閑話・その頃裏庭では……
快人とジュティアが紅茶を飲みながら雑談していたころ、裏庭に作った特殊な扉の奥、カナーリスの作り出した特殊な空間にはネピュラ、イルネス、カナーリスの姿があった。
その空間はネピュラやイルネスが趣味の物作りなどに使用する空間であり、以前からふたりでよくいろいろな物を作っていたが、最近ではカナーリスも加わって三人で試行錯誤をしていることが多い。
「食材はぁ、チーズとベーコンとサーモンでよかったですかねぇ?」
「はい。今回はあくまで実験的な調理ですからね。定番のものでいいかと思います」
「食材のサイズを考えて……ほいっ、燻製器はこのぐらいのサイズですね」
イルネスが持ってきた食材を確認したネピュラが頷き、直後にカナーリスが軽く手を振って燻製器を想像する。今回の彼女たちの目的は燻製であり、少々実験的な取り組みをするつもりだった。
「しかし~世界樹を用いて作る燻製とはぁ、いままで聞いたことがありませんねぇ」
「妾のものもそうですが、世界樹は耐熱性能も耐火性能も高すぎますからね。普通に世界樹を燃やせるような熱量だと、先に燻製器や食材が燃え尽きてしまいますので、普通であれば作ることはできないのでしょうね」
「なので今回は、自分がネピュラさんから預かった世界樹の木材をちょいちょいっと調整しまして、普通の火で燃えるように改良したので、それを使って燻製する感じですね。たはぁ~どんな感じになるのか楽しみですね。未来視とかで結果を先に見ちゃうのは興ざめですから、自分もどんな感じになるかは分かってないです」
三人が今回作るのは世界樹の木材を使った燻製であり、あまりにも強固な耐性を誇る世界樹の性質上、本来であれば不可能であるはずの調理だった。
とはいえ、全能の神であるカナーリスであれば世界樹の耐熱性や耐火性のみを下げることなど造作もないため、準備は簡単に終わってさっそく燻製が始まった。
「今回は実験的ですし、手っ取り早く完成する熱燻でいいですかね? いや、まぁ、自分が燻製器の時間だけは止めちゃえば温燻や冷燻でも大丈夫ですけど……」
「急ぐばかりがいいことでもないですよ。じっくり結果を楽しみにしながら待ちましょう。今回は、熱燻なので1時間程度で完成するでしょうしね」
「そうですねぇ。のんびりと~待つのもいいですねぇ。せっかくですから~紅茶と軽食でも用意してきますぅ」
「ありがとうございます、イルネスさん」
燻製には主に三種類の方法があり、高温で40分~1時間ほど燻す熱燻、30℃~80℃ほどの温度で数時間から1日ほどかけて燻す温燻、15℃~30℃程度の低温でじっくりと1週間ほど燻す冷燻とあり、今回は完成までの時間が短い熱燻で作ることにした。
紅茶を飲みつつ雑談をして1時間ほど経過し、完成した燻製を三人で試食する。
「クセは~ほとんどありませんねぇ。繊細な燻製などにも使えそうですねぇ。クルミなどが~近いでしょうかぁ?」
「そうですね。ただクルミと比較すると香りが強めですね。煙っぽい香りではなく果実のような甘めの香り……幅広く使えそうですが、繊細な白身魚などには合わないかもしれませんね」
「ふむふむ、総合するとクルミとリンゴを特徴を合わせたような感じですかね? おっと、ベーコンはかなりいい感じですよ。香りのおかげかほんのり甘みがあるように感じますね」
世界樹の木材で作った燻製は、やや甘めの香りで味はクセが少なく食べやすい印象だった。それぞれ感想を言い合っていると、ふとそのタイミングでネピュラが手に持っていたスモークチーズを、軽く片手を添えながらカナーリスに差し出した。
「カナーリスさん、スモークチーズも食べてみますか?」
「はへっ!? あ、い、いただきます!!」
不意打ち気味に差し出されたそれ、片手を添えて差し出す姿勢から……手に持ったスモークチーズを食べさせようとしてくれていることを察し、カナーリスは降って湧いた望外の幸福に打ち震えるように背筋を伸ばしてネピュラの手に顔を近づけてスモークチーズを食べた。
「……美味しいです。自分がいままで食したすべての食材の中で、一番です」
「それは、大げさすぎる気が……」
感涙しながら噛みしめるように告げるカナーリスに対して、ネピュラは大げさだと苦笑する。だが、ネピュラを心の底から敬愛するカナーリスにとって、ネピュラが手ずから食べさせてくれるという行為の時点で、幸福というスパイスが過剰なほどにかかっている状態であり、まさに至高の味わいといっても過言ではなかった。
カナーリスにとって、いまはまさに幸福の絶頂……そして同時に、のちに彼女に対して嫉妬に狂った知り合いの神たちからの『複合世界裂断チョップ』が確定した瞬間でもあった。
マキナ「ちなみに威力は銀河消滅パンチ<複合世界裂断チョップ<多重次元崩壊キックらしいよ」
シリアス先輩「それ喰らって痛いですむのは、流石に全能級……」