デート計画実行⑧
簡単な挨拶が終わった後、カナーリスさんは俺とジュティアさんの前にガラスで出来たティーカップを置いてくれる。
ティーカップは最近ガラス製品も作り始めたネピュラとイルネスさんによって作られたもので、どこか清涼感があって美しく、紅茶が入っている状態もかなり絵になる。
「……これは、これは……アイスティーかな?」
「ええ、その通りです。もう少し温かい時期になってから販売を開始する予定ですが、アイスティー専用の茶葉のラインナップを用意しておりまして、こちらはそのうちのひとつです。水で抽出しやすい茶葉となっておりまして、今回ご用意したものはまろやかな甘味が特徴の茶葉です」
「なるほど、なるほど……アイスティーもいいね。普通の紅茶とはまた違った味わいがあるし、これもとっても美味しそうだぜぃ」
カナーリスさんが用意した新作の紅茶は、アイスティー専用の茶葉シリーズだ。いまのところ全五種を同時発売する予定であり、前に聞いたときは3ヶ月後……シンフォニア王国は気候が安定しているので分かりにくいが、時期的に夏に該当するタイミングで発売する予定である。
カナーリスさんはそのままいくつかの茶菓子を並べた後で一礼して退室していった。そして目を輝かせて、待ちきれないという様子でこちらを見ているジュティアさん……その様子に思わず苦笑しつつ口を開く。
「じゃあ、早速飲みましょうか」
「うんうん、ボクってばもう待ちきれなかったぜぃ。それじゃあ、ぞれじゃあ、さっそく一口――ッ!? 凄い! アイスティーなのにここまで香りも味もハッキリしててぼやけてない」
「アイスティーって、味や香りが普通の紅茶よりは落ちるものなんですか?」
「そうだね、元々味覚って言うのは冷たいものに対しては鈍くなるんだぜぃ。例えば、例えば、冷たいジュースを想像してほしいんだけど、冷たいときは美味しかったのに温くなると妙に甘すぎるって感じたことは無いかな? それと一緒で、どうしても冷やして飲む場合は味はぼやけちゃうものなんだぜぃ」
言われてみればそういう経験はある。コーラとかもそんな感じかもしれない。温くなってから飲むと甘すぎて美味しくないとか感じた経験もある。
ただその甘すぎる状態が本来の味であり、冷たいときはその甘さがぼやけているから甘すぎるとは感じないのか……。
「香りに関しても、大半のものは熱で揮発することで香りを広げるから、冷たい飲み物はどうしても香りが薄くなりがちなんだけど……このアイスティーは全然そんなことなくて、本当に凄いよ!」
「なるほど……でも例えば、この紅茶も温くなったら甘すぎたりするんですかね?」
「そこが凄いところでね。いまね、いまね、試しに口に含んだ後魔法で温度を変化させてみたんだけど……温かくなっても味がほぼ変わらないんだぜぃ。多分この茶葉は、冷やした状態でも味を感じやすく調整させてるのかな? 凄いな、凄いな! 本当にいつも新鮮な驚きを体験出来て、ボクってば本当に感動してるぜぃ」
「あはは、そんなに喜んでもらえたなら出したかいもありますね」
「うんうん、本当にカイトと知り合えてよかったぜぃ。おっと、ごめんよ、ごめんよ、これだと物目当てみたいに聞こえちゃうね。でもでも、紅茶のこととか抜きにしても、ボクってば本当にカイトと出会えてよかったって思ってるよ。一緒にいて楽しいし、優しい君が大好きなんだぜぃ」
「……ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
他意などは無く純粋に友人に対して向ける好意とは分かっていても、眩しいほどの笑顔で大好きと言われるとドキッとしてしまうものである。
まぁ、なんにせよジュティアさんにそう思ってもらえてるのは本当に嬉しいし、明るく優しいジュティアさんと話すのは俺も楽しい。
「茶菓子も食べましょうか、カナーリスさんのことですからきっとこのアイスティーに合うものを用意してくれてるんだと思いますよ」
「そうだね、そうだね。冷たい飲み物だと口の中の油脂を流しにくいから、そういうものが使われてない茶菓子を選んで用意してるんだろうね。こっちも本当に楽しみだぜぃ」
大好きな紅茶の話ということもあって、いつも以上に饒舌なジュティアさんは小柄な外見も相まって、本当に可愛らしい。
けど、あれ? なんか頭にある木の角の心なしか伸びてるような? ……気のせいかな?
シリアス先輩「……これ、たぶんだけど、リリウッドの頭に花が咲くとか、リーリエの頭の花の色が濃くなるとかと同じで、かなり喜んでる時のサインみたいな感じだよな……となると、大好きの意味合いも結構変わってくるんじゃ……」