デート計画実行⑥
偶然にも視察に来ていたエリスさんと会え、少し雑談をした後で……エリスさんがなにやら高級感のある黒いカードを差し出してきた。
「カイト様、こちらが当店の会員証ですので、次回以降来店される際にお使いください」
「ありがとうございます。実は近々……というか来月ですがこの街に知人と来る予定で、時間があれば来てみようかと思ってるんですよ」
「そうなのですか? ……ちなみにそのご友人とは?」
「えっと……過去の勇者役で俺の異世界人の人と、もうひとりですね」
オリビアさんに関してはここで言っていいのか分からなかったので、いちおう伏せておくことにした。そもそも、友好都市ではなく別の街に行くのもオリビアさんが有名人で気付かれて騒ぎにならないようにという思惑もあるわけだし、エリスさんだけならともかく他の客がいる前で言うわけにはいかない。
「なるほど、同郷のご友人と……確定ではないとのことでしたが、もし事前に立ち寄るのが決まりましたら是非ご一報ください。その際は心ばかりではありますが、少し趣向を凝らしたアソートを用意させていただきます」
「ありがとうございます。じゃあ、その時には連絡しますね」
「はい。おっと、長々とお買い物の邪魔をしてしまって申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください……というか、せっかくですしなんかエリスさんのオススメのチョコとかあれば、教えてもらえると嬉しいです」
実際特にこれを買おうって決めてきたわけではなく、なにかいいのがあれば買いたいなぁぐらいの気持ちだったので、エリスさんのオススメがあるなら是非食べてみたい。
「それでしたら、ドライフルーツを使ったチョコレートなどはいかがでしょうか? アルクレシア帝国は、いまでこそ豊穣神様の加護や技術の発展によって新鮮な食材も手に入りやすくなっていますが、昔は作物なども育ちにくくドライフルーツなどは高品質です」
「へぇ、ドライフルーツですか……美味しそうですね」
「そうだね、そうだね。このチョコレートは前にボクが来たときは無かったぜぃ」
「ジュティア様の仰る通り、こちらは最近販売を開始した新作です……よろしければ、試食を」
優し気な微笑みを浮かべたエリスさんが軽く店員に指示を出すと、ほどなくして試食用のチョコレートが運ばれてきた。
高級店というだけあって、見た目も華やかというかかなりお洒落でセンスのいい感じだった。お言葉に甘えて試食してみると、チョコレートの中には細かく刻んだドライフルーツと甘酸っぱいフルーツソースが入っており、一口食べると口の中に果実とチョコが美味しく混ざり合った味が広がる。
「……美味しいですね。爽やかな味わいで後味もいいですし、ドライフルーツの味も思った以上にしっかり感じられます」
「なるほど、なるほど……通常の方法じゃなく魔法で瞬間乾燥させてるんだね」
「仰る通りです。瞬間乾燥を行う特殊な魔法具をもちいて作成したドライフルーツを使用しています。原価が高くなってしまうのが欠点ではありますので、当店のような高級店でないと使うのは難しいですが……」
なるほど、高級店というだけあって本当に素材から製法まで拘り抜いて作っているのだろう。実際このチョコレートはかなり美味しいので、いくつか買って帰ろうと思っている。
そしてその後もジュティアさんと共に、エリスさんにいくつかのチョコレートを紹介してもらいつつ買い物を楽しんだ。
ディア・ロイヤルチョコレートの店での買い物を終えて、いちおう近くの場所を転移魔法具に登録した後でジュティアさんと一緒に家に戻ってきた。
「ジュティアさん、付き合ってくださってありがとうございました」
「いいよ、いいよ、気にしないで……というか、本当にボクはなにもしてないしね」
「いえいえ、一緒に買い物できて楽しかったです。あっ、そうだ……もし時間があるならお茶でもいかがですか?」
「お? いいね、いいね、それじゃあせっかくだしご馳走になるぜぃ」
たまたまエリスさんが居たので助かった部分もあるが、ジュティアさんが一緒にいてくれたのは本当に心強かったというか……やっぱりまだ、ああいう高級店には若干身構えてしまう部分もあるのでひとりで行ってたらもっと緊張していたと思う。
そんなわけでお礼も兼ねてジュティアさんをお茶に誘うと、ジュティアさんは嬉しそうな笑顔で了承してくれた。
そういえば何日か前にカナーリスさんが、もう少し先に販売予定の新作の紅茶を紹介してくれたっけ……量に余裕があるなら、せっかくジュティアさんが来てるんだしそれを出したら喜んでもらえるかもしれない。
シリアス先輩「さらっと装填される胃痛の次弾……」