デート計画実行⑩
準備を終えて、俺の要望通り披露してくれたジュティアさんの歌声は圧巻の一言だった。ジュティアさんの普段の声は、小柄な見た目にあったどちらかと言えば可愛らしい雰囲気の声だ。
しかし、こうして歌っている時は普段とは比べ物にならないほど大人っぽくカッコいい声に聞こえた。なるほど、透き通るような歌声とはこういうのを指すのかとそう感じるほど素晴らしい歌声だった。
「……どうだったかな?」
「凄かったです。やっぱり、合唱の時とは全然聞こえ方も違いましたし、歌声もすごく綺麗で聞き入ってしまいました」
「そんなに褒められると照れるね、照れるね。でも、とっても嬉しいぜぃ」
歌が終わり素直に賞賛の言葉を伝えると、ジュティアさんは眩しい笑顔を浮かべてくれて、釣られてこちらも笑顔になる。
するとそのタイミングで、ふとジュティアさんがなにかを思いついたような表情を浮かべた。
「そういえばさ、そういえばさ、今回の事とはまったく関係ないんだけど……お芝居とかだと、精霊族に対する愛の告白で『私のために歌ってくれ』って感じの言い回しが定番だったりするんだぜぃ」
「そ、そうなんですか? それはやっぱり、精霊族にとって歌が特別だからって感じですかね?」
「たぶんそういう経緯で生まれたんだと思うけど、実際にそういう言い回しを使ってるのは見たことが無いぜぃ。精霊族自体が恋愛をするのが珍しいってのも原因かもしれないけど、少なくともボクはお芝居以外では聞いたことが無いね」
「へぇ……あれ? でもなんか、前に黄金の果実を渡すとか、そんな話を聞いたことがあるような……」
ジュティアさんの話を聞いていて思いだしたのは、以前クロに教えてもらった黄金の果実を渡して相手がそれを食べれば求婚が成立するという話だ。
「ああ、それはね、それはね、精霊族が求婚するときだね。自分の持つ自然の魔力を球体状に圧縮して黄金の果実を作り出すんだよ。精霊族にとって黄金の果実は、本当に特別な相手に贈る品って感じだぜぃ……まぁ、さっきも言ったけど、そもそも精霊族が恋愛をすること自体が珍しいけどね」
「そうなんですか?」
精霊と人とのラブロマンスとかは題材としてもよさそうだし、先程ジュティアさんがお芝居……演劇などで定番という言い回しをしていたということは、定番になるぐらいにはそういった恋愛関連の演劇があるということだろう。
だがその上で、精霊族として相当古株であろうジュティアさんが珍しいと口にするぐらいだから、本当に精霊族の恋愛は珍しいんだろう。
「感覚的なことだから説明は難しいんだけど、ボクたちはこうして精霊体っていう実態を持ってはいるけど、やっぱり植物……大自然の一部って感覚が強いんだよ。だからさ、だからさ、精霊族は恋愛観が独特でね。まず基本的に同族は恋愛の対象にならないんだぜぃ。もしかしたら、探せばいるのかもしれないけど、ボクの知る限りでは精霊同士が恋人や夫婦になった例はないね」
「ジュティアさんが知らないってことは、あるとしても本当に極めて特殊な事態って感じなんでしょうね」
「そうだね、そうだね。なんていうか、ボクたち精霊族は全員ひっくるめて大自然の一部……仲の良し悪しや上下関係はあれど、本質的には同じ存在って感覚が強いのが影響してるかもしれないね。いや、本当に感覚的な事だからボクだけの考えかもしれないけどね。でもね、でもね、精霊族がまったく恋愛をしないかって言うとそれも違うんだぜぃ。ボクの知ってる範囲だとドリアードやハイトレント、あとはハイエルフと恋仲になった精霊族もいるぜぃ」
なんとなくドリアードもハイトレントもハイエルフも、自然に関係してる種族だし、もしかするとその辺が関係しているのだろうか?
そんな風に考えた俺の思考を肯定するかのように、ジュティアさんは話を続ける。
「これはあくまでボクの感覚や経験で明確な根拠があるわけじゃないんだけど、精霊族が恋愛的な意味合いで好きになる相手ってのは、自然に愛されてる相手なんじゃないかって思うんだぜぃ」
「確かに、名前的な印象でしたがドリアードもハイトレントも自然に関わりがある感じですね……でも、自然に愛されるって……具体的には?」
「う~ん、とっても、とっても難しい質問だぜぃ。他種族に説明するのは難しいんだけど、ボクたち精霊族や妖精族は、なんとなく相手が自然にどれぐらい愛されてるかってのが分かるんだよ。いくつか仮説はあるけど、明確に数値として分かったりするわけでも無くて、本当に感覚的なものだから表現が難しいぜぃ」
「なるほど、精霊族や妖精族にだけ分かる特殊な感覚ってやつですね」
「そうだね、そうだね……ちなみに、カイトはぶっちぎりってぐらい自然に愛されてるね。精霊や妖精以外で、ここまで自然から愛されてるって感じる相手は、ボクも他に会ったことが無いぜぃ」
そういえばなんか、初対面の時にも自然に愛されてるとか言われたような? う~ん、よく分からないが……やっぱりその辺はシロさんの祝福が関係していたりするんだろうか?
シリアス先輩「お判りいただけただろうか? ジュティアの発言に隠されてる恐ろしいフラグが……なんで、ジュティアは……『ボクの感覚や経験』で『精霊族が恋愛的に好きになる相手の基準』を推測できた? そして、ジュティアが知る限りでぶっちぎりで自然に愛されてる快人……」