デート計画実行⑮
メギドさんの転移魔法でやってきたのは、あまり見覚えのない街だった。少なくとも首都ではない……雰囲気的には田舎とまではいわないまでも、少し覗かな感じもある街だった。
「メギドさん、ここってハイドラ王国のどの辺りなんですか? 首都ではないですよね?」
「うん? ああ、ここはハイドラ王国の首都の東の方にある都市だな。首都でもいいんだが、どうしても首都には流行最先端のファッションが多く集まるからな。俺としては攻めっ気のある服装も好きだが、今回の目的ならこっちのほうがいいだろ。ここは、服産業で発展してきた街だからな、服屋の数はかなりのもんだ」
「へぇ、確かに少し見渡すだけでも服屋があちこちにありますね」
確かにハイドラ王国は衣服が有名ではあるが、最先端のものを好む国風にあるハイドラの首都には、衣服だけではなく様々な最先端の品や店が集まっている。
対してこちらの街は服産業を前面に押し出した街みたいで、手ごろな価格の服をいろいろ見てみたいという目的には最高の場所だろう。
「街の雰囲気もいいですし、のんびり買い物を楽しめそうな……うん?」
「おっ……へぇ」
早速どこかよさそうな店にでもと考えたタイミングで、感応魔法で不穏な気配というか、険悪な気配を感じてそちらに視線を向けると……なにやら不良っぽい雰囲気の男女数人のグループが、同じようなグループと睨み合っているのが見えた。
しかもなにやら罵り合っているような感じで、明らかに喧嘩をしてる様子だった。
「ははは、見たところ地元の悪ガキかなんかか? 楽しそうでいいじゃねぇか」
「いや楽しそうというかそこそこ大変な感じというか……」
「そうか? あの程度可愛いもんだろう」
「……う~ん、まぁ、メギドさんの感覚ではそうかもしれないですね」
楽し気に笑うメギドさんの言葉を聞いて、不本意ながら若干同意はできてしまう。ハッキリ言ってしまえば、迫力が足りないというか、比べる対象がおかしいが……パンドラさんとアグニさんが睨み合ってた時のような、周囲をまるごと圧し潰すような雰囲気はない。
そういう意味では、その手の戦いや喧嘩をよく見てるメギドさんから見れば、あの程度の喧嘩は子供がじゃれ合っている程度なんだろう。
「だがまぁ、場所が邪魔だな……おい、ガキども喧嘩はいいが道の真ん中でやるんじゃねぇ、邪魔だ」
「あ? なんだテメェ! いきなり、舐めたこと言ってたら、ぶっ飛ばすぞ!!」
これから進もうとしてる未知のど真ん中での睨み合いだったためか、メギドさんが軽い口調で他所でやるように伝える。
だが、ヒートアップしてる状況でそんな声をかけられて喧嘩していた連中が了承するかといえば、当然そんなことは無くメギドさんに対して怒鳴り返してくる。
正体が分からないからこその行動ではあるが、見ているこっちとしてはハラハラするというか……メギドさんに喧嘩を売るという、自殺行為といって間違いない行動をとってる相手に憐れみの感情すら湧いてくる。
と、というか、メギドさん……ボコボコにしたりしないよな? さすがにそれは、あまりにも……ああ、大丈夫そうだ。楽しそうに笑ってる。
「元気があっていいじゃねぇか、それに運もいいな。カイトと一緒だからな、今日の俺はかなり優しい。だから今回は優しく口で忠告してやる。血気盛んなのは結構、喧嘩も大いに楽しめ……だがな、喧嘩売る相手は選べよ? ガキども」
その瞬間周囲の空気がすべて鉛に変わったかのような凄まじい重圧が襲い掛かってきた。俺は何度か経験しているので問題はないが、不良グループの面々は言葉を失い血の気の引いた表情で震えている。
なんというか、肌で……本能で感じ取ったのだろう。メギドさんがどれだけ格上の相手かというのを……。
「分かったな? よし……じゃ、喧嘩は周りに迷惑が掛からねぇ場所で楽しみな。ほれ、行っていいぞ」
「し、失礼しました!?」
メギドさんが重圧を弱めると、不良グループの面々は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。う~ん、流石に相手が悪すぎるというか、問題があったのは道の真ん中で喧嘩していた不良グループなのだが、メギドさんが相手だと本当に可哀そうという気持ちが湧いてくるから不思議である。
「さて、んじゃ行くか……いや~それにしても、今日の俺は本当に優しいな。カイトもそう思わねぇか? やっぱ機嫌がいいからだよな~いまの俺なら、目の前に気に入らねぇやつがいたとしても、半殺しぐらいで済ませてやれそうだぜ」
「……そ、そうですね」
なお、冗談とかではなく、メギドさんは本当に気に入らない相手は躊躇なく殺すらしいので、半殺しですませるというのはメギドさん基準では事実としていつもより優しい対応である。
なんというか、サクッと解決したとはいえ初手からトラブルという現状……若干先行き不安である。
???「まぁ、ゴリラさん基準としては自分に喧嘩売ってくるような無謀な相手は好きなので、カイトさんが居ない状況で遭遇したとしても、ある程度優しく叩き伏せてたと思いますけどね」
シリアス先輩「快人が居なければ、手加減してくれるとは言え喧嘩を買われていたと考えると……ある意味快人が不良グループを救った感じでもあるのか……」
???「まぁ、ドラブル体質(引き寄せるほう)のカイトさんと、トラブル体質(起こす方)のメギドさんという状況なので、トラブルぐらい起こっても不思議ではないですね」