディネートで、ビシっと決まっている感じがある。
というか、そもそも船上パーティの時に少女の姿だったのも購入したドレスが一番似合う格好だからという話だったし、結構服とかも買ってるのだろう。
「やっぱり、ルーズストレートが無難に履きやすいだろうしな」
「あ~そういえば、ジーンズっていろいろ種類があるんですよね?」
「ストレート、テーパート、ワイド、スキニー、フレア……まぁ、確かにいろいろあるが、別にそんなの覚えとく必要はねぇさ。デザインが気に入って、試着してよさそうなら買えばいい。深いこだわりでもねぇなら、その手の形式なんざ関係ねぇよ」
「なるほど……とりあえず、せっかくメギドさんが選んでくれたんですし試着してみますね」
「おぅ!」
なんというか、メギドさんのサッパリした考え方は結構好きである。知識としていろいろ知ってはいるが、結局のところ見て気に入ったものを買うのが一番だと言ってくれたりしてて、こちらとしても気軽に買い物をしやすい。
メギドさんが選んでくれたのはやや暗めな色合いのジーンズであり、少し大きめなのかゆったりとしていて履きやすかった。裾が結構余ってるので、裾上げは必須だろうが……。
「おっ、中々いい感じじゃねぇか……にしても、この格好だとカイトの方が高いから見上げる形になるが、これはこれで新鮮だな」
「あ、そうですね。普段の姿はもちろん、人化した姿とかでもメギドさんの方が背が高いですから、珍しい感じですね」
普段の10メートルを超える姿はもちろんだが、男性の姿に人化した姿に関しても高身長であり、本来の姿も俺より背が高いので、メギドさんが俺を見上げるという感じは珍しい。
そう思っていると、メギドさんがふと何かを考えるような表情を浮かべる。
「なるほど、姿によって視覚だけじゃなくて体格も変わってるなら……試してみるか。おいカイト、ちょっとしゃがめ」
「え? こうですか?」
「ああ、よっと」
「んんっ!?」
言われるがままにしゃがむと、なぜか急にメギドさんが顔を近づけてきてそのままなんの脈絡もなくキスをしてきた。衝撃的な展開に一瞬思考が完全に停止するが、メギドさんはすぐに唇を離してどこか楽しげに笑う。
「お~やっぱり、感触が違う気がするな! これはこれで姿を変えると違う感覚で楽しめていいな!」
「な、なな……いきなりなにするんですか!?」
「あん? ああ、いや、この姿だとキスした時の感覚も変わんのかと思ってな、試しだ、試し……あ~そういや、こういうのはもうちょっと段階を踏んでとか、クロムエイナとシャルティアが言ってたような? まぁ、実験的なもんだから別にいいだろ!」
相変わらず恋愛関連も脳筋で行動力が凄すぎる!? あまりにも当たり前のように言うので、どう突っ込んでいいか迷っていると……俺とメギドさんの間の宙に文字が浮かび上がった。
『いいわけないでしょ……クロさんからの伝言です、あとで補習するからカイトさんとの外出が終わったら来るようにとのことです』
どうやらメギドさんの行動に関して、クロとアリスは再指導の必要ありと判断したらしい。心の底から賛成である。しっかり教育しておいてほしい……。
「な、なにぃぃ!? な、なんでだ……」
「……まぁ、その辺りもクロたちにしっかり指導してもらってください」
予想外と言いたげな表情で驚愕しているメギドさんに対して、俺は思わず苦笑する。見た目が少女の姿だからか、困惑している様子が少し可愛らしく見えたのは内緒だ。
シリアス先輩「本当にこのゴリラ、恋愛関係に行動力ありすぎるだろ……思いついてから実行までが早すぎる」