デート計画実行③
デートの事前情報を調べるつもりで雑誌を見ていたら、高級チョコレートショップに買い物に行くことになったわけだが……まぁ、デートの下調べにもなると思えばいいかもしれない。
というか、事前に一度交易都市を訪れて転移魔法具に場所を登録しておけば、当日がかなり楽になる。行ったことが無い場所なので、本来なら一度アルクレシア帝国の首都を経由して転移ゲート、或いは転移屋を利用して移動することになるのだが、今回はその辺りも問題ない。
「それじゃあ、それじゃあ、準備がいいなら出発するぜぃ」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃ、少し体に触れるね」
今回はジュティアさんに紹介してもらう形になっているので、転移魔法が得意なジュティアさんが連れて行ってくれるため、首都を経由したりしなくても直接転移できるので楽だ。
ジュティアさんが軽く俺に触れて足元に魔法陣を出現させると、一瞬で景色が切り替わって目の前には目的の店らしき建物が見えた。
「お、おぉ、この街って初めて来たんですけど……赤レンガが綺麗ですね」
雑誌の紹介などで、この街は赤レンガの大通りがあって、そこが観光スポットとして有名だと書かれていた。読んだ雑誌には写真は使われておらず、絵で描かれていたのだが……その絵のまんまというか、どこかノルスタジックな雰囲気がいい感じだ。
「そうだね、そうだね。この都市は全体的にこういう雰囲気で、照明魔法具なんかもあえて光量が弱いものを使ってるみたいだね。落ち着いたいい雰囲気だぜぃ……おっと、それじゃあ、それじゃあ、店の中に入ろうか」
「あ、はい」
美しい赤レンガの通りをのんびり歩くのも楽しそうだが、それはデートの時にとっておこう。とりあえず今回の目的のチョコレートショップに入ることにした。
やはりかなり高級店らしく、入り口の扉も非常に豪華であり、扉を開けて中に入ると入り口の脇に待機していた店員が近付いてきて深く頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいませ。大変失礼ですが、会員証の確……」
「おやおや? おやおや?」
「どうかしましたか?」
「……あっ、い、いえ、失礼いたしました! た、大変恐れ入りますが、会員証の確認をさせていただいてもよろしいでしょうか? あ、も、もちろんお持ちでなくとも構いませんし! その場合は直ちに会員証をご用意させていただきます!!」
落ち着いた洗練された雰囲気だった店員さんだったが、俺の顔を見た瞬間見るからに焦った表情に変わって、慌てた様子で会員証が無くてもすぐに用意すると口にしだした。
これは、もしかしてアレだろうか? エリスさんがオーナーということだし、俺に関して店員にも話が通ってるのかもしれない……なんか、アルクレシア帝国に関してはエデンさんが大分キツメに脅しをかけたって噂だし、その辺りも関係しているのかもしれない。
「会員証はボクが持ってるぜぃ。それでね、それでね、カイトのことを紹介したいんだけど……この感じだと、その必要はなさそうだね」
「ありがとうございます、ジュティア様。確かに、確認させていただきました。ミヤマカイト様の会員証は直ちにご用意させていただきますので、どうぞお買い物をお楽しみください」
やっぱこれ、完全に俺のこと知ってるっぽい感じである。フルネームで名前呼んでるし……ま、まぁ、とりあえず入ることは問題ないようなので、ジュティアさんと一緒に店内に入ってチョコレートを見ることにした。
けど、凄いな……ちょっと訳の分からないぐらい高級店オーラが凄まじい。チョコレートのサンプルっぽいのが、まるで芸術品を飾るみたいに展示されてるし、値段も一粒で10R……日本円にして1000円越えとかがごろごろしてるし、高いのは一粒で数万とかだ……なんか金箔みたいなの振りかけてあるというか、チョコレートが金ぴかなのもある。
「これ、ボクがいなくても大丈夫そうだったね」
「いや、まさかこんな感じになるとは予想してなかったですし、それに紹介は別にしても高級店オーラに気圧されそうだったので、ジュティアさんが一緒にいてくれて助かってます」
「そうかい? それなら、それなら、よかったぜぃ」
実際この店にひとりで来てたら完全に気圧されていたと思う。最近たびたび高級店にも意識して足を運ぶようになったとはいえ、まだ全然慣れてはいないのだ。
知り合いが傍にいてくれるというだけで、非常に心強い。
快人とジュティアが店内を見て回っている時、なんの偶然か店の奥には偶然視察に訪れていたエリスの姿があった。
店内を軽く見た後で、数か月間の売り上げの推移や商品ごとの売れ行きなどの書類を確認しつつ、優雅に紅茶を飲んでいたエリスの下に、慌てた様子で店員が駆け込んできた。
「お、オーナー!? 大変です!」
「どうしました? なにか、トラブルでしょうか?」
「み、ミヤマカイト様と大樹姫ジュティア様が来店されました!」
「…………え?」
完全に一時停止状態となったエリスの頭が、状況を理解するまでに少々の時間を要したのは言うまでもないことである。
シリアス先輩「一般店ならともかく、貴族向けの高級店とかだと顔を知られてるのか……貴族の後継者争いとかに絡まない子供が店員として働いてたりとかのパターンもありうるし……なんにせよ、エリスだけでなく店員と合わせて、初手二連胃痛は流石の名手」